☆1-8 血まみれの熊
悪魔の仕業、というと?
「ええーとですね。まず、力の多い人間の所持品、特に身につけている物には、魔力が「宿り」ます」
金属に磁石をくっつけているとその金属自体が磁力を持つような感じか。
「全く仰るとおりです」
つまり、魔力の移った雑貨や携帯を集めている悪魔がいるってことか。
以前ジェシカさんは、悪魔は人に取り憑いて魔力を奪う。というようなことを言っていたが、弱い悪魔が僕のような魔力の多い人間に取り憑くと、耐えきれずに消滅してしまうとも言っていた。
だとすれば、一般人に取り憑くこともできないような、超弱い悪魔の仕業、ということになるな。
「いえ、その可能性は低いです。悪魔は基本的に人間が作った物に触れられないので、ある程度力のある悪魔が配下の悪魔に命令して、集めていると思われます。まあ、悪魔の仕業だったら、ですけど」
なるほどな。
それなら、囮か何かを使って盗んだ奴の後を付ければ、そいつらのボスのところにいけるってわけだ。
「まあそうなりますね」
なら、いいものがある。そうと決まれば、徹底的に追い詰めて、絶対捕まえてやる。
この時の僕は、なぜか意気揚々としていた。女子とのお茶、という任務を遂行して少し調子に乗っていたのかもしれない。
ジェシカさんは、何も言わなかった。
「…」
◇◇◇
翌日
「おおー!早速作戦を考えてきてくれたんだね!」
「成功するかはわからないけど、一応ね」
作戦に関しては、昨日ジェシカさんと話した内容とほぼ、というか全く同じ。
囮にするのは僕が持っているキーホルダー。
僕が中学に上がった頃に妹が作ってくれたもので、プラ板に、デフォルメされた血まみれの熊がデザインされている。
特に思い入れがあるわけでもないが、なんとなくずっと付けている。
いや、思い入れがない、なんていったら嘘になるけど、とにかく僕は、これをずっと持っている。
「ふむふむ。つまり、差滋君の統計によると、次は私達の教室にあるものが盗まれるってわけだね!でもいつの間に統計なんかとったの?」
「カズにそれとなく聞いたら色々おしえてくれた」
統計をとったというのは嘘。
カズに聞いたというのも嘘。
中村さんには嘘をついてばっかりだ。嘘をつくことに抵抗が無い訳ではない。でも今は、こうするしかないんだ。まるで自分にも嘘をついているみたいで、イヤになった。
「そっかー。鳴上君友達多いもんねー。あっ!別に今のは差滋君に友達が少ないとかそういう意味じゃないからね!」
ありがとう。中村さんの気持ちがよくわかったよ。
◇◇◇
放課後
僕は教卓に隠れていた。
ほとんどの人が部活やらなんやらに行っていて教室には誰もいない。狙うなら、この時間だと思った。
キーホルダーは、僕の机の上においてある。
しかし、中村さん遅いな。
約束の時間はとっくに過ぎてるのに。
「…」
誰かが教室に入って来た。
さあ盗め。僕のキーホルダーを。
ところが足音はこちらに近づいてくる。
気付かれたか?いやそんなはずはない。
「ごめん!お待たせ!」
中村さんだった。
ホッと胸を撫で下ろす。
「それより聞いて!あのね!あのね!真犯人が見つかったの」