噂のクラス
「二人の学校、有名だね」
ラジオの止まった喫茶店。カウンターに並ぶ二人の青年に、赤い髪の店主がカップを拭きながら訊いた。黒いカーディガンを羽織った青年は小さく首を傾け、白いセーターを着た男は「ああ」と呟いて店主を見た。
「俺にも取材させてくれって電話があったよ。断ったけど」
白いセーターの青年はため息交じりに言った。
「なになに、僕は知らないんだけど。ホズミに電話がきたってことは俺も知ってること?」
カーディガンの青年はホズミに体を向けた。
「ナキには電話こなかったんだ」と店主が言うと「高校に友達いなかったから。僕の連絡先知っている人なんていないよ」と拗ねたようにカウンターに腕をついた。
「それで、何が有名なの」
「ただの噂だけどさ、俺らのクラスが呪われていたって話だよ。誰かがネットに書き込んで、それが拡散されたみたい。内容は詳しく知らないけど、「イマキ」っていうクラスメイトに、俺らのクラスの人間が呪われているらしい」
ナキはわざとらしく眉をひそめて「イマキ」と呟き、「そんなクラスメイトいたっけ」とホズミをみた。ホズミは「俺も記憶にないんだよ」と首を振る。
「伊東君は何でその話を知ったの?」
ナキが店主に丸い目を向ける。店主も首を振り「俺もお客さんから聞いただけで詳しくは知らない」と苦笑した。
「誰だよイマキって。そもそも呪われているようなことあったかな。高校時代の記憶がないんだよね」
ナキは後ろに伸びながら、投げやりに言う。
「俺もすべてが曖昧だよ。不可解なことがあったかもしれないけれど、思い出せない」
「卒業アルバムを見れば思い出すんじゃない?」
店主の言葉に二人は目を合わせ、首を振った。
「俺はすぐに捨てたよ。大きくて場所とるし」
「僕は卒業式に出てないからね。家に届いたのかもしれないけど見ていない」
店主が「二人らしいね」と笑った。
「でもなんで呪われてるんだろう。うちのクラス、誰か死んだの」
ナキが頬杖をつき横目でホズミを見る。
「さあ。でも、在学中に誰かが死んだ気がするんだよ。誰なのかは全く思い出せないけれど。もしかしたら、転校しただけかもしれない。なんでだろう、なんでこんなに覚えてないんだろう」
「クラスメイトが一人いなくなったら、普通記憶に残るもんじゃない?」
ナキの問いに「でもナキは何も覚えてないんでしょ」と店主が呆れたように言う。ホズミは二人の会話が耳に入っていないようで、考え込んだ表情のまま珈琲の入ったグラスを睨んでいる。
「そういえば、前にもこんなことなかった?ホズミの修学旅行の記憶に僕がいたこと。僕は修学旅行にいってないのに」
ナキは考えることに飽き、ふざけた様子で口を尖らせた。
「そうなんだよ。高校の記憶はほとんど曖昧なんだ」
ホズミは沈んだ声で言う。その時、店主が「もしかして」と呟いた。二人の視線が同時に店主に向く。
「俺の想像だけどさ、イマキってナキのことじゃない?」
店主は申し訳なさそうにナキを見た。
「ナキの漢字って「今」と「帰る」でしょ。今帰って、初めて見るとみんな「イマキ」って読むんじゃないかな。しかもナキは修学旅行も卒業式も参加していないんでしょ。だから記憶に残りにくかったのかも」
ナキは目を丸くしたまま「だからって死んだことにしないでよ。しかも呪いだなんて」と大げさに声に抑揚をつけ「確かにクラス写真を撮る日も休んだけどさ」と笑いながら付け足した。
「確かに、イマキはナキかもしれない」
ナキと対照的にホズミの声は沈んだままだった。
「でも、確かに誰かがいたんだ。何かがあった。どうして思い出せないんだろう」
ナキは宙を見上げながらどうでもよさそうに言った。
「その誰かさんが、自分のことを思い出してほしくて僕の名前を使ったんじゃない?」




