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:西の偽善者と光明戦線説7

「神風天城……。まさかまさかぁ? 西蘭国境戦線の隠裏狙撃者(バックスナイパー)だった? なんでそんな人間がこんな腐りかけた国で、バーテンダーやってんの…?」

「貴方に話したところで、意味はないかと思いますが…?」

「意味ないどころか、ぜーんぜん聞く気も理解する気もないけんねー! 上司部下同士、自分自身に殺られちゃえばー!?」

シエラは掌から影を溢れさせると、作り出したのは、言葉通り、宮路と澪の影だった。

「…神風。付き合う」

「隊長…!? いけません、まだ!」

「バーカ、俺はもう隊長じゃねぇよ。ただの乱闘好きな野蛮な女さ。混ぜてくれ。もう慣れた……」

装備の一つを外すと、二丁に分離し、構えた。

「……解りました。しかし、貴方には援護に回ってもらいます。宮路さん」

「Ja! 任せな!」




「容赦しない、ねぇ…? こっちはスタンバってるよ? どっからでも来な」

「行くぜお兄さん!!」

ギドは血を散らしながら、血塗れたリヴォルバーに弾を込め、発砲した。

「……!?」

アギトは見た。弾がどんどん増えていくのを。蜘蛛の巣のように広がるそれが、迫ってくる。

「スパイダーバレット!」

張られたのは、蜘蛛の巣。否、着弾点から伸びる、謎の黄色い線。

「……? トラップライン? やっすーい」

アギトが手を上げると、壁から石で出来た角が無数に出てくる。

「安いかい? その電熱線が!」

「……!!?」

弾が黄色い線を引き連れ降りてくる。

「ヴォールビ!!」

弾が光る。その瞬間、アギトの目にも電流が見えた。

「やっすーいってーの!」

アギトの頭上が光る。弾はピタリと止まった。

「ワイヤーネット。お次はこっちだぜ?」

アギトが掌を返す。その合図に、石畳が全てひっくり返り、ギドはその場に転ぶ。上に影がかかり、上を見上げると、建築現場にありそうな、コンクリートの塊が降ってきた。

「釣瓶落とし」

「っめんなぁ!! グレネードショット!!」

一発の銃弾でそのコンクリートを砕くと、身体を起こし、足をバネにしてアギトとの距離を詰めようとする。

「折半橋」

地面が折れた。そのバランスを崩した所を狙う。

「アイアンメイデン」

崩れた石の先端が尖り、ギドを囲む。避ける術なく、ギドは心臓を守るように腕で庇う。至近距離にも関わらず、石の先端は勢いを付け、足や腹、腕に刺さる。

「く、ぅ…!?」

「アイアンメイデンは急所を外すように出来てる拷問器具だ。どうだい、『鉄の処女』の味は」

「っせぇ! マリアテル!!」

まだ刺さっている状態で、ギドは発砲した。加速性の銃弾は、通常の弾より何倍も早く、アギトの腕を貫通する。

「…ってぇの。…ランチャー」

石の礫が空中に浮く。無数に。

そして一気にギド目掛けて発射される。

「他力だなお兄さん」

スティックタイプの手榴弾のピンを外し、向かってくる礫の一つに叩きつけ、バックステップで距離を取る。

−−−ドンッ!

すぐさま爆発し、アギトも爆風から目を守る。石の銃弾は粉々だろう。爆風の中、発砲音が聞こえるが、いずれも当たっていない。アギトが目を開けると、爆風の中からギドが現れ、手が伸びてくる。

「……!?」

「もらったぁ!」

「針山!」

あと少しというところだった。ギドの前腕を五本の槍が貫いている。

「惜しかったな」

「バーカ、腕は犠牲となったんだよ!」

二人の回りが光る。

「……!!?」

「不思議の世界へごあんなーい。バレットトリックルーム!」

アギトが光の方へ目を向けると、そこには弾丸の跡。

−−−まさか、さっきの発砲音は…!

あまりの光の強さに目を閉じる。




「やーらーれーたー!!」

『やられてません! 近くに着弾しただけです! ……っていうかこのネタ、解る人には解ってしまいます!』

冥利が壁に刺さった氷柱を見る。

「其処許ら、やる気はあるのか。あくびが出るぞ」

雪代は吹雪を纏いながらあくびを漏らす。馬鹿にした姿勢だ。現実、冥利たちは押されている。

「我儕の式呪は、時間が経ってから効力が出る。…犬の。其処許のは陰陽式の中では外道の部類だろう。師は誰だ」

『誰でも良いでしょう。敵に情報を喋るなど、そんな事は致しません。貴女の後効果式も、本来の陰陽式の術式とは異なるものでしょう。実に興味がありますが、今はそれどころではないので……』

足を前に出すと、五茫星の印から、小太刀を取り出し、口に加えた。

「冥利、あの雪女、なんとか出来ない?」

『手はあります。姉上……』

「りょーかい! いいよ、やったげる!」

煉影は鎖を胸の前で、ビンッと張ると、鎌を構えた。

「主人が待ってる! 早く行かなくちゃ!」

『えぇ。手遅れになる前に…』

「何をごちゃごちゃ抜かしている!!」

吹雪が吹き荒れる。二人は左右に別れ、煉影が雪代の腕を取る。

「っれ!」

引っ張ると、雪代がバランスを崩す。

「小癪な……!! 金・夭!」

「っぶないなぁ!! 雪女!!」

鎌で接近戦に持ち込むと、雪代はかわすのが精一杯だ。

「獣臭い小娘が!」

「煩い! 妖怪なめんな!!」

鎖を手首に絡まさせると、雪代の身体を建物の壁に叩きつけた。雪代の意識が朦朧とする。まだピントが合わない視界の中で、雪代が見たのは、黒い影。

「冥利!!」

『えぇ!!』

「……!!?」



「−−−−−−−!!!!!!!!!!!!」



「……!!? う、わ……!!? あぁ……!!!?」

雪代が頭を抱える。

とんでもない遠吠えだった。

あまりの大きさに風が押し寄せ、壁にめり込む。

しかし、どうにも響きすぎている。雪代は自分の横に目を向けると、ナイフに刺さった札が目に入った。

−−−結界…!?

結界内が狭いせいで、声が四方八方に跳ね返り、音量が下がらない。

「小賢しい……!! 槍吹雪!!」

札を一つでも壊せば、結界は破れる。すぐさま横の札を狙った。

が、雪代は目を疑った。

札がなくなっている。つまり、結界は解けている。が、音は回り続けている。

雪代が目線を前に戻すと、目の前には、大太刀を構えた少年がいた。

「…御免」

少年が太刀を振り下ろした。




「五分五分って、マジでぇ……?」

シエラは高見の見物をしていた。

が、二人のガンナーの戦闘状況に、息を呑んでいた。

宮路が澪の影の相手を。澪が宮路の影の相手をしていた。お互いの流れ弾をかわし、背中を預けつつ、二丁拳銃で戦っている。掠り傷一つしてないのを見ると、気持ち悪い。

「っべぇなぁ!! お前最高だぞ神風!!」

「ハッ! 良き評価賜り、光栄であります!」

「離れねぇな、陸軍式口調!!」

しかも楽しそうだ。

シエラは「えー…」と、流れ弾をかわしながら驚く。

「もーらいっ!!」

影に入り込むと、澪の心臓を撃ち抜く。

「そこっ!!」

澪も、宮路の影の心臓を撃ち抜く。

「「チェック!!」」

「あ……」

お互い顔を見た。

「いや、今でも癖でな……」

「俺はつい……。隊長との戦線で…」

「さて、と……」

宮路が後ろを振り向く。雪ウサギのような真っ赤な瞳。シエラは冷や汗を流す。

「やぁっと、お前のケツ蹴り上げられるぜ。感謝しな、神風に」

「え、えぇ!? マジで蹴り上げる気なの宮路お姉さん!!? やめてよ、俺の骨脆くてさ、すぐ折れてつまんないよ!!?」

「バッキバキに砕いてやんよ♪」

「鬼だよお姉さん!!」

護身用の拳銃に手を伸ばす。影はまだ出せるが、力が底を着きそうだった。

「…アギトぉ……」




アギトの目の前には、実に現実味のない空間が広がっていた。目の前には、ギドがニヤリと笑みを浮かべている。

「ようこそ、バレットトリックルームへ」

「……? トリックルーム?」

「トリックっつっても、この空間は、一切の小細工はおろか、異能力(スキル)も魔術も術式も使えない。馬鹿正直な空間だ」

アギトは試しに、異能力(スキル)を発動させようとすると、まったく反応しない。

「だが、トリック……」

「…!!?」

背後からのギドの声。振り返ると、ギドが天井に足を着いて立っていた。しかし、服や髪の毛は重力に逆らっている。

「こうやって…」

部屋の隅。

「いろんな所から……」

左脇。

「相手の視界を乱すことも」

『可能ってワケ♪』

「………!!?」

ギドの声が重なる。アギトは辺りを見渡した。

「ま、お兄さんとするのは、まず、話し合いなんだけどね……?」

「話し合い…? この状態でする気か?」

「まっさかぁ。そこはちゃんとするって」

目の前に、正しく重力に習ったギドの姿があった。アギトは一応護身用の拳銃に手を添えながら身構える。

「で、話し合いってなんだよ、あんちゃん……」

「なぁに、簡単な話さ」

一歩足を踏み出し、妖しく笑う。

「和解交渉だよ」

アギトはぽかんとした。

「反発し合う者同士、ここで会ったのはきっと運命だろう? でも、俺は殺したくない。無駄な命を摘みたくないんだよ。異能力保持者(スキルホルダー)であろうが、ただの人間だろうが嫌なんだ。…だから、ここは背を向け合うってことで、どお…?」

そう提案してくるギドの表情に、アギトは見入る。

どうも怪しい。仮面でも付けているような表情。わざとらしいその笑顔は、「本心だよ」と、控え目にも訴えているように見え、アギトは口を開く。

「…偽善者」

ギドは笑みを崩さない。血に塗れた全身で笑っていた。

「……そうだよ。俺は偽善者だ。本心は命を摘む事に対して、弾が勿体無いとしか思ってない、な……。決裂か?」

「だな。仕事上の事情だ。おたくが『彼等』を守るなら、俺は『彼等』を殺めるのが仕事だ。…故に、おたくは邪魔なんだよ」

「そうか。……なら、馬鹿正直な空間で、最強の運試しだ」

ギドがリヴォルバーを出して、上に放る。ピタリと止まると、リヴォルバーが二人を囲むように増えていく。

計八つのリヴォルバーが、二人に銃口を向けていた。

「これはトリックじゃない。この空間に備わっている設備。元々、これをするためにここに呼んだみたいなモンだな……」

シリンダーが回り、リヴォルバーがルーレットのように高速で回って、ゆっくり止まる。

「…どれか一つに、弾が入ってる。確率は八分の一。計四ターンだ……」

「……おい、まさか…」



「……そうだよ。馬鹿正直な空間で馬鹿正直な、古典的な運試しロシアンルーレット。『八つの死に占い(デスアブストラクト)』……。一緒に鉛の味を味わおうぜ……?」


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