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第63話 鳩が向かうは

 廃神殿で一夜を過ごしたのち、一旦宿場町へと物資補給に戻る。私はカワサキに揺られながら、どうにか出来ぬものかと考えていた。カートーに教えられた現状を変えることが出来るのは今現在私の言葉のみだろう。私が中央に手紙を送りさえすれば、どうにか現状は変えることが出来ると考えていた。


 しかしカートーには下手な考えは起こすなと強く言われていた。私は今現在場所を中央には捉えられていない。手紙を送ってしまえば現在地は知られてしまうだろう。それを考え、一旦保留にするしかないかとマレイケにも相談していた。少しばかり考えてみるとマレイケは言ったが、彼女は私のことを第一に考える。捕えられる危険を犯すことは許しはしないだろうと考えていた。


 クンラートに今日のユウキは大人しいな。なんて言われつつ街角でぼんやりと空を見上げていた。マレイケがあの話ですが、と話しかけてきた。ディーデリックとクンラートが保存食などを選んでいるのを眺めながら口を開く。


「やはりあなたは危険を犯す真似はしないほうがいいと思っているでしょう?」

「いいえ。いいと考えています」


 意外な答えが返って来たことにマレイケを見つめた。


「あなたは私たちが居なくひとりだったのなら、迷わず中央神殿へと文を送っていたでしょう?」

「それは、まあ」

「それでいいと思います。あなたは、やんちゃすぎるくらいが丁度いい。私たちはそんなあなただから着いてきたのですよ」


 その言葉に、こんなに信用されているのは、心地よいものだなと考える。


「……うん、そうね! 文送ってしまいましょう! 鳩便頼んでもいいかしら?」

「ええ、構いませんよ」

「ふふ、ありがとう。わたくしだけのマレイケ」

「……あなたは、何故道化を演じているのですか?」

「……ふふ、さあ?」

「場を和ませようと無茶を言ったり、まるで手をつけられない暴走馬のように周りを引っ掻き回したり。出会った頃は分かりませんでしたが、根は生真面目な人間なのでしょう」


 マレイケもディーデリックとクンラートを眺めながら、何故なのだと私に問う。


「ガルシアでのあなたは存じませんが、ディーデの反応からガルシアでも似たようなものだったのでしょう。あなたは生真面目なくせに、自分ではなく周りの幸福を馬鹿らしいくらいに考えています。私共のことや、カートーたちのことだって」

「まさか。わたくしは自分のためにあなたがたを旅に巻き込んだのですよ。それが何故幸福を願うなどと」

「では何故捕まる危険を犯してまであなたはカートーたちのことを考えるのです。何故そこまでお悩みになります」

「人としてあるのならば当然の苦悩でしょう」

「……私にはそうは思えないのです」


 マレイケは日の光に目を細めながら空を見上げた。私も習って空を見上げれば青々とした雲が浮かんだ空がある。


「……まあ、今のうちに鳩便を頼みますわ。その難題もいつか分かる時が訪れることを願っておりますよ」

「……はい」


 行って参ります。とマレイケはその場を離れた。ディーデリックとクンラートたちの元へとカワサキと共に向かえば値切り交渉をしているようだった。


「おっちゃんもう少しまけてくれよ〜前も買ったじゃねえの」

「これ以上は無理だ。つうかお前さんらあれだけ買ってもう使い切ったのか?」

「他の冒険者に振る舞ったら消えた」

「もうちょい考えて使いなよな。ん、お嬢さんいらっしゃい」

「おいユウキ。お前も値切り説得してくれ」

「なんだ同じパーティかい。これ以上は無理って言ったら無理だよ」


 店主に微笑み、ディーデリックにいくらかかるのかと聞いてみる。相場にしては少々高めの値段に思えたので、手を貸してやるかとフードを取る。それにクンラートが私のフードを頭に戻そうと焦っていたが手で制する。


「おじさま、もう少しまけていただけないかしら。わたくし共長旅故に、あまり無理は出来ぬのです」

「あ、ああ、そう言ってもね。こちらも商売だから……そんなに見つめないでおくれよ。あーもう、男共よかったな。綺麗なお嬢さんに感謝しなよ」


 値引き価格を提示されディーデリックがそれで手を打つ。と店主に料金を支払い店を出る。フードを目深に被り直し、今度からユウキを連れて買い物をした方が得になるかもな。とクンラートがからかいを込めた声色で背を叩いた。


「あれ、マレイケのやつどこに行った?」

「ああ、少々所用があるとのことよ」

「ふうん。まあ、まだ見るものはあるし、ディーデと回ってるからお前はここで待っとけ」

「ええ、後ほど」


 カワサキさえいれば目印になり迷わずに返ってこられるだろう。他の店へと入って行った二人を見送り再び空を見上げた。


 今日は再びここで一夜を過ごすしかないだろうか。中央神殿の手もすぐに伸びるとは考えにくいが、早めにここを離れた方がいいのは確かだろう。この町とて神殿の手のものは居るのだ。遠距離での通信手段が鳩便だけだと決まった訳でもなし。今回のクエストを終えたのならば他の土地に向かうのもありだろう。別に巳にこだわりがあるわけでもない。最初はマレイケが行ってみたいと言ってたから決めたようなものだったが、今更マレイケも気にはしないだろう。


 しばらくしてマレイケが戻って来た。クンラートはどこかと聞かれ、店を教えるとその店へと入って行った。すぐに出て来たのでどうしたのかと問うと、再び同じ宿に泊まるかどうか相談したそうだ。宿に行っているから用向きが済んだら来るように、と告げたらしくマレイケと共にその宿に向かった。


 そのうち初夏に向かって行きそうな風を感じる青空の下、認識阻害の魔法具を握りしめながら空を見上げた。白い鳩が遠くに見えた。

お読みいただきありがとうございます。

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