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火と氷の未来で、君と世界を救うということ  作者: 星見航
第6章:神剣奉納祭 【2029年8月8日】
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第50話:逆流

挿絵(By みてみん)


「おじい様! ぜひ、もう一度、実験に付き合ってください!!」

理系女子(リケジョ)魂に火がついた十萌さんは、まるで噴火のような情熱でおじいちゃんに迫っていく。


「お、おう」

 押し切られるようにおじいちゃんが応じると、十萌さんはテキパキとスタッフたちに指示を出し始める。


 ――10分後。

 十人ものスタッフの手によって本堂に運びこまれてきたのは、見覚えのある巨大な物体だった。


「こ、これって、島から持ち帰っていたんですか?」

「当たり前じゃない。作るのどれだけに労力がかかったと思っているのよ」

 十萌さんが笑う。


 それは、三式島の研究所の地下で見た、5メートル級の巨大アバターだった。

 今まで、誰一人として、寸分たりとも動かせなかった代物だ。


 十萌さんが改めて、おじいちゃんに向き合い、頭を下げる。

「これを、おじい様に動かしてほしいんです!」


 先走る十萌さんに、おじいちゃんが怪訝な表情をする。


「動かす?」

 5mのアバターは、1トン以上はあるだろう。

 とても、人一人の力で持ち上げられるものではない。


 そこからさらに30分かけて、十萌さんは、アバターの操作方法についてみっちり説明をした。


 脳波のしくみ、アバターの操作方法、三式島での実験結果などを、情熱的に語り尽くす。……けど、話せば話すほど、おじいちゃんの困惑が色濃くなっていく。


 そして全部聞き終えたとき、こう言い切った。


「全くわからん!」


 ――ま、まあそうだよね。

 わたしも少しだけがっくりしつつ、心の中では納得していた。


 わたしだって、正直、今だに仕組みが良く理解しきれていない。

 それが、スマホさえ使っていないおじいちゃんに、脳波だのAIだのアバターだの言っても、ピンとくるはずがない。


 気落ち気味の十萌さんを見て、おじいちゃんは言葉を継いだ。


「ま、でも要は、その大きいのと、一体化して動かせばいいってことだな。やってみようか」


 **********


「おじい様。今から、脳波測定を始めます」

 十萌さんが、VRゴーグルを装着した、おじいちゃんに伝える。


「ではまずは、アバターと一体化してみてください」

 と十萌さんがが言う。


 おじいちゃんが座禅する。

 期待が、否応なしに高まる。


 でも、1分たっても、2分たっても、アバターは全く動かない。

 ……というか、おじいちゃん自体も、座禅の姿勢からピクリともしない。


 ――も、もしかして寝ている?

 そう疑い始めたとき、十萌さんが驚愕の声を上げた。


「あ、ありえない!脳波伝達率が、マイナスに反転している」


 ――マイナス?


 今まで、脳波伝達率は、どんなに低くても0%だった。


 当たり前だ。

 どんな難しいテストでだって、0点より下にはならないはずだ。


「脳波が、逆流している……」

 十萌さんは、猛スピードでキーボードを叩きながら緊迫した声で言う。


 わたしの緊張も一気に高まる。


「ぎゃ、逆流すると、一体、どうなるんですか?」

 わたしは、十萌さんを問い詰める。


「分からない。最悪なケース、アバターに思考を操られることあり得るかもしれない。普段、わたしたちが、アバターを操っているように」


 ――え?


「早く実験を中止してください」

「今、やっているわ! プログラム停止まで、あと49秒」


「おじいちゃんのVRゴーグルのコードを引っこ抜いたら!?」

「急に物理的に止めたら、危険があるかもしれない。まずは、おじいちゃんに意識があるかを確かめて」


 わたしは、座禅の姿勢のままピクリとも動かない、おじいちゃんのもとに駆け寄る。

 

「おじいちゃん、聞こえる? わたし、リンよ」

 反応はない。


 瞳孔の反応を見ようにも、顔がVRゴーグルに覆われて見えない。


「おじいちゃん、返事して!おじいちゃん!!」

 わたしは必死で呼びかける。


 ――すると。

「やかましいのう。ちゃんと、聞こえとるわい」

 と、おじいちゃんがいつものマイペースな口調で答えが返ってきた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ――よ、良かった!

 私たち全員がほっと溜息を漏らす。


 十萌さんも、明らかに緊迫した表情が和らいでいる。

「伝達率、0にまで戻ったわ」


 一瞬だけ危惧した、”謎のアバターに、おじいちゃんの頭脳を乗っ取られる”という、悪夢のような事態は避けられたようだ。


「さてと。それで、この”あばたー”とやらを動かせばいいんじゃっけ?」


 ようやく落ち着いた十萌さんが答える。

「あ、はい。ただ、ご無理はなさらずに……。休んだ後でも」


()()()()()()()()()での。今、やっとくよ」

 そう言うと、「よっこいせ」と立ち上がった。


 わたしたちは目を疑った。

 誰ひとり動かせなかったがあの巨大アバターも、あっさりと立ち上がったのだ。


 「立った……」

 まるで我が子が初めて立ったのを目撃したかように、感極まった様子で十萌さんが呟く。


 しかも、あんなにも自然で滑らかに。

 修行のとき、夢華のアバターも、こんな風にスムーズに動いていた。


 だけど今回は、その3倍の5メートル級アバターだ。

 動かすには、遥かに強い脳波と、高い伝達率が必要となるはずだ。


「脳波伝達率、いくつですか?」


 ――こんなにも自然に動いているんだから、もしかして80%以上に到達しているかもしれない。


 十萌さんは、もはや驚きを隠さずに言った。

「脳波伝達率、162%。()()()()()()()()()()()()()()()()わ」


挿絵(By みてみん)

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