最終話 卒業しても、幼馴染とのイチャイチャは終わりません。
――あれから数年後。
「リサーっ、そろそろ焼けますよ。早くいらっしゃい!」
「わかってるーっ! 今行くーっ!」
部屋の奥から聞こえてくるご機嫌な声。
すると、ドタドタと足音を立てて彼女はテーブルにつく。
貴女の辞書には、おしとやかという言葉はないのでしょうか。全く。
――カシャンッ!
トースターにセットしておいた二人分のパンが、ちょうど焼き上がった。
私はパンと目玉焼きをお皿に盛り、ピンクと黄色のお揃いのマグにコーヒーを注いでテーブルへ運ぶ。
「ほら、朝食を済ませてしまいましょうリサ。そのぐしゃぐしゃな髪も整えなきゃいけませんし」
「本当……なんでいっつもハネちゃうのかな、アタシの髪。まー、レノンがやってくれるからいいけど」
私だって、自分の身支度があるのだから忙しいというのに……。
とりあえず私も席に着いた。
「はいはい……では、いただきますっ」
「いただきますっ!」
サクッとトーストをかじる音が響く。
……夢に見た光景が、今では日常になっている。
それだけで胸が躍る。
そうして朝食を済ませ、リサの手強い寝癖を直してそれぞれの身支度を終える。
「さぁ、今日も一日頑張っていくわよっ! ほらレノンも早くっ。忘れ物ないでしょうね?」
リサは仕事の制服を凛々しく着こなしている。だいぶこの姿も見慣れてきましたね。
「貴女じゃないんだから大丈夫ですよっ。それに……さっそく忘れ物です」
「へ? なに――んぐっ!?」
リサの頬に手を添えて、唇を重ねる。
ベタだなと思っていた行ってきますのキスに、すっかり夢中です。
でも今朝は、もっと欲しい気分で……。
「っ!? ちょっ、レノっ……んっ……!!」
リサは肩をびくっと跳ねさせながら、私の舌を受け入れる。
艶かしい水音を立て、互いを求めるように舌を絡め合った。
最初は前歯がガチっと当たったりしていましたが、数をこなせば上手くなるものですね――
「〜〜!! バカレノンっ! 遅刻するっつーの!!」
「あらっ……残念」
リサにぐいっと引き剥がされ、思わずしょんぼりする。
「んな悲しい顔すんな! 帰ったら続きでもなんでもしてあげるから、さっさと行くわよ!!」
「……へぇ? リサったら大胆っ♡ それなら今日も頑張れそうですっ」
「バ、バカなこと言ってないで行くわよっ!!」
リサは私の手をぎゅっと握り、玄関の扉を開ける。
今ではこれも、日常の一つになった。
「ふふっ、行きましょう」
そうして家を出て、しばらく一緒に歩き、中央街に出た辺りで――
「じゃ、行ってくんねっ」
「はいっ。お仕事、頑張ってくださいねっ」
「そっちも、研究頑張んなさいよ!」
リサは大きく手を振って、職場の方へ駆け出す。
私も手を振って見送った。
「さてっ、行きますか」
私も大魔法学院へと向かう。
――そして、今日も今日とて幸せな一日が始まる。
◇
「フルージェさん! 今日、ラボの皆さんとディナーでもどうですかっ?」
午前の講義を終え、カフェテリアでラボのメンバーとランチをしていた時のこと。
「ごめんなさい。私は――」
「ダメよ、フルージェさんを誘うのは」
私が答えるより先に、別のメンバーが口を挟んだ。
「……あっ。そうでしたねっ。リサさんが……」
その瞬間、隣のメンバーが慌てて遮る。
「ばかっ! 名前を出すんじゃ――」
「そうなんですよ皆さんっ! 今日も帰ればリサがいるんですっ!♡」
私は食い気味に被せてしまった。でも……皆さん聞きたいのでしょう?
「あの人ったら、今日も『レノンがやってくれるからいい』なんて言って、朝から私に甘えてきたんですっ!! もうっ、そのぐらい自分でやって欲しいものです! でもどうしてもっていうならやってあげなくもないんですけどねっ♡ あっ、あとそれから……」
「ほら……始まっちゃったじゃないか……」
「あははっ……お得意のリサさんとの惚気話ですね……」
「ちょっと皆さん、聞いているのですか!?」
「ちゃ、ちゃんと聞いていますよ! フルージェさんのとても大切なお方ですもんねっ!」
「……もう何千回と聞かされていますがねっ」
「ええっ? 何千回じゃ聞き足りないですかぁ?♡ しょうがないですねぇ! 実はこの前リサがですねぇ……!」
「だ、誰かフルージェさんを止めてぇ!!」
ああ、自分の心に素直になるって気持ちいいのですね。
……このままでは、いつかリサへの愛が爆発してしまいそうです。
午後の研究に区切りをつけ、学院を出る頃には空が夕焼けに染まっていた。
「……あらっ、もうこんな時間ですか」
お夕飯の買い物をするため、中央街へ向かう。
今日はリサの好きなハンバーグにでもしましょうかねっ。
「喜んでくれますかねっ、ふふっ」
誰かを思って献立を考える時間まで、こんなに楽しい。
早く会いたいな……リサっ。
◇
「ただいまぁー! 今日も疲れたわっ!!」
「おかえりなさい、リサっ!」
お夕飯の下ごしらえを終えた頃、玄関が開く音とともにリサの声が聞こえた。
私はエプロン姿でリサを出迎えた。
「……じーっ」
「なんです? そんな見つめて?」
「なんかエプロン姿だと、新妻感すごいわねっ」
「なんですそれっ、褒めてるんですか? もうっ」
私はリサをぎゅっと抱き寄せる。
「ちょっ、今日も外仕事だったから汗臭いって!!」
「だからそんなことないですって。すーっ……」
リサの首元に鼻を寄せ、深く息を吸う。
……ああ、リサの匂いでいっぱいです……♡
「だーかーらぁー匂い嗅ぐ癖やめなさいよっ! 変態かっ!!」
肩を掴まれ、ぐいっと引き剥がされる。
「そんなんじゃないですっ! でも、どんな香水よりも好きな香りですよっ?」
「褒められてるのか全くわからんっ! とりあえず汗流すっ! お風呂っ!!」
ぷんすこしながら、リサは私の手を引く。
……一緒に入る気満々なのが、また可愛い。
そのままお風呂場へ――
「というわけで、お背中流しますよ、リサっ」
「……なにがというわけかわからないけど」
「まぁまぁっ、いつもご苦労様ってことですよ」
私は石鹸で泡立たせたタオルで、リサの背中を洗い始める。
「そういや今日ね、職場の奴に『好きな人とかいるの?』って聞かれちゃってさっ」
「まあっ。なんと答えたのですか?」
「……いるって言っただけよ」
「え〜? 本当にそれだけですかぁ?」
意地悪く、指で脇腹をなぞる。
「んっ!♡ ちょ、ちょっとアンタのこと話しただけよっ!!」
相変わらずいい声出しますね。
それはさておき……。
「へぇ? 一体どんなことを?」
「……優しいとか、頭いいとか、魔法がすごいとか、その……き、綺麗な人だ……とか」
あらあらあらっ。そんな風に思ってくれてるんですねっ。
「リサぁっ!♡」
愛おしさメーターが振り切れ、そのままぎゅーっと抱きしめる。
「あーもう! くっつくな!! おっぱい押し付けないで!!」
「まーだそんなことで照れちゃうんですかぁ? 貴女って人は本当……可愛い人っ」
だからちょっぴり、いじめたくなる。
私はなるべく優しい手つきで、リサの胸に触れる。
「んぁっ!♡ きゅ、急に揉むなぁ……!!」
もみもみっ……。
「はぁー……この控えめながらしっかり柔らかい感触に癒される……あらっ?」
いつも通り堪能していると、ふと気づく。
「リサ……なんだか前より成長してきましたね?」
「〜〜っ!! だ、誰のせいだと思ってんのよっ!!」
「まぁ、私のおかげですねっ♡ 今度新しい下着でも買いましょうかっ。いつぞやのセクシーなやつみたいなのを――」
「わーっ!!! 忘れろ!!! そんな昔のことっ!!!」
そんな泡まみれのバスタイムも終わり――
「さぁ、できましたよっ!」
焼き上がった私お手製のハンバーグを、それぞれのお皿に乗せる。
サラダも添えて……っと。
「はーいっ。持っていくよっ!」
リサも料理を運び、二人で食卓の準備を済ませる。
「いただきますっ」
「いただきまーすっ!」
すぐさまリサはハンバーグにナイフを入れ、フォークで一口頬張る。
「……どう、ですか?」
「もぐもぐっ……うんっ! 美味いっ!! やっぱレノンの手料理がいっちばんだわっ!! にひひっ♪」
そのままの勢いでガツガツと食べ進めるリサ。誰も取らないんだから、ゆっくり食べてくださいよもうっ。
「一番、ですか。えへへっ……」
胸がじんわり温かくなる。
こんな何気ない食卓の時間が、私はたまらなく好きだ。
「お野菜もちゃんと食べてくださいねっ?」
「わ、わかってるっ!!」
慌ててもしゃもしゃとサラダを食べるのも可愛らしい。
「もぐもぐ……そういや明日ってどうする? レノンも休みでしょ?」
「そうですね、家事を済ませたいかな……と」
「なら一緒に家事終わらせて、午後からデートしよっ!! 職場でいい場所があるって教えてもらってさ!」
「まぁ! それは楽しみですっ!!」
こうして明日の楽しみも決まり、二人の夜は更けていく――
◇
「さぁーて、明日に備えて寝よっか」
お夕飯も終わり、寝支度も済ませた頃。
先にベッドへ入っていた私のもとへ、パジャマ姿のリサがやってきた。
「そうしましょうかねっ」
枕元のランプの下で読んでいた魔導書を、パタリと閉じる。
そしてリサは、私の隣に寝転がる。
「ふぅーっ。レノンっ、いつも美味しいご飯作ってくれてありがとねっ」
「どうしたんですか急にっ」
私も本を置き、リサと目を合わせるように寝転がる。
「別にっ。言いたくなったから言っただけよっ」
「ふふっ。素直に言っていただいて嬉しいっ。ぎゅーっ……」
そのまま、リサを抱き寄せる。
「アンタは本当に……くっつくの好きね」
「あら? リサは好きじゃないのですか?」
「……好き、大好きっ」
リサも強く抱きしめ返してくれる。
私、こんなに幸せでいいのでしょうか。
「リサ……愛してます」
「アタシだって……愛して……るっ」
見つめ合う私たち。気づけばゆっくりと……唇を重ねていた。
「――ぷはっ」
「――ぷはっ」
吐息も重なる。
……もう、我慢できません。
「では……朝の約束を果たしてもらいますよっ」
「へ? 朝のって……わぁっ!!」
私は身体を起こし、そのままリサに馬乗りになる。
「貴女が言ったんですからね……? 『続きでもなんでもしてあげる』って」
「――っ!! た、確かに言ったけど……!! 明日はデートがっ!!」
「デートは午後からですっ。だから多少の夜更かしは……ねっ?♡」
「だからって限度があるから――んんっ!!!!♡」
朝からお預けを食らったままではいられず、今度は貪るようにリサの舌を求める。
「はぁ! レノっ!♡ んんっ!!!」
朝とは比べ物にならないほど、はしたない水音が響く。
「ぷはっ!! はぁ……リサっ。まだまだこれからですからねっ?♡」
口元のよだれを拭う。
気づけば、汗もじんわりと滲み始めていた。
せっかくお風呂に入ったのに、朝はシャワー必須ですね。
「はぁはぁ……!! レ、レノンっ!!」
そして――
「……優しく、しなさいよっ?」
プツンっ。
頬を真っ赤に染め、潤んだ瞳でそんなことを言われたら……私……!!!
「――!!! リサぁっ!!!♡」
リサの両手を取り、指を絡めてぎゅっと握る。
「だから加減しろーーーーーっ!!!!!!」
そう叫びながらも、リサは私の手を強く握り返す。
昔は卒業のために繋いでいたこの手を、今はただ、好きだから繋いでいる。
――もう、理由なんていらない。
そして――
握り合う私たちの左手の薬指には、あの頃苦労して生成した魔法石をあしらった、お揃いの指輪が輝いていた。
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最後までレノンとリサを見守っていただき、ありがとうございました!




