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五十六万 終

ヒュン ドドドドドドドドドド!


 遥か天空から、流星のような矢がデュラゴンを襲う。

 身体に幾つもの穴が空き、騎士の心臓部も空白になって……やつらは、力無く倒れ込んだ。


「やったか!?」

「フラグを建てるな!」


 ナートが珍しく声を荒げる。

 だが、嫌な予感は的中し……奴の傷口が疼き始めた。


「ッ、まだ!」


 よく見ると、奴は尾を覆い隠すように倒れ込んでいた。

 傷の治り方的に、かなり弱っているが、尻尾の頭はまだ生きている。


「……」


 そんな満身創痍の竜騎士に向かって、同じく満身創痍のヴァルは歩き出した。


「待ちなさい、どうするつもりですか!?」

「……止めを刺す、だけだ」

「二十万も全て使い切ったでしょう! なら、その代償は!」

「……俺の称号は【費消士】だ。『費消』の意味を知ってるか?」

「消費と同じなのでは……」

「――ッ」


 ナートは声を荒げるが、その意味を知るリサは青ざめた。


「費消は、消費とニュアンス的にはほぼ変わらない。その最大の違いは、費消は『全てを使い切る』という意味で使われる、ということだ」

「まさか!」

「……運命って奴だ。きっと、最初からこうなるのは決まってたんだよ。……自分を費消して、決着を付ける」

「にちゃ……」


 うずくまった竜の元に着いたヴァルは、その剣を振り上げる。


「〈費しょ――」


 ヴァルから光の粒が上がり、全てが失われようとした時。


「待て」


 リサの手がそれを止めた。


「……どけよ。巻き込まれて、お前の腕まで折れるぞ」

「全て使う必要は無いだろう。また記憶の一部とか――」

「これ以上記憶を失ったら、お前たちのことまで忘れることになる。……それくらいなら、俺はこの記憶を持ってあの世に行くことを選ぶ」

「……」

「もう一度言う、どけ」


 今度は語気を強めて言ったが、リサは腕の力を強めるだけだった。

 彼女は、ナートを一瞥してから……一枚のカードを切り出した。


「まだ手はある」

「無駄だ。もう手なんて――」

「―――――」


 彼女が言った手は――確かに有効で、誰の犠牲も出さない、ものだった。

 しかし、それが本当に通る確率は……良くて、一割。


「それくらいなら、俺が犠牲に――」

「それを私たちが望むと思いますか?」

「いいじゃないか、とりあえず、やってみれば。」

「……命を懸ける本人が、そんな軽率なことを言うなよ」


 ヴァルが確定で死ぬか、リサが九割で死ぬか。

 彼には簡単に決断できなかったが、


「にちゃ……!」


 ヘッグの声で、覚悟を決めた。


「よし――やるかぁ!」

「その意気だよ」


 リサがヴァルの首に腕をまわし……強引に口づけした。

 突然のことに、ナートとヘッグが黄色い声を上げ、彼は目を回す。


「ッ、おい!」

「いいじゃないか。こうしたほうが、所有物(・・・)感が出るだろう?」

「……」


 リサの覚悟を受け取ったヴァルは、彼女の策を実行した。


「〈物――いや、〈人消費〉」


 第一の関門、突破。

 キスを続けたままのリサの体が光り輝き、金を消費した時と同じく、光の粒となって霧散した。

 その分、ヴァルに強大な力が宿る。


「……盾は?」

「もう取り上げてます」


 これで、リサの身を捧げた一撃が防がれることは無い。


「……〈黄金の剣〉」


 大切な人を捧げた一撃は、再生しかけていた首を全てはね、騎士の身体を灰塵に帰した。

 再生は全く起こらず、ただその死体から血を流すのみ。


「倒せたか?」

「ええ。では、私は私の役割を〈霊留め〉」


 ナートがナイフを地面に突き立て、死んだリサの魂を繋ぎとめた。


「できたか?」

「ええ、まだ彼女の魂はこの場に留まっています」


 比較的簡単な、第二関門もクリア。

 ……本当に難しいのはここからだ。


「常識を凌駕し、認識を支配しろ」


 討伐した魔物の死骸は、全て討伐した冒険者のものになる。

 竜の鱗はいい武器の素材になるし、あの風を操る槍や盾には国宝クラスの価値がある。

 ヴァルは、それに向けて手をかざし、それが非常に価値があるものだと自分に言い聞かせながら、


「〈物消費〉」


 その至宝を力に変換することで、巨大なエネルギーを得る。

 これで、第三関門も突破。

 全身を再生させるだけの力が、ヴァルの手に宿った。


「……ラスト」


 ナートがこの場に繋ぎとめているリサの魂に、手をかざす。

 あとは、それを再生させるだけだ。


「うおおおおおおおおおおおお!」


 ヴァルの再生能力は、自分に対してしか使えない。これに関しての判定はかなり厳しく、数年間使い続けた初代カリバーンにも適応できなかった。

 それを、この場で、リサに適応する。


「おおおおおおおお!」


 ありったけの力を込め、彼女の身体を再生させようとするが……魂はうんともすんとも言わない。

 他人に使えない理屈は不明だが、このままだと――


「……リサが、戻ってこない」

「そんな!」


 消費で得た力は、すぐに使わなければ徐々に失われていく。

 ずっと魂を留めておくこともできず……あと少しで取り返しのつかない事態になる。


「リサ……」

「……考え方を変えましょう。リサを身体の一部と思うことです」

「んな無茶な――」

「『常識を凌駕し、認識を支配しろ』」

「さっきの唇の感触を思い出して!」

「やかましい!」


 二人の熱い声援を受けながら、言われた通りリサを身体の一部と思うようにする。

 だが。所有物と認識することとはワケが違い、簡単に人を身体の一部とは思えない。


「クソックソッ!」

「にちゃ……そうだ!」


 苦しそうなヴァルを見て、ヘッグは何かを思いついたようだった。

 金属操作で、中央に穴が空いた硬貨のようなものと、細い棒を作り出す。


「にちゃ、こっち見て!」

「……そんなのどこで知ったんだよ」


 催眠術。

 対象に振り子運動を見せる、典型的なやつ。


「そんなの効くのでしょうか?」

「もしかしたら効くかもしれないじゃん! いっくよー!」


 本当にどこで知ったのか。

 ゆっくりと振り子を揺らし始め、どこからか金属音を奏でながら、


「リサはあなたの身体の一部。リサはあなたの身体の一部。だから再生は使えるし、リサは帰って来る」

「やっぱ効かな――」

「はい!」


パン!


 いきなりヴァルの眼前で手を叩き、景気の良い音が鳴る。

 その時。彼は認識を覆した。


「〈再生〉!」


 体から力が失われる感覚。

 ナートが魂を留めた場所に何かが集まっていき、質量が生まれ……リサが、帰って来た。


「「「リサ!」」」

「力が強いよ」


 ヴァルが抱きしめたのを始めに、全員でリサに抱きついた。


「意識は!? 体は動くか!?」

「ああ。大丈夫だ。それより服をおくれよ」

「あ、悪い」


 消費する時は服ごと消えたのに、再生する時は服は戻らなかった。

 替えなど持ってきておらず、ヘッグが適当に金属の服を着せる。


「ともかく、お帰り」

「うん、ただいま」





 戦争は終結した。

 ヒリック(勇者)は魔王を討ち、今代の人魔大戦は人類側の勝利で終わった。

 このまま魔物を根絶させるべきだという意見もあるが、どうせ人同士で争っている内に、新しい魔王が生まれる。


 大した事は成していない。ただ、二百年に一度の大災害を乗り切っただけだ。





「ほい」

「……なんやこの大金」

「四天王の半分を倒して貰った報奨金。色々サポートしてもらったし、返しておこうかと」

「そか。まあ、持っとっても使いどころないやろうし、預かっとくわ」


「さーて、これからどうしようかな。冒険者稼業は、ちょっと休憩しないとだし――」

「……一つ任せたい役があるんやが」

「何?」

「う、ウチの……夫や」

「ああ。って、えええええええええええええええエエエエエエエエエエエえええええぇぇぇぇぇえぇぇえええ!ええええェェェェえええええええいえええええエエエエエエエエエエエええええええぇぇぇぇ!」


≋☆~FIN~☆≋


 要望が多かったら勇者パVS魔王も書きます。


 費消:金銭・物品をつかい果たすこと。ついやしなくすこと(広辞苑)


 最後までご愛読いただき、ありがとうございました。

 『面白かった』という人は高評価をお願いします。ぜひ感想もお聞かせて下さい。


 一週間後くらいから新連載もするので、ぜひ。

 では、機会があれば、またお会いしましょう。


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