虚勢の革命
少し分かり辛いかもしれないです。前回の終わり辺りから読み直していただけると、少しスッキリすると思います。
吹きすさぶ夜風に、少年の白衣が不規則になびく。
ここは、都会から少々離れたマンションの屋上階。その100階建てマンションからの眺望は、それはそれは煌びやかな都会のビル群によって成されている。
100メートル超の幾多ものビルによって形成される大都市は、漆黒に染まった背景から浮かび上がるように映え、その中で都市を彩る多種多様な光は、夜空に散りばめられた無数の星々を彷彿とさせた。
そうして形成された絢爛なビル群の中で、やたらと目立つ巨大なビルがある。
内部にICDA本部を隠した、表向きは総合家電会社として繁栄するベアリングの本社ビルだ。
マンションの屋上からそのビルを眺めている少年は、冷たい夜風を気にする様子も無く、ゆっくりと手前に視線を戻した。
彫りの深い顔立ちに、瞳を隠すほど前髪の伸ばされたブロンズ色の髪。西洋の子供を印象とさせる少年のすぐ目の前では、地面に置かれた複数の端末から形成された、何十個ものエアビジョンスクリーンが浮かび上がっていた。どのスクリーンも忙しく更新され、新たな情報が現れては、流れる消えるを繰り返している。下にスクロールアウトされていく個別のスクリーン情報を無理に追う素振りも見せず、数十と展開されたスクリーン全てを視界に入れている少年は、微動だにしないまま消えゆく情報を見送っていた。
そんな最中、少年の背後から足音が響く。振り返るという無駄な行為はせず、少年は無表情のまま背後の者に声をかけた。
「……どうだった? シロ」
そう呼ばれた少女は、ゆっくりと歩を進めて少年の隣りに立つ。
小柄なシロは、少年から頭2つ分ほどは小さい。ちょうど顔の高さに浮かぶスクリーン群を一瞥してから、シロはゆっくりと口を開いた。
「Fの覚醒には成功したよ。恭司お兄ちゃんの中の『あの人』が安定するまで、まだ時間はかかるかもしれないけど」
そうか、と少年は一言だけ呟いてから、無造作に手を払った。払われた指先が一つのスクリーン上のアイコンを掠め、すぐさま『MISSION COMPLETE!!』という文字がデカデカと映し出される。
「……お疲れ、シロ。……で、クロの方は?」
「とっくに『ICDAへの40%以上の損害』は達成してるよ。でも、まだまだ暴れ足りないって感じ。クロ君完全にやり過ぎだよね」
ため息をついた少女に同感と言わんばかりに、無表情の少年は小さく頷く。そして一つのスクリーンタブをスライドし、最正面に表示される画面を切り替えた。
「……クロのヤツ、暴れすぎ。……フェーズ3の目的、ICDAへ僕らの存在を知らしめること。……ICDAを駆逐することじゃない。……クロを止めるため、『宮谷志穂を解放しろ』と指示をよこしたんだろう、シロ?」
最正面に表示されたスクリーン上には、ICDA本部ビルの断面が大きく描かれており、各フロアごとに細かく構造情報が記載されていた。
多くのシャッター情報が『LOCKED』となっている中、先ほどまで宮谷を束縛していた32フロアのシャッターは『UNLOCKED』と表示されている。
「一度ロックしたシャッターをもう一度開けさせるなんて面倒な真似、お願いしちゃってゴメンね、フィー」
「……気にすることは無い。……ICDAのネットワークのクラックも、僕が好きでやってること」
それだけ言った『フィー』と呼ばれる少年は、目前のスクリーン群を眺め続ける。単位時間あたりに表示される情報量は常人ならば絶対に把握できないレベルだが、流れ落ちていく莫大な情報をフィーは完全に理解しているようだった。
いや、違う。フィーはこの莫大な情報量を処理できるだけの能力を、実際に持っている。フィーの脳は、絶え間なく更新されていく情報を、1bitたりとも漏らさず蓄積しているのだ。
「……今回の作戦。フェーズ3は、シロとクロが主役。……だから、サポートである僕が、君達の行動に口出しするつもりは無い」
……僕が主役を張るのは、ラストフェーズだから、とフィーは付け足す。
「それで、フィーがクロ君と私のサポートを申し出てくれたのは、ラストフェーズで自分とまともに相対できる人間がいるか、見極めたかったからだよね。どうだった? フィーのクラッキングに太刀打ちできそうな人、いた?」
シロの言葉に、フィーは実に残念そうな様子で首を横に振る。
「……ドイツもコイツも、全然ダメ。……ただ、がむしゃらにネットワークを取り返そうとしてくるだけ」
フィーはモニターを操作して、一番奥に展開されていたスクリーンを手前によこした。画面の右片隅に表記された一つのIDを指でなぞると、無表情のまま呟く。
「……これは、僕が今回の侵入のために用意した仮想アカウント。……既に僕のアクセス権限は、ICDA会長に次ぐ位置にいる。……システムハックで僕に渡り合おうとするのは、愚の骨頂」
フィーの視線の先には無数のコマンドログが表記され、忙しく更新されている。しかしそれはフィーの端末ではなく、ICDAの端末から得られているログだ。つまり今この瞬間も、ICDAの至る所にいる人物が真っ正面からシステムの奪還を試みているが、ことごとく失敗に終わっている。このおびただしい数の『Failed』の表記は、その事を如実に示しているのだった。
そんな、フィーが『実力者を見つける』という目的を果たせず、落胆している最中。
彼が監視しているスクリーン上で、異変が起こった。
「……!」
これまで一切主立った反応を見せなかった少年が、モニターのある一点を目に触れるや否や、初めて大きな動きを見せた。ぼんやりとしていた雰囲気を一気に消し去り、半ば前のめりの態勢でスクリーン上のキーボードを叩き始める。
「どうしたの? 何か、マズイことでもあった?」
……いや、とシロの言葉を否定したフィーは、ほんの僅かに怪訝そうな表情を浮かべて答える。
「……マズイというよりは、おかしい」
「おかしい?」
フィーはゆっくり頷くと、スクリーンを拡大する。
そのスクリーンに表示されているのは、きめ細かに線引きされて表示された、無数のマス目。基本は白色や赤色を帯びているそのマス目だが、その中である一点だけが青白く点灯していた。
その青白色に染まったマス目を視線で指し示したフィーは、キーボードを叩きながら説明を続ける。
「……僕はICDA本部にいる2000名のアカウントを、先ほどから常時監視している。……そして、この小さなマス目はそれぞれ、ICDAメンバーのアカウントがどのような状態にあるのかを示している。
白色が正常で、赤色はネットワークへのアクセスを試みたアカウント。……その中で、この青色に染まっているヤツ」
フィーは一拍置いてから、通常からやや低い声で言った。
「上位4位に位置していたこのアカウントが、現時刻をもって完全に消去された。……誰かが故意的に消したみたいに」
「故意的に……消したの?」
フィーの言葉に、考える素振りを見せるシロ。この4番目に強力なアカウントが消去されたことの意味を必死に模索したようだが、分からなかったのか、不思議そうな視線をスクリーンに送る。
「えっ? それって、全く意味無いような……? だってフィーの持つ仮想アカウントに、ある程度は対抗できる程の強力なアカウントなんだよね? どうしてその4番目に強いアカウントを持つ人は、せっかくの対抗手段を捨てたの?」
「……分からない。……だから、おかしい」
……調べてみる、とボソリと呟いたフィーは、キーボードの操作を続けた。
そして僅かに不安そうな表情を浮かべたシロに見守られる中、フィーが黙々と作業を進めていくこと、僅か数秒。
「……捕まえた」
そうあっさりと宣言したフィーは、さらに前のめりになって操作を続けていく。
「ねぇ、フィー。今はどういう状態なの?」
「……このアカウントが登録されている端末にアクセスできた。……今からこの端末内部の情報を探っていく」
そう淡々と言ってのける中、シロはその言葉を疑うこともせず、ただフィーが操作を進めていくのを見守る。
しかし再びフィーの口をついて出たのは、シロにとっては想定外の言葉だった。
「……おかしい。……何かが、おかしい」
「どうしたの?」
少しだけ、フィーの表情に焦りの色が浮かび上がってくる。普段から無表情の仮面をはめ込んでいたフィーの突然の変化に、シロは少なからず驚きを覚えた様子だった。
「……クラッキング防止用のウォールが、全て外されている。それに、邪魔な残留データが綺麗に掃除された後みたいで……まるで、この端末を覗き見されるのを、待っていたかのような……誘導していたかのような……」
そこまで呟いたフィー。
少なからず入り込んでくる疑念から僅かに危機感を覚えた彼が、端末の遠距離捜索を中断しようとしたその瞬間。
ピッ、と。
短く途切れた、間の抜けた電子音と共に。
フィーの操作するスクリーン上に、一通のメッセージが開かれた。
『You opened a can of worms.
Escape is impossible.
Inqilab zindabad!!
(あなたは、パンドラの箱を開けてしまった。
もう、逃げられない。
さあ、私達の革命を楽しもう)』
「…………え?」
突如表示された、謎のメッセージ。フィーとシロ、両者が唖然とする中。
――――スクリーンに表示されたICDA2000個のアカウントが、一斉に赤に染まった。
全アカウントが、赤一色に染まる。
ICDA本部の人口である2000人全員が、ネットワークを奪還するべく同時にアクセスを行なってきたのだ。
「……なッ!?」
想像を超越した事態に、ついにフィーの表情が驚きに染められた。慌てた様子でキーボードを操作し、各アカウントのネットワークからの遮断を試みる。
しかし。
現段階で最高レベルであったはずのフィーのアカウントが、完全に拒絶された。
「……どういうことッ!? どうして僕のコマンドを受け付けないッ!?」
半ば叩き付けるようにして、キーボードを高速で操作していくフィー。しかしその起こすアクション全てが、まるで端末全てを乗っ取られているかのように打ち消されていく。
この状況は明らかにおかしい。そのことは、フィーは頭では良く理解していた。
なぜならば、ICDAはクロの猛攻によって既に壊滅状態にまで追いやられているのだ。施設内部にいる全2000人が、同時にネットワークへの侵入を試みることなどあり得ない。
それ以前に、クロによって命を絶たれた者の数は悠に数百人を越えているのだ。生存者の数は2000人から確実に減っているはず。
これらから判断しても、この2000人同時の革命は明らかな虚実であるはずなのだ。いや、虚実でなくてはならない。
しかし。
現状として、フィーの管理している端末は2000人同時のアクセスを記録している。そして何故か最高の権限を持つフィーのアカウントは、ネットワークから完全にリジェクトされるのだ。
「……バカな……どうして……僕のアカウントは、最高権限を持つはずなのにッ!?」
珍しく放たれるフィーの怒声。自身の放った言葉が正しいことを証明しようと、フィーは用意した仮想アカウントに視線を配った。
「……――――ッ!」
そこでフィーは、ようやく気づく。
自身の用意した、最強の権限を備えていたはずの仮想アカウント。
どうしてか、そのアクセス権限が『Visitor』――つまり、ICDA内部における最低ランクの権限にまで低下していたのだ。
「……なッ……!」
マズイ。
フィーは、瞬間的にそう感じた。そして同時に、この状況に収拾をつけるための行動を開始する。
フィーの持つアカウントの権限は、何かの理由から最低クラスにまで落ち込んでいた。理由はどうであれ、最低ランクのアカウントで2000人もの同時アクセスを阻止できるはずが無い。
その点に多大な危機感を抱いたフィーはしかし、必死に自分を落ち着かせながら最善の行動をとっていた。
つまり、自身の用意したアカウントの権限回復。
「……用意周到な性分で良かった」
そう呟きながら、再び無表情に戻りつつあるフィー。アカウントのバックアップをとってあった小型のメモリを取り出すと、自身の端末に慌てずゆっくりと接続する。スクリーンに表示されたデータを抽出、現状のICDA内部のネットワーク情報と回線情報を混ぜ加え、その新たに創り出した最高レベルの権限を備えたアカウントを。
スクリーン上の右片隅に表記されていたアカウントに、上書きした。
彼、フィーという少年のとったこの一連の行動は、最善と呼べるものだった。再び最強のアカウントを入手できれば、例え2000人もの同時アクセスだろうと、彼自身の腕とアカウントの権限によって確実に阻止できたからだ。
しかし、それはその上書きされたアカウントが、彼の保有する仮想アカウントだった場合の話だ。
*
「私の勝ちです」
そう自信に満ち溢れた声色で、高らかに勝利宣言をした雅美。
彼女の持つ携帯端末に記されたアカウントのアクセス権限は、『1―subprincipal』。
つまり、本来ならば敵ハッカーの所持していた、ICDA会長に次ぐ最高峰のアクセス権限だ。
「どういうこと……?」
隣に佇むICDA副会長、ユウリ・アリフォンスは、雅美の端末を覗き込んですぐに驚きから目を見開く。
誇らしげな微笑を浮かべた雅美は、隣りの少女へ向けて、手に握っていたある物を示した。
それは、支倉恭司がライエルとの戦闘前に雅美に預けていた、ICDA内部のネットワークにおける最低権限――『Visitor』を保有していた新品のイレイサー。
その示されたイレイサーをマジマジと眺めたユウリは、なるほど、と笑みを溢す。
インフォーメーションサーモダイナミクス、Information Energy――つまり情報熱力学的エネルギー、通称IEという代物がある。
クロックという高低電圧の周期によって刻まれた、0と1の二進数が生み出す情報によって成り立つ電子機器だが、実は電子内部に流れる0と1の集合体としての情報自身に、微弱ながらもエネルギーが内包されている。それが、IEと呼ばれる物だ。
人によって様々な超能力を生み出す『橙』のモールドだが、この革命的な薬品が『小野寺雅美』という少女に与えたのは、『IEを操る』能力だった。
このIEは、自己の持つ波長や周波数を変えることで、その情報本体にも少なくない影響を及ぼす。親が子供に影響を与えるだけでなく、子供も親に影響を与えるように、0と1の組み合わせによって成される情報と、そこから二次的に発生したIEは相互に影響しあっているのだ。
当然ながら、IEを弄ることで情報それ自体を改変できるかと言えば、それは不可能だ。しかしIEを操ることで、情報の本質は変えられないまでも、表向きの姿を書き換える程度の芸当ならば可能になるのだ。
例えば、敵ハッカーのスクリーン上の発色を、『白』から『赤』に変えたように。
例えば、支倉恭司の『Visitor』のアカウントIDを、敵ハッカーのアカウントIDにカモフラージュしたように。
自身の『橙』のモールドによる超能力と、最低権限のアカウントを使用した逆転劇。
敵ハッカーから最高権限のアカウントをもぎ取る雅美の計画は、以下のようなものだった。
まず、雅美は自身の保有するICDA司令部トップのアカウントを、わざと完全消去する。この一見愚行とも思えるアクションはしかし、重要な2つの目的を持っている。
自身のアカウントを消した第一の目的は、おそらくICDA全体の監視をしているであろう敵ハッカーの関心を、雅美へと向けさせること。そして、その行為を疑問に感じさせ、最終的に雅美の端末へとアクセスさせること。
雅美はIEを操作することで、端末に表示される情報を改変できる。しかしその改変できる情報は、雅美が感情を削って創り出した『IE改変』の指令を受理できる、発信元と電子的に繋がった端末上に無くてはならない。
簡単に言ってしまえば、敵ハッカーのスクリーン上の情報を弄りたい場合、『IE改変』情報を流し込む雅美の端末と、敵ハッカーの端末が繋がっていなくてはならないということだ。
当然ながら、敵ハッカーに自身の端末へとアクセスさせる狙いは、両者の端末を繋げることで、雅美の超能力であるIE操作を実行可能にすることだ。
そして、一度でも敵ハッカーの端末と繋がってしまえば、後は雅美の独壇場である。
自身の端末を経由して、敵ハッカーの端末に『IE改変』指令を流し込む。その『IE改変』指令を受理した敵ハッカーの端末上の情報――2000人のアカウントは、正常状態を示す『白』色から、ネットワークへのアクセスを試みている状態の『赤』色へと姿を変えた。
そして、この2000人のアカウントが織りなす虚勢の革命こそが、雅美が敵ハッカーへ仕組んだ最大級の落とし穴だった。
敵ハッカーはこの革命に対し、確実に慌てるだろう。暴走する2000人のアカウントに気を散らされ、動揺から正常な判断が出来ないその間に、雅美はイレイサーに含まれる『Visitor』権限のアカウントを自身の端末へと転換。
一つの端末には最大一つまでのアカウントしか保持できないため、それこそが雅美が自身のアカウントを消去した第二の目的だ。
そして、新たに入手した最低権限のアカウントのIDを、両者の端末が繋がったことで入手できた敵ハッカーのIDにカモフラージュする。当然、アカウントのID情報が持つIEを操作することによって。
同時に今度は、敵ハッカーのIDを自身の持つ最低権限のアカウントIDにカモフラージュする。これで全ての準備は完了したことになる。敵ハッカーのスクリーン上では、『1―subprincipal』という最高権限のIDが、最低権限である『Visitor』と表記されることになるのだ。
では、この状態で革命が継続されれば、事はどのように運ばれるのだろうか。
敵ハッカーはまず、ネットワークにアクセスしようとする2000のアカウントを必死に沈静化しようとする。しかし、いくら拒絶コマンドを発信しても、2000人のアクセス状態は一向に止まない。
考えてみれば当然のことだ。2000人のアカウントは、雅美のIE操作によって見かけだけ『アクセス状態』なのであって、実際には『正常状態』なのだから。『アクセス状態』でないアカウントを『アクセス状態』から外そうとして、エラーが表示されないはずがない。
そして敵ハッカーは、この2000人の『アクセス状態』を解除できないことから、最高権限である自身のアカウントに疑問を向けるようになる。
自身のアカウントを確かめた敵ハッカーは驚愕するだろう。なぜならば、最高権限を持っていたはずのアカウント権限が、最低ランクである『Visitor』にまで落ち込んでいるのだから。IDを確認しても、自身の用意した仮想IDに違いはない。実際はそのIDナンバーにカモフラージュされた『Visitor』権限のアカウントと置き換えられたのだと、つゆ知らずに。
そうして権限を取り戻そうと、やっきになるであろう敵ハッカーは『Visitor』と表記されたアカウントに、バックアップを取っていた『1―subprincipal』権限のアカウントを上書きしてしまう。
つまり全体を総括して言えば、敵ハッカーは、突如『Visitor』権限まで落ち込んだ自身のアカウント権限を、再び元に戻したと勘違いする中。
実際には、雅美の持つ最低レベルのアカウントを、最高権限のアカウントに上書きしてしまったのだ。
こうしてまんまと雅美の用意した落とし穴にハマった敵ハッカーは、雅美に最高権限のアカウント『1―subprincipal』を渡してしまったのだった。
「敵の最高峰のアカウントを逆手にとる、大胆不敵な戦法。……しかも、自身の持つ最高レベルのアカウントを犠牲にして、最低レベルのアカウントで勝負に出る勇気……」
流石だね、と、雅美の隣りの少女は賞賛の言葉を漏らした。
「でも、雅美が手に入れたアカウントと同等レベルのアカウントを、敵もまだ持っているんだよね? 一対一で、ネットワークを取り返せる?」
当然、と雅美は得意げな表情を浮かべる。
そして、最低権限から最高権限まで跳ね上がった、最強のアカウントを入手した端末を横に振り、言った。
「最初から言ってるじゃないですか。『私の勝ちです』」




