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 騎士たちが各々の仕事始めるまでの間にルフェは街の中に戻って屋根の上に取り残したアイネを地上におろす。当然だが屋根の上に取り残されたアイネは降りることもできずに待つだけ、そんな状態で放置されれば怒る。


「聞いてるルフェ!?」

「ああ、うん、聞いてる……」


 現在進行形で。ルフェもちゃんとアイネの話を聞いてはいるが返事が生返事なように聞こえるせいでどんどんヒートアップする。傍から見れば痴話喧嘩のように見えなくもないかもしれない。

 しかし今は本来そんなことをしている場合ではない。入り口から王都内部に侵入しようとする騎士たちの相手をしていた魔物たちは排除されたがそれ以外に関してはまだまだ王都内部に残っている状態だ。王都内部を荒らすように中に入りこんだ魔物たちは道に沿ってその流れのまま建物や人など襲いながら突き進んでいる。ただ行けるがままに進み目の前の現れた物を攻撃するのみ。魔物の生き方としては正しくあり、同時に魔物としてあまりにも攻撃的すぎる。

 そんな魔物一匹が王都内部を駆け巡った後、ルフェ達の近くに戻ってきた。その魔物に追われて先に人々が逃げてきており、それに巻き込まれないようにルフェはアイネを連れ近くの建物の側による。


「ちょ、ちょっとこれってどういうこと!?」

「魔物が街中に入りこんでる」

「っ!? 何が起きてるの!?」


 アイネが叫ぶように言う。なかばアイネも混乱気味である。いきなり抱き上げ連れていかれそのまま屋根の上に取り残されたのである。事前の説明もなくルフェもそれっぽいことを言ったくらいで特に何が起きたかを語っていないまま行動したわけである。


「魔物が入りこんでる……? もう、ルフェだからそれがわかるのはいいけど……」

「あー、近くに来てるな」

「え!? ちょ、ちょっと逃げないと……!」


 そんなことを話している間に魔物がすでに近くまで来ている。黒い毛並みを持つ大きめな狼。体の各部から棘を生やした異様な風体である。その一部には建物の一部やその辺りにあった色々なものの一部、そして人の一部などが突き刺さっている。それが人を追ってやってきて、今もその向かう先に残っているルフェとアイネに襲い掛かる。


「きゃあああっ!!」


 襲い掛かってくる魔物にアイネは叫びをあげる。それに対しルフェは涼しい顔で拳打を繰り出し狼を叩き落とす。


「ふっ!」


 そして地面に落ちた狼を思いっきり街の入り口の方へと向けて蹴り上げる。蹴り上げられた狼はそのまま空高くまで吹き飛んでいった。アイネはそれをぽかんと見ているだけである。ルフェの実力に関してはアイネも理解しているはずだが、やはりそのありえないような光景を目の前で繰り広げられれば驚くままである。


「ル、ルフェ?」

「魔物はぶっ飛ばしたからもう大丈夫だ」

「ああ、そ、そうね……」


 素直に喜んでいいところではあるが、アイネは戸惑いの方が強い。


「と、とりあえずどうするの? 宿に戻る?」

「……まだ魔物が王都内にいるからな。安全な場所は無いってことになる……いや、そうか全部倒せばいいのか」


 そう言ってルフェは地面にしゃがみ込み、ばりんと地面を割る。王都の地面は石材を敷き詰めた石畳に近いものでそこそこ硬質である。ルフェが殴りつけ石畳はひびが入りその衝撃のまま細かな石片と小さな石片、そしてある程度の大きさの石片が出来上がる。


「ルフェ!? そんなことしたら怒られるわよ!?」

「今は非常事態だし魔物がやったことにすれば問題ないだろ」


 問題ないかどうかというとルフェに降りかからないだけで問題ではある。しかしルフェにそういうことは関係ない。ルフェが現状最優先することはアイネの安全確保である。そのまま作り上げたある程度の大きさの石片を手に持つ。力という点においてはルフェの力は尋常ではない。しかし物理法則を無視できるわけではなく、その手の大きさでは持てる物の大きさは限られている。なので片手に三つずつの六個ほどの石片を持つ。


「それどうするの?」

「投げる」


 そう言って地面を軽く蹴るようにしてルフェは跳びあがる。その高さは王都を見下ろすことのできるほどの高さであり、王都の端の方まで見渡すことができるだろう。今下を見ればアイネが飛びあがったルフェを見て叫んでいるのが見えるかもしれないが、それは今はどうでもいい話である。空高くまで跳んだルフェは魔物の存在を目視する。


「やっ! らっ! りゃあっ!」


 投げること六回、それは遠くにいる魔物に向けて流星のように飛んでいき魔物を撃ち抜きその先にある石畳を破壊する。同時に投げた石片も破壊され、投石されたことも不明なまま突然魔物に穴が空き死んだものと見えるだろう。石畳の破壊痕も魔物がやったものと思われるだけだろう。そのあたりはルフェは後のことを意図しているのかしていないのか。

 そのままルフェは地上に落下する。その側までアイネが寄ってくる。いきなり高所まで跳びあがり落下してきたルフェにお怒りな様子である。


「ちょっと! ルフェ!」

「え?」

「え、じゃないわよっ! いきなり何してるの!? 落ちてきて心配だったわよ! 本当に怒るわよ! いい加減!」

「もう怒ってるよな」


 誰が見てもどう見ても怒っている。アイネとしては色々とルフェに言いたいことがあるが、その言葉が色々と口の中でぶつかり合って何から言えばいいのかと思考が混乱状態である。


「アイネ、ごめん」

「何よ!?」

「まだ二体のこってるからそっちの方を始末してくる。城が邪魔で攻撃できなかった」

「はい?」

「じゃあ!」


 そう言ってルフェはアイネが何かを言う前にその場を去る。完全にこちらに連れてこられた上に置いてきぼりにされたアイネ。


「ルフェーっ!!!」


 叫んだところでルフェは戻ってくることはない。アイネはここに来る前に荷物を持たされている。ルフェの持っていた分を含めた荷物は結構な重量であり彼女でも運べないわけではないが、しかし結構な量と重さゆえに時間がかかる。また疲労もする。どうするか、ルフェが戻ってくるのを待てばいいのかどうかと考え彼女はとりあえず暫くその場でため息をついて佇むだけで会った。






「御婆ちゃん!」

「あらリルツェ。そんなに大きな声で一体どうしたのかしら?」

「そ、それが……」


 リルツェはクレアマリーに現状を説明する。王都の入り口方面から魔物が侵入し、それから逃げ惑う人々などで騒動になっていることを。虹烏の旅亭はその侵入し来たところから遠くはあるが、人の逃げる経路からこの方面まで来る可能性は低くない。そうでなくとも魔物の侵入となればそれ以外の様々な騒動もあるだろう。宿という場所にとっては客の存在もある以上、そういった時の対処は必要である。


「なるほど。道理で騒がしいことになっているのね……まずリルツェは客に現状の説明と、避難指示をお願いするわ。魔物と言えど簡単にここに侵入してこないでしょう」

「は、はい!」

「……あの子にはまだ避難指示に関しては説明していないわね。急に何かが起きた場合にどうするかについては先に教えておくべきだったかしら」


 クレアマリーはアイネにこういった危険時の対処に関しては説明をしていない。宿として必要な知識ではあるが現状アイネは宿の客と直接相対するような立場ではなく主に買い物など外に出る仕事や本当に内々で行う仕事などを主にしてもらっている。ある程度慣れたとは言えどもいきなり接客させるのはいささか不安があるためである。


「アイネさんはルフェさんが一緒だから多分大丈夫……だと思う」

「ああ、そうね……あのとても力の強い子が一緒なら守ってくれるでしょう」


 ルフェがアイネを守るのは普段のアイネに対するルフェの接し方から当然と思われる。そもそもなぜくっつかないのか謎なくらい二人は仲がいいのだからそういう危険時に男の甲斐性として女性を守る盾になるのは普通であると考えられるだろう。彼女らがルフェの実力を知っていればもはや心配すらしないレベルの安心感を持っていたかもしれないが、彼女たちがルフェのことを知っていても現状は伝聞のみでそこまで信じられることはないだろう。

 リルツェは宿に残っている客に現状の説明と急遽の避難誘導の簡単な集合を行う。クレアマリーは残っている客の確認をリルツェに任せ先に集まった客を伴い安全箇所へと避難を行う。リルツェは残っている客がいないかの確認、およびそれぞれの部屋の戸締り。台帳をまとめ宿の戸締りをきちんとする。危険ではあるがそこそこの老体であるクレアマリーよりもましだろう。裏口を閉めたりする必要もあり、最終的に入り口の戸締りになる。


「ふう……これであとは閉めて」


 裏口も戸締りをし残りは入り口のみ、そんな状態になり外に出て鍵をする。そうしている間に、危険は間近に存在していた。


「っ!?」


 魔物、薄っすらと地面に同化しているように見える虎の魔物である。この魔物の移動速度はそこまでではないが、その同化能力を使いある程度周囲と同化し見にくくなる。流石に魔物が間近にいればリルツェも気付くがこの擬態のせいでかなり近づくまで気づかなかった。そしていきなり襲い掛かられる。流石にいきなり噛まれるということはなかったが上にのしかかられ、その巨体で押し潰されそうになる。そうでなくとも爪などに引っかかり肌に傷、服などが破れかねない状態である。


「あ……」


 リルツェは死を覚悟する。流石にこんな状態から魔物に襲われず助かる手段はないだろう。魔物は目の前の獲物を襲い殺し喰らう、そんな存在なのだから。ぎゅっと目をつぶり、その牙が自分に迫るその瞬間を待っていた。怖い、そんな感情に満たされながら。

 しかしその瞬間は来ない。来る前に体の上に乗っていた巨体がいきなり前方へと吹き飛ぶのがわかった。そして前の方を飛んでいく虎の魔物の姿も。


「いっ……え?」

「大丈夫か?」

「……ルフェさん?」


 目の前に立っている男性の姿、リルツェの上に乗っていた魔物を蹴っ飛ばした存在、すなわちルフェである。

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