セルディカ神聖国へ行ってみるか5 72
木々の隙間から草原のような景色が目に入る。
「おお! ついに!」
「リリー様! 帰ってきましたぞ!」
フォルとラウムが声をあげ、リリーも重い足を引きずって前に出てきた。そして、木々の隙間から遠くの景色を見る。
「あれは、バシム! もうこんなところまで……っ!」
リリーは目を見開いて驚き、声を上げた。どうやら、思っていた場所と違ったようだ。
「バシム? セルディカ神聖国じゃないの?」
そう尋ねると、リリーは首を左右に振り、微笑む。
「いえ、セルディカ神聖国北部の要所、城塞都市バシムです。バシムは死の森に対して、王都の守りの為に設置された城塞都市ですので、王都までもう少しとなります」
「良かった。これで道が間違えてたら大変だったよ」
苦笑しながら返事をして、マルサスを見た。
「どうする? あの城塞都市には行ってみようかと思ってるんだけど」
「我はここで待つ」
「そうだよね」
マルサスの言葉に頷き、タブレットのディスプレイをタップした。マップにして、建設メニューを確認する。
「……ここで地下街というのも変だよね。どうしようかな」
そう言って考えてみたものの、良いものが思い浮かばず、建築メニューに表示される建物をスクロールして悩む。
「……あ、これが良いかも」
ようやく良いものを見つけて、選択する。まず、森に入ってすぐのところに道路を設置し、それに隣接する形でそれを設置した。
地鳴りを聞き、出来たばかりの建物を見る。大きな幅の広いスロープが地下に向かっており、その坂道を降りると頑丈そうな扉があった。左右を確認すると、予想通り、右側の壁に黒い板みたいなものが見つかる。
板に触れると、住民登録と同様の操作で使用者を設定できた。まず自分を設定し、マルサスとカラビアも設定する。
改めて板に触れると、頑丈そうな扉が音を立てて天井に吸い込まれていく。そして、現れたのは天井の高い、広い部屋だった。柱が四本立っている以外、特に何かがあるわけでもない。
「なるほど。これが小型地下駐車場」
そう口にしながら中に入り、タブレットを操作してインフラを整える。上下水道に接続して効果があるのか分からなかったが、送電線を引くついでに接続しておいた。
普通の住宅より少しだけ薄暗いが、地下駐車場の照明が使えるようになる。
「うん、中々だね」
そう言って振り返ると、後から付いてきた皆が駐車場内を見回して歓声を上げた。
「広いですね!」
「これもまた素晴らしい!」
「これだけ広ければ、多くの者が住めるでしょう」
リリー達も大絶賛である。とはいえ、この地下駐車場は仮の宿だ。
「今回限りにはなると思うけど、マルサスさんの家だよ」
そう告げると、カラビアが嬉しそうに駐車場内を見回した。
「マルサス兄様の家? 凄い!」
大喜びのカラビアの横で、マルサスは目を丸くして驚く。
「……ここが、我の家? 我だけの家か?」
驚くマルサスに、頷いて答える。
「そうそう。ただ、調理する場所とかトイレとかが無いから、本当に寝るだけかもしれないけど」
苦笑しながらそう伝えると、マルサスは口の端を上げて顎を引いた。
「……十分だ」
そう言って、駐車場内を見て回る。どうやら思いのほか喜んでいるようだ。駐車場の大きさなら鬼人族の体格でも広く感じるらしい。良かった、良かった。
「私も、マルサス兄様の家に泊まって良い?」
カラビアがそう尋ねると、マルサスが大きく頷いた。
「勿論だ」
マルサスが了承し、カラビアは子供のように素直に喜んだ。
そんな兄弟の会話に和んでいると、フォルが恐る恐るといった様子で口を開いた。
「あ、あの……もし良ければ、今日中に城塞都市バシムの方へ行けたら、と……」
そう言われて、笑いながら頷く。
「そうだったね。それじゃ、皆で行ってみようか。カラビアも行ってみない?」
「ぼ、僕?」
声を掛けると、カラビアは不安そうな顔をした。それにマルサスが眉根を寄せる。何か言おうか悩んでいるようだ。まぁ、そうだろう。一気に段階を飛ばしている。
マルサスの心情を理解しつつも、この機会を逃したくないという思いもあった。
「……今回は、何かがあっても王女様がいるからね。それに、もし追われるようなことがあれば本気で逃げるし、問題ないよ。どう? あの大きな街、見てみたくない?」
マルサスにも聞こえるようにそう言って、カラビアの目を見た。すると、カラビアはおずおずとだが、小さく頷く。
「……い、行ってみたい。街も、見て、みたい」
小さな声だった。しかし、マルサスは聞き取れたようだ。驚いたような顔をしている。
カラビアのその返事を聞き、笑みを浮かべる。
「よし。行ってみよう。大丈夫。マルサスさんは俺が説得するから」
「……聞こえている」
マルサスは溜め息交じりにそう言って、再度口を開いた。
「……分かった。だが、一日だけだ」
「一泊して帰るのは? 宿に泊まるだけ」
「……危険はないのか」
「俺が頑張る」
「…………分かった。だが、翌日は陽が昇ったらすぐに帰ってこい」
「おお、ありがとう!」
交渉は難航したが、どうにか許可が下りた。カラビアはマルサスが心配している姿を見て、何となく不安そうにしていたが、好奇心の方が勝ったらしい。何も言わずにこちらに歩いてくる。
「よし、ミドもローブを着ていけば大丈夫だね?」
「え? わ、私もですか? 大丈夫でしょうか……」
こちらも心配そうにしている。ハーフダークエルフという特殊な境遇の為、ミドは人間からもダークエルフからも差別される恐れがあった。
だが、今回はどうにかなるのではないか。そんな希望があった。
そっと、リリー達の方を見る。
「……だ、大丈夫です! 我々が必ずお守りします!」
リリーが真剣な顔で頷き、答える。
「よし、いけそうだね」
その表情を見て笑い、ミドを見る。すると、ミドは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「それじゃ、マルサスさんには悪いけど、六人でバシムに行こうか」
「うむ」
話は決まった。出発だ。
木々の陰からマルサスに見送られながら、皆で森を抜けて草原に出る。絨毯が敷き詰められているように緑の草が生えた草原は美しかった。
「すごい……空、大きくて広い」
「草原も綺麗ですね」
カラビアとミドが楽しそうに話をしている。感動するカラビアと、それに嬉しそうに同意するミド。
「街道に出て、城門へ向かいましょう」
「そうであるな」
一方、フォルとラウムはバシムへの入場方法を考えている。王女がいる以上、カラビアとミドがいても真正面から入場するつもりのようだ。
まぁ、二人が大丈夫と判断したなら問題ないだろう。
そう思い、皆で街道まで出て、城塞都市バシムの北門と呼ばれる城門を目指した




