手違い? 86
「これだけの距離のインフラを整えて、更に死の森の土地を整備、風力発電機を十基と取水設備、排水処理設備の追加設置……本当はCPも十二万前後になるかと思ったが、やはり、エリア拡大と住民ボーナスが得られているな」
遠くの方に見える王都を横目に見つつ、タブレットを確認して呟く。そうしていると、ミドとカラビアが窓から出していた顔を戻し、振り返る。
「どうかされましたか?」
「一番大きな壁がある。見える?」
ミドとカラビアからそれぞれ違う質問をされ、順番に答える。
「俺の管理できる範囲が広がったみたいなんだ。それと、大きな壁っていうのは王都の城壁かな?」
そう答えてから、窓の外に顔を出す。カラビアの言葉通り、王都まで残り百メートルまで迫っているが、城壁はもう見上げるような感覚である。恐らく、三十メートルはありそうだ。都市としての規模もあり、その迫力は想像を絶している。
「でっかいなぁー」
ミドとカラビアと一緒に窓から顔を出し、ぐんぐん近づいてくる王都の城壁を見上げる。首が痛くなりそうだ。
「ソータ様! 到着いたしましたぞ!」
「はーい」
ラウムから声を掛けられたので、馬車から降りて外に出てみる。城壁もデカいが、城門も馬鹿みたいにデカい。巨人が出入りしているのか、この門は。
「すっごいなぁー」
城門を潜り、天井を見上げながら王都へと入場する。本来なら王都に入る為の受付にかなり時間を取られるようだが、今回はリリーがいる為、顔パスである。
王都の中に入ると、その光景に度肝を抜かれた。建物は思っていた以上に近代的で、まるでヨーロッパのバロック様式にも似た作りである。建物は三階以上のものが並んでおり、道路は石畳が敷かれていて、綺麗に整備されていた。
道路の脇には街路樹があり、水路も流れている。かなり年月は経っていそうだが、それでも美しい街並みだ。見ただけでも、文化レベルが高いと理解できる。
「ソータ様。それでは、一度王城まで向かってもよろしいでしょうか? できたら、陛下にソータ様を紹介したいと思いまして……」
「え? 俺も行くの?」
面倒くさい。思わず、聞き返してしまう。それにリリーは慌てて両手を顔の前で振った。
「も、勿論、お時間は取らせません。現状については我々が説明しますし、少し挨拶を交わしてもらうだけでも……」
と、リリーは食い下がった。どうやら、国王への挨拶は逃げられないイベントらしい。仕方がないので、本当に最低限でお願いすると伝えた。
「ありがとうございます! それでは、我々は先に王城で話を伝えておきますので、ゆっくり御出でください」
リリーはそれだけ言うと、フォル達を連れて王城へ先に向かった。フロンスと騎士達は残ったので、全員で王城へ向かう。街並みを楽しむ時間ができたので、ミドとカラビアも嬉しそうである。
「人がいっぱいです」
「そうですね。ヴェリン王国の都市に行ったことはありますが、それと比べても十分過ぎるほど立派です」
「そうだね。かなり広いみたいだし、人口は十万人くらいいるかもしれないな」
そう答えつつ、タブレットを確認する。これまでの村や町に地下街を作ったことで、俺の街は大きく拡がり、人口とエリア拡大ボーナスで更に二十万ポイントを得ている。王都に地下街を作っても、恐らく三十四万ポイント前後残るだろう。
もし、王都の人口とエリアが手に入ったら、更に追加ボーナスを得るはずだ。それだけあれば、死の森を開拓することも十分に可能である。
そんなことを考えながら王都の中を歩いて行くと、やがて王城が近づいてきた。初めてのお城だが、これまた荘厳である。尖塔が幾つもある豪華で迫力のある城だ。赤い石作りの城で、周囲を高い塀が囲んでいた。
「大きな城だ」
そう口にすると、案内をしていたフロンスが大きく頷く。
「ええ。周辺諸国と比べても、我がセルディカ神聖国の王都と王城は壮大であると思っております。歴史はティアバルナ帝国と同等の長さであり、かつては大国の一つとして数えられておりました」
フロンスが自慢げにそう口にしたが、それだけ聞くと、段々と衰退している最中のようにも聞こえる。もしかしたら、セルディカ神聖国は本当はこのまま滅びる運命だったのかもしれない。
「成程ねぇ」
そう呟きつつ、見事な城を見上げた。ミドやカラビアは城を眺め、感嘆の声を挙げている。完全に観光客といった風体である。
フロンスもそのまま城に訪ねて行って良いのか悩んでいるようだし、ちょっと周りを散策しても良いかもしれない。そう思って周りを見ていたのだが、すぐに白い鎧の騎士達が集まってきた。遠巻きに取り囲まれ、思わず身構える。
「……そちらが、森の賢者殿で間違いありませんか」
その言葉に、フロンスが慌てて前に出る。
「ま、間違いありませんぞ! 賢者であられるソータ様です! どうか、丁重な御対応をお願いします!」
そう言って、フロンスが一礼する。それに、騎士達は顔を見合わせ、背筋を伸ばした。
「……承知した。それでは、後はこちらに任せてもらおう」
騎士がそう呟くとフロンスは心配そうな顔をしつつも、脇に退く。それを確認して、騎士達は目を細め、慎重に包囲を狭めていった。どうにも、不穏な気配だ。もしかしたら、騎士達はリリーが騙されていると考えているのかもしれない。
「森の賢者殿とお見受けする。話を聞きたいので、城内に来てもらおう。悪いが、武器などを所持していないか、部下が確認をする。抵抗しないように」
そう言って、更に一歩ずつ包囲を狭めてくる。他の騎士達は、片手を剣の柄に置いていた。
「……フロンスさん」
俺が声を発すると、騎士達は動きを止め、フロンスはハッとした顔で振り返った。
「あまり歓迎されていないようなので、ちょっと身を隠させてもらいます」
それだけ言って、タブレットのディスプレイに指を置いた。既に、画面には地下の住居が選択されている。
「そ、ソータ様……っ! しょ、少々お待ちを……っ!」
フロンスが慌てて声を発したが、既にもう住居の設置を選択してしまっていた。地鳴りが起き、周囲の騎士達が慌てふためく。その様子を確認して、すぐに出現したばかりの道路を渡り、地下への入口へ走った。
「ミド、カラビア!」
「は、ははは、はい!」
「う、ん……っ!」
名を呼びながら走ると、二人も慌てて階段を駆け下りてくる。即座に黒い板を操作して、自分だけを住民に設定し、扉を開けた。二人を先に家の中に入れて、階段を降りてくる騎士達を見ながら自分も住居の中に入る。
扉は即座に締まり、家は外界と隔絶された。
「……ふぅ」
もう安心だ。そう思い、息を吐く。
「に、逃げて大丈夫だったのでしょうか……」
リビングに座り込み、ミドが不安そうに呟いた。それに苦笑し、片手を挙げる。
「大丈夫でしょ。何かあれば、俺が作った物を全て撤去すれば良いんだし、この地下室の傍に地下鉄駅を設置して、マルサスさんのところまで逃げれば良いよ」
そう答えつつ、肩を竦める。
「まぁ、何かの手違いだとは思うけどね」
笑いながら答える背後で、どうにか扉を開けようとする音が響いてきていた。とはいえ、開けることはできないだろう。ミドは不安そうだが、気にせずにダイニングの椅子に腰かけた。タブレットを操作して、送電線と上下水道のみ接続しておく。
「……あ」
カラビアが小さく何か呟き、それに首を傾げる。
「どうかした?」
尋ねると、カラビアは眉を八の字にして、静かに椅子に座った。
「お、肉が、ない」
残念そうにカラビアが呟く。それに笑っていると、ミドが少し緊張を和らげて苦笑した。折角だから、リリーが訪ねてくるまでゆっくり休もうか。
「お風呂でも入ろうか」
「あ、それでは、お湯を入れてきます」
「いいよ。俺が準備するから」
そんな会話をしながら順番に風呂に入り、さっぱりしていると、ちょうど最後にカラビアが入っている時にインターフォンが鳴った。




