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幼馴染の陽向葵はポジティブがすぎる 〜ネガティブ男子がポジティブな美少女幼馴染を振り向かせるラブコメ〜  作者: 十色
第二章

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第9話 心の足跡【1】

「あーもう! したくないー! 勉強したくないんだけどー!」


 葵の家に帰ってくるや否や、僕達は勉強を始めた。わけなんだけど……葵は三十分程でギブアップ。そして床に寝転びながらばたばたと足を動かして駄々をこね始めた。いや、だからいつも早いってば。


「葵さあ。もうちょっと頑張ろうよ。赤点さえ回避できればいいんだから、そこまで難しいことじゃないでしょ」


「そんなわけないじゃん! 高校生になってから赤点しか取ったことがない葵様だよ? 舐めちゃいけませんなあ憂くん。ふっふっふ」


「胸を張って威張ることじゃないでしょ……」


 受験の時はあんなに必死に勉強を頑張ってたのに。海に行くというご褒美に、そこまで魅力を感じてないのかな?


「ねえ葵? 高校受験の時はあんなに頑張ってたじゃん? 何でだったの? やっぱり海より遊園地の方が良かったとか?」


 何気なく。そして、深い意味もなく。ただただ興味本位で訊いただけだった。


 だけど葵は、僕の質問を聞いて頬を紅色に染めた。


「え、えーっと……あ、あのね。あの時は、今の高校にどうしても入りたかったから頑張れたの。ゆ、憂くんと同じ学校に行きたくて」


「――え?」


 その言葉を聞いて、僕も一気に赤面した。


 鼓動が、高鳴る。


 この狭い空間の中、僕の鼓動音が響き渡るんじゃないかという程に、大きく。


 でも、そうだったんだ。今朝、僕が抱いた疑問は当たってたんだ。別に、葵は遊園地に行きたかったから勉強を頑張ったわけじゃない。


 ずっと、僕と一緒にいたいと思ってくれていたんだ。


「な、なんか熱いね」


 葵は両手でパタパタと仰ぐ仕草を見せた。


「ま、まあ、もうほとんど夏だからね。あ、暑いよね」


 この前の夜の時のように、お互いが背を向けて顔を隠すようなことはしなかった。


 今の僕達は、心を裸にして全てを曝け出そうとお互いに思っているから。


 *   *   *


「ね、ねえ憂くん? き、今日、このまま泊まっていかない?」


「え!? ど、土日限定にしたんじゃなかったっけ?」


「そ、そうなんだけど……。あ、あの、い、いい、一緒にいたくて。憂くんと」


 断る気分になれなかった。葵の表情が、とても寂しそうだったから。


「べ、別にいいけど。でも、なんで急に?」


「あ、あのね。勉強を頑張りたいから。海にも行きたいし。 でも、それって別に、海で遊びたいからじゃないの。憂くんと一緒の思い出を作りたかったから」


「そう、なんだ……。で、でもさ。勉強を頑張りたいってことと、僕が今晩泊まらせてもらうのって、関係あるのかな? 別に泊まったりしないでも勉強は頑張れるわけじゃん? だから普通にやれば赤点も回避できて海にだって行けると思うんだけど」


「そうだけど……なんかね。今日は一人になりたくなくて。そ、その……寂しいの。なんなんだろうね、私。ずっと変なんだ、最近。寂しかったり、心細かったりして。でも、憂くんがいてくれると、すごく安心できるの。それに、勇気をもらえるんだ。そうしたら――」


 そうしたら、私はもっと頑張れる――と。葵は言った。


 葵の顔は真っ赤に染まっていた。


 でも、それだけじゃない。今の葵は、僕の知ってる幼馴染の陽向葵の顔ではなかった。『女』の顔だ。それは、とても魅惑的で蠱惑的に、僕の目に映った。


 その表情を見てたら、僕の心の全てを奪われてしまった。


「いいよ。じゃあ、今晩は泊まらせてもらうね」


「――ありがとう、憂くん」


 開け放っていた窓から、心地の良い涼やかな風が入ってきた。カーテンが揺れ、その度に僕と葵の影が重なり合う。


 その風は、まるで僕と葵の心の緊張感を和らげようとしてくれている。


 そう感じさせられる、不思議な風だった。



『第9話 心の足跡【1】』

 終わり

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