:北の偽者と光明戦線説8
「……『八つの死に占い(デスアブストラクト)』?」
「ロシアンルーレットだよ。いや、椅子取りゲームか? ま、どっちにしろ引き当てればパーンだけどな」
ギドは真ん中に向かって歩き出す。
「さぁ、始めようか。先手はくれてやるよ。どれがいい?」
アギトは取り巻く拳銃を見回した。そして、意外と早く指を指す。
「おたくの後ろにある拳銃で頼む」
「了解」
ギドは手をかざして、指された拳銃を移動させる。銃口はアギト一点だ。もし発射したらと、アギトは足に力を込めたが、身体が硬直した。動かないのだ。
「ちゃんと受けてもらわないと」
「なーる」
感心していると、発砲してきた。気付いた時には目を閉じてしまっていた。アギトが目を開けると、銃口からは細い糸のような煙が出ていた。
「セーフ、だな…」
「おたくと似てんな。まったく待ってくれねぇじゃん。…おかげで心臓に悪いぜ」
「そりゃどうも。……さてと…」
ギドも拳銃を見渡す。
「どれがいいかなぁ?」
「飛鳥樹君! お姉さん! これは酷いって」
「うるせぇ!!」
ライフルと二丁のリヴォルバーの銃口を向けられる。
「悪ぃな。さっきまでくたばりかけてたが、仲間が来た途端勝ち誇ったように元気になっちゃって。でも、部下との共同戦線ではっちゃけてんのも事実でなぁ」
宮路のその言葉に、天城こと飛鳥樹澪は宮路を横目で見る。
「隊長…?」
口角を上げて笑うと、爪先に力を込め、セーフティを外し、突っ込んだ。
「覚えってっか!? B-C3!!」
宮路に言われ、澪は頭を素早く回転させ、ライフルを構えながら横にずれて走る。
「…なに? …まぁ、とりあえず……」
両手から影を溢れさせる。そこから、宮路と澪の分身を作り出す。
「殺れ…」
分身は突っ込む。宮路は急ブレーキをかけて銃口を自分の分身に向けた。澪もまたライフルを分身に構える。
ただそれも一瞬だった。
すぐに方向転換した。
宮路は澪の分身に、澪は宮路の分身に銃口を向け、発砲した。弾道は完璧。一瞬で放ったとはいえ、弾同士は綺麗に行き交い、それぞれの分身のこめかみにヒットした。
分身は消えた。
「…やーん……」
「ほらほら、大量生産しろよ」
シエラは冷や汗を流した。が、笑う。
その場から軽やかに降りると、周りに飛んだ宮路の血を見た。それを指で取ると、その手から宮路の分身を出した。
「…一体だけか…?」
「うん。一体で充分だよ」
宮路は舌打ちすると、分身はマスケットを持って突っ込む。
「K-D4!」
宮路がバックステップ、澪が前に出た。澪はライフルを捨て、拳銃を向けた。しかし、マスケットの刃が飛んできて、発砲するタイミングがずれ、分身の腕を深く掠めた。
その時だ。
「が……っ!?」
声がしたのは後ろだ。
振り返ると、そこには宮路が腕を押さえて踞っていた。そこは、分身が受けた傷とまったく同じ場所。
「まさか……!」
「『ただ』の分身で勝てると思ったけど、駄目みたいだからさぁ? お姉さんの血、ありがたくもらったよ? ご提供どーもでーす」
笑顔で手を振るシエラ。
「分身を攻撃すれば、お姉さん本人にもダメージがいっくよー!? どうすんのどうすんの? 飛鳥樹くーん?」
「……!?」
「あぁあ。またセーフか……」
安心している。が、次に来るアギトは冷や汗だらだらだった。
既に拳銃は二丁、つまりは7セット目。
アギトは真ん中に立った。
「さぁ、どれにする? いや、どっちにする………?」
「いい気分?」
「実に」
アギトは無理矢理笑った。
慎重に。慎重にと、心を落ち着かせ、拳銃を睨んだ。
とくに目立ったことはない拳銃。他のことを考えてしまう。
名前は解らないが、見覚えがある拳銃は、チェコスロバキアが産んだ名銃。選ぶことを忘れ、名前を思い出そうとする。
「お兄さん…?」
「……あぁ、すまない」
ギドに声をかけられ、アギトは再び選び出す。
「なぁ、これ、何処に撃たれるの?」
「こーこ」
ギドを見ると、親指で左胸を指していた。
つまり、心臓だ。
「そういや、心臓は左胸にあるって言われてるけど、本当の位置は真ん中なんだよな。でも右の肺が大きいから、心臓が自動的に左に押されて、それで左にあるって言われてるんだって」
アギトはギドを見る。
「…知ってた?」
「いや? 俺は雑学に疎いからな。それに今の俺は、心臓どうこうより、出血多量で死にそうなんだけどね……?」
「あ、ごめん……」
アギトは目を戻すと、指差す。
「あれで頼む」
選んだのは右の拳銃だ。
「理由は…?」
「占いで今日は、運勢が右肩上がりだったから」
「なるほど」
「更に言えば右利き右投げ右打ち、右から攻められるから」
ギドは、まだ言いたそうなアギトの為に黙る。
「…つまり、俺が言いたいことは、これだけ呪い染みた『右』に呪われてる方が、逆に安全かなって。そう思っただけ」
「……理解した。じゃ…」
ギドは指を上げると、左の拳銃を自分の前に移動させる。
「おたく、なにしてんの?」
「俺は左投げ左打ち、尚且つ今日は運勢が左肩下がりだったから。それに幽霊は左から来るって言うし」
「………」
「一緒に受けてやるよ」
「どこまでも、おたくは偽善者だね」
「あぁ。無情で悪いね。…でもありがと」
「どう致しまして……」
そして、拳銃は発砲された。
「参ったか! 雪女!」
「姉上、黙って下さい」
冥利は太刀を担ぎ、倒れている雪代を見た。胸から腰にかけて斬られたそこは、かなりの致命傷だ。
「トリックだけ教えますね。まず、貴女を壁に追い込み、姉上が攻撃をしつつ、結界の符を張る。そして遠吠えの勢いとカモフラージュさせて、鎌鼬になった姉上が風を吹かせて、結界をとく。遠吠えを風に乗せているので、貴女はまだ結界の中だと錯覚し、結界を解こうと符を狙う。そこを私が狙った。それだけです」
「ざまぁ!!」
「姉上、煩いです」
冥利は続ける。
「貴女の仲間は、我々の主と交戦しているのですね…?」
「知るか」
雪代は一言そう言った。
「我儕は、其処許らの事しか言われていない……。ただ、オベリスクもニナも、顔に似合わず執念深いからな。その主を買い被るのもいいが、奴等の能力と体質殺られかけているのも考えられるぞ」
雪代の言葉に、煉影も冥利もまずいと顔を難しくする。
「姉上!」
「うん、冥利!」
踵を返すと、冥利は狼に姿を戻し、煉影が背中に乗る。
「匂いは?」
「認識済みです!」
「えらい!!」
その場を後にした。
消えると、残された雪代は、指先から凍りついて、やがてそれが全身にいたり、砕けて風に舞った。
「やれやれ。あんなのに騙されるなんて」
建物の陰から、白銀の髪の毛のボブに碧眼を宿し、黒のロングコートを羽織った小柄な少女がいた。
「ワンちゃんもイタチちゃんも馬鹿ねぇ。私はあんな年増じゃない上、郭言葉使わないわよ。シーちゃんの『偽影鏡』が、こんなにも役に立つとは……」
指笛を吹くと、二匹の白銀狼が並ぶ。
「さぁて、シーちゃんとアギトを迎えに行きましょうか」
「いいから撃てぇ!」
宮路は叫んだ。
「しかし!」
「俺はいいから分身を撃て! 死にゃぁしねぇよ!」
「いやいや死ぬって! 確実に死ぬからね、お姉さん!! だいじょーぶ! 骨は拾ってあげっからー!」
「黙れクソガキ!!」
既に宮路は流れ弾で、足や腕、腹を被弾し、出血が絶えない。
「神風! いいから撃て!!」
「出来ません! 俺にはそんな…!」
「お前なら解るはずだ!!」
妙に引っ掛かる言葉に、澪は黙った。
「軍の時の感覚が鈍ってんなら、いくらでも殴り撃てばいい! 思い出すまでやれ!!」
『隊長! このままでは仲間に被弾します!』
『解ってる! が、外れれば……!』
『どうされますか。敵戦線が!!』
『……神風! お前、走行不能になった戦車のタイヤ持ってこい!!』
「………!!」
何かを悟った澪を見て、ニヤリと笑う。分身がマスケットを発砲し、澪はライフルで弾き返す。その隙に宮路は立ち上がり、シエラを睨む。
「……?」
「おめめ失礼!!」
リヴォルバーをシエラの目に構えて、発砲。それはシエラの眼帯の紐を狙った。
「……つぁ…!?」
切れた眼帯を、距離を詰めていた澪がそれを掴み、また距離を取る。その隙を狙う分身。しかし、その腕を宮路が放った弾丸が貫く。
「てめぇはこっちだ!!」
目が赤い。
「慣れてきたぜ。もうよくなってきた…!」
流れ弾をかわす。それは時間稼ぎだ。
シエラが目を押さえて立ち上がると、澪が分身の背後でライフルを構えて立っていた。その目に、迷いはない。
「いいのぉ? 隊長死ぬよ?」
「あの影が人と同じであるなら、致命的な怪我を負えば、消える。そうでしょう?」
シエラは返さない。
「そうであるなら……」
澪は発砲した。それは分身が横を向いた瞬間、こめかみに当たった。
「「………!!」」
分身と宮路はその場に倒れた。
そして、間もなくして宮路の分身は消えた。まるで、宮路本人の死を意味するかのように。
「アハハ、マジで殺しちゃったよ飛鳥樹君! 最っ低だねぇ!! よくもまぁ惨いことが出来たもんだ!」
「あぁ……。いってぇ……」
シエラの声は止んだ。それもそのはず。
目の前で宮路が起き上がったのだ。
「は……? な、なんで生きて……」
「おんやぁ? 柄にもなくキョドってんなぁ。あのウザキャラはどこにいった?」
宮路は指に摘まんだ何かを見せた。
「ゴム弾だよ。眼帯からのご提供、ありがとうございまーす」
「ご、ゴム弾!!?」
「あぁ。被弾しても内出血で済むやつ。俺も今、脳内出血してると思うが残念。俺は『紅夜の使徒』だから」
「で、でも、眼帯からどうやってゴム弾を!? ただマガジンに詰めて発砲なんて!」
「ああ、それは」
宮路は澪を指差す。見た澪の手は、電流が走っていた。
「ま、まさか飛鳥樹君……」
「その素材から成る物を生成する能力『錬成書』。それが俺の所持能力です」
「さ、続きだ」
「あぁ。占いって意外と当たるんだな」
アギトはバレットトリックルームから抜け、空を仰いだ。そして、傍らで倒れているギドと、細い煙がたなびく拳銃を見た。
「…楽しかったよ。あんちゃん……」




