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美咲の剣  作者: きりん
二章 魔物の脅威
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八日目:魔物退治の準備をしよう3

 店を出た二人は、その足で次の店に向かった。

 全ての店を回り終わって出た結論は、結局最初の道具屋が粗悪品ばかりであるものの、一番安いということだった。

 他の店は全体的に値段が高く、質の良い品物なら相応の値段といえるが、全体的に割高だった。その代わりに、これらの店は品質が保障されているのが強みだ。

 なので、美咲とルアンは他の店でちょっと質の良い道具を揃え、見つからなかったものは最初の道具屋で揃えることに決める。

 できることなら美咲は粗悪品を使いたくなかったが、無い袖は触れないので仕方ない。

 買ったものは薬草を煎じた塗るタイプの傷薬に、ベルアニア周辺で出現する毒持ちの魔物に対して解毒作用を持つ木の実から作られた解毒薬、一本あれば色々便利なフックつきロープに、やむを得ない理由で夜間行動する時には必須のたいまつなど。

 他にも必要な分の食料も買い込んだ。

 ルアンが言うには一日分あれば充分だということなので、乾物は買わずに露天で売られていた肉とネギに似た野菜の串焼きを買い、紙に包んでもらう。

 それだけでは何なので、美咲は果物を扱う店をルアンに教えてもらった。


「何を買うんだ?」


 律儀についてきてくれたルアンが美咲に尋ねる。


「ピエラを買うつもり。っていうか、私ベルアニアで食べた果物で名前知ってるの、それしかないんだ」


「そっか。まぁ、ピエラなら妥当かな。安いし」


 店に着いた美咲は店内に入るとピエラが売られている一角を探す。

 先に訪れた道具屋もそうだったが、店内は広いものの美咲がいた世界の店のような明るさと開放感に欠けていると美咲は感じていた。

 照明が主にランプくらいしかまともなものがないせいだろう。

 下手をすると、ちゃんとした店よりも道端に商品を並べた露天の方が繁盛しているように見えてしまう。

 そんな感想をルアンに告げると、ルアンは美咲の考えを否定する。


「そうでもない。確かに露天は繁盛してるしそっちの方が一般的だけど、ちゃんとした店と露天じゃ客層も違うからな。貴族なんかは露天はあまり好まないから店で買うことが多いし」


 他にも違いがあるらしく、ルアンが言うには建物としての店の方が全体的に扱っている物の品質が高いのだという。

 最初に入った道具屋のような、粗悪品を専門で揃えてコストダウンを測っている方が珍しいのだとか。

 露天の場合は玉石混合で、格安な掘り出し物もあれば値段不相応の粗悪品もある。


「露天でも掘り出し物があるなら、それ買えばいいやってお客さんやっぱり露天に流れちゃうんじゃないの?」


「そういう考え方をする奴もいる。でも露天で掘り出し物を探そうと思ったら、とんでもない時間と労力が必要になるぞ。専門的な目利きの技術もいるし、上手くはいかないよ」


 雑談をしながら歩いていると、ルアンが色とりどりの果物が積まれている棚の前で立ち止まった。


「ピエラがどれか分かるか?」


 ルアンに冗談交じりに尋ねられ、美咲は胸を張って答える。


「分かるよ。食べたことあるから」


 美咲は並べられた果物の中から、緑色の皮を持つ林檎くらいの大きさの果物を選んだ。

 大きさは林檎程度だが、形はどちらかというと蜜柑やオレンジに似ている。


「これでしょ? ピエラって」


「正解。いくつ買うんだ?」


「一日分なら、私は一つあれば充分だけど、ルアンはいくつ食べたい?」


「そうだな。一個じゃ物足りないから二個買っとくか」


 話し合いながら、美咲とルアンはそれぞれピエラを選ぶ。


「会計ってどこでやってたっけ?」


「確か出口近くにカウンターがあったはず。ほら、あった。あそこだ」


 答えたルアンが辺りをぐるりと見渡し、二人が入ってきた店の出入り口を指差す。

 カウンターの中で店員が二人、料金の精算をしていた。

 ちゃんとした店なので、客層は主に裕福なラーダンの人間が多いようだ。美咲たちのように武装して、いかにもな荒事の雰囲気を漂わせている人物は少ない。


「私はこれでも充分だけど、串焼きとピエラだけじゃルアンはお腹空かない? パンでも買っていこうか」


「ならここでジャムも買ってこう。高いけど、小瓶ならそんなにしないから」


 果物を扱う店なので、果物から作るジャムもこの店で売っているらしい。

 ルアンは迷いなく歩を進め、瓶が並べられた棚の前で足を止めた。

 元の世界にあるようなジャムの瓶より大きな瓶もあれば、一掬いしたらそれだけで無くなってしまいそうな、アクセサリーくらいの大きさしかない瓶もある。

 やはり高値ということがネックらしく、主に積まれているのは一つあたりの値段が低い小さな瓶だった。

 美咲は一番小さな瓶を手に取り、値札を見る。

 当たり前だが読めない。


「これ、いくらなの?」


「八十ペラダだな」


「……高いね」


 値段を読み上げてもらった美咲は、二口分くらいの量しかないのに一回の食事代の十倍以上する値段に驚き、唖然とする。


「砂糖をふんだんに使うから、普通どこもこんなもんだぞ」


 やっぱり砂糖の価値が違うと、砂糖を使う食べ物の値段の高騰がすさまじいようである。


「こんなに高いのに並べてるってことは、売れてるのかな」


「貴族にとっては高価なものを買うっていうのはそれだけで一種のステータスになるから。それに冒険者や傭兵とかも、甘いものを好む奴って結構多いよ。俺もそうだけど、食べとくと注意力が増して危険の見落としとかが少なくなる」


「なるほど……」


 相槌を打ちながら、美咲は元の世界で見たテレビ番組を思い出す。


(そういえば、砂糖に含まれる栄養素がなんたらかんたらって、やってたような)


 元の世界の科学で証明された事実が、異世界でも実体験として一部で広まっているのが、美咲としてはとても興味深い。


「次はパンだな」


 ジャムを買い込んだ美咲とルアンは、その足で今度はパン屋へ向かう。

 ラーダンに限らずパン屋は一つの街や村に一軒のみなのが普通らしく、ラーダン唯一のパン屋は露天や商店が軒を連ねる大通りの真ん中に居を構えていた。

 商売はとても繁盛しているようで、見ているだけでも客足は途絶えず次々に客が出入りしている。

 おそらく店内では客の応対にてんてこ舞いになっているであろう様を想像して、美咲は呆れた顔をした。


「パン屋が一つしかないって遠くに住んでる人は不便そうだね。店側の負担も大きそうだし、もっと他にも作ればいいのに。それか各自家で焼くとか」


「オーブンは馬鹿高いから、一般人が買うのは無理だと思うぞ。パン屋だって、各家庭から家庭用のパンを焼くことを条件に援助を募ってようやく買えるくらいだから。それにこれでも昔よりは良くなったんだ。昔はパンを焼くのに税金を取られたから、パン屋ができるまではその代金が馬鹿にならなかった」


「各家庭に無償でパンを焼くの? そんなんでよく商売できるね」


「あくまで援助してくれた家庭が対象だから、それは仕方ない。焼くパンだって援助額で変わるしな。商売はどちらかというと街の外から来た人間向けだよ。俺たちみたいな冒険者もそうだな。……こうして話してても埒が明かないし、入ろうか」


 ルアンの後に続いて、美咲もパン屋に入った。

 店内は焼き上がったパンの匂いで満ちており、美咲の食欲を大いに刺激してくれる。


「いっぱいあるね。ルアンはいつも何買ってるの?」


 ラーダンを拠点にしているのだから、きっとパンもここで買っているのだろうと判断した美咲がルアンに質問すると、ルアンは自分が説明するパンを指差しながら答えた。


「普段はあのカルナっていう保存に向いた硬いパンを選ぶんだけど、今回は一日だけだから普通のパンを買う予定。美咲も好きなの選べよ。値段は俺が教えてやるから」


「ありがとう。私もちょっと見てくるね」


「おう。あ、パンはこれに置けよ」


 店員から木製のトレイを受け取ったルアンが、美咲にトレイを差し出した。

 美咲は受け取ったトレイを抱えて、店内に奇麗に並べられたパンを眺める。

 文字が読めないから、パンの値段やその下に書いてあるパンの説明文らしき文章も美咲は読めないけれど、見た目である程度の判別はつく。

 ただ、マヨネーズなどのパンにつきものの調味料はまだ発明されていないか、簡単にパンに使えないほど高価なものであるようで、美咲の世界にあったような惣菜パンはないのが、美咲にとって少し残念だった。

 パン職人のギルドがあるのかどうか知識の疎い美咲には分からないが、売っているパンは全て大きさも形もほとんど変わらず、同じようなパンばかりで、美咲が知る元の世界のパン屋ほど種類は豊富ではない。

 元の世界のパンとほとんど見た目が変わらないパンも奇麗に陳列されているが、美咲でもそのパンがおそらく高価なものであるのだろうということくらいは想像がつく。


「ねえ、ルアン。このパンって値段いくら?」


「これは上流階級が買うパンだから高いぞ。二十ペラダもする」


 試しに事情をよく知るルアンに尋ねてみれば、予想以上の答えが返ってきた。

 日本円に換算すれば、一つ二千円のパンである。

 値段を聞いて潔くそのパンを諦めた美咲は、他のパンに興味を移した。

 次に美咲が目をつけたのは、何か混ぜ物をしているらしい黒パンだった。

 このパン屋でもっとも買われているパンらしく、一番スペースを取って並べられている。

 ルアンに値段を聞くと、このパンはやはり一般的に食べられているパンに違いないようで、一つ一ペラダらしい。


「ちなみに遠出する冒険者や旅人用のパンはこれな。さっきも言ったけど、俺もよく買ってるカルナってやつ」


 続いてルアンが指差したパンは、上流階級の白パンよりも黒パンに近い色だが、黒パンよりは白パンに近いという中途半端な色のパンだった。

 パンの色に限らず保存の問題から全体的に全てのパンが日持ちするように焼かれているが、このパンは以前美咲がこの世界で食べたパンと同じく石のように固く焼かれている。

 あの硬さをうっかり味わったことのある美咲は、興味が出てまじまじと硬いパンを見詰めた。

 美咲の様子を見て何か勘違いをしたルアンが美咲に忠告する。


「それにするのか? 一日で済むのに敢えてそれを買うのはもったいないと思うぞ。同じ金額でも黒パンなら五個買えるから、そっちにした方がいい」


 振り返った美咲は慌てて首を横に振った。


「違う違う。ちょっと興味があっただけ。ルアンのいう通り、こっちのパンにするよ」


 黒パンを一つ取ろうとした美咲は、トングのようなパンを掴むものは無いか回りを見回した。

 どうやらトングは無いらしく、他の客は手掴みでパンを掴んでいる。

 一応マナーやエチケットという概念はあるのか、買うパン以外のパンに触れる客は一人もいない。

 郷に入っては郷に従えということで、美咲も回りに習い手掴みで黒パンを一つ抱える木のトレイに置いた。

 会計を済ませ、紙に包んでもらったパンを受け取って美咲とルアンは外に出る。

 包みを自分の道具袋にしまったルアンが美咲に尋ねた。


「あとどれくらい時間残ってる?」


 パンを納めた道具袋を背負い直した美咲は、首元に提げていた袋から砂時計を取り出す。

 元の世界とは違いこの世界ではまだ時計の技術が発達していないので、一般的に時計といえば日時計、水時計、砂時計がほとんどだ。

 アリシャから預かっている砂時計は、スマートフォンで測ってみたら一回砂が落ち切るまでに十分かかったので、美咲は砂が落ち切ってないかこまめに砂時計を確認することにしている。

 冒険者ギルドを出てからもう既に四回ひっくり返していて、今の砂ももう半分くらいが下に溜まっていた。


「一レンと半分くらい。そろそろ戻らないと」


 世界が違うせいか時間の単位も美咲の世界とは違っていて、大体十分が一レンに当たる。

 分に直すと約十五分くらい経っていることになる。


「そうだな。じゃあ行くか」


 冒険者ギルドへの道のりを考えると、ぼちぼちこの辺りで引き返さないと遅刻する。

 他のパーティとの合同クエストで遅刻しないように、美咲とルアンは早足で冒険者ギルドへ向かった。


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