カラビアの決意 64
扉が開くと同時に、家の奥からパタパタと足音が聞こえた。リビングは意外にも綺麗で、もしかしてカラビアが掃除してくれていたのだろうかと思っていると、すぐに本人が姿を見せる。
「……あ! お、お帰り、なさい……!」
緊張した様子で、カラビアが台所から姿を見せ、頭を下げた。以前見た時よりもずっと健康そうで、綺麗になったカラビアが立っている。しかし、着ている毛皮の御召し物が前より小さくなっている気がした。もしや、洗濯をして縮んだのか……。
「ただいま……良かった。元気にしてたかな?」
そう言って中に入ると、カラビアは小さく何度も頷く。
「は、はい。げ、元気に、してた、よ……」
答えつつ、少し涙ぐむカラビア。その様子を見て、ミドが慌てて歩み寄る。
「だ、大丈夫ですか?」
ミドが近くにいって声を掛けると、カラビアは眉を八の字にして、優しく微笑んだ。
「……皆が帰ってきてくれて、ホッとしたみたい」
その言葉を聞き、ミドは置いていってしまったことを懺悔するように、カラビアの腰にしがみ付く。
「ごめんなさい! どうしても、気になって……」
そう言って謝るミドに、カラビアは驚いたような顔になり、首を左右に振った。
「……え? あ、いや、僕は、いつも一人だったから、大丈夫で……」
カラビアの悲しい台詞を聞き、今度はミドが涙ぐむ。少し不器用だけど、皆優しくて思いやりのある子たちだ。そのことに、内心嬉しく思いながら笑った。
「それじゃあ、しばらく同居するかもしれない人たちを紹介するね。いや、人数が多いから、もう一軒家を建てるかもしれないけど」
そう言ってカラビアを見ると、目を丸くしてキョトンとしていた。
「え? 同居する、人?」
何を言っているのか分からないといった様子だったので、カラビアが安心できるように笑顔で状況を説明する。
「優しい人たちだから、仲良くなれると思うよ。それに、鬼人族の事情も知らないからね。俺やミドと同じ感じで接してくれたら大丈夫だから」
そう告げると、カラビアはウッと息を呑み、身体を固くする。その様子をみると、流石に心配になってきた。
「……どうする? 不安なら、遠目から見てみる? もしくは、ちょこっと挨拶だけして、もう一軒家を建てようか?」
そう尋ねると、カラビアは胸の前で指を絡め、俯きがちに首を左右に振った。
「だ、大丈夫……! ずっと、誰かと、話したいと思っていたんだから、恐がってたら、ダメだと、思う……」
カラビアは緊張しながらも、強い決意を感じさせる声でそう口にする。それに頷き、カラビアに村で買ってきた服を手渡した。
「それじゃあ、呼んでくるからこれに着替えておいてくれるかな? あ、ミドに服の着方は習って着てみてね」
そう言って微笑むと、カラビアは不思議そうに服を両手に持って眺めた。そして、俺とミドの服装を確認する。
「……二人と一緒?」
「そうそう」
「……着てみる」
どこか嬉しそうにカラビアはそう言って手に持った服を眺めた。そんなカラビアの横顔をミドも微笑ましそうに眺めている。見た目はミドの方が子供なのに、どうも兄の気持ちになっていそうだ。いや、年齢的にもミドの方が年上なのか。ややこしい。
そんなことを思いつつ、家から出て階段を上る。そこではリリー達が大人しく周りを見て待っていた。
「お待たせしましたー」
声を掛けると、興奮した様子のリリー達から質問攻めに合う。
「あ、あの巨大な塔には登れますか?」
「他の建物も、全てソータ様の……?」
「どのような建物なのですかな?」
そんな質問に、リリー達なら大丈夫かと思って答える。
「いや、電力っていう……なんて言うのかな? まぁ、特殊な魔力みたいなものを作って、遠くまで届かせる設備ですよ。ほら、村の近くに作った家も電気が……あ~、部屋の中が明るくなっていたでしょう? あんな感じで、遠くまで魔力を届かせたり、綺麗な水を送れるような設備ですね」
そう告げると、リリー達は今度こそ絶句してしまった。無言で各設備を眺め、人差し指の先でそれらの設備を指差し、かたかた震えながらこちらに振り向く。
「……こ、こんな遠くの森の中から、あの地下室まで、魔力が……?」
「あ、あの美味しい水は、この川から……?」
「な、なんという、技術……!」
三人が化け物を見るような目でこちらを見てきたので、流石に申し訳なくなってくる。なにせ、この設備も、それを建てる能力も、全て他者が作り出したものだ。自分の手柄ではない。
「いやいや、大したことじゃないですよ。はっはっは」
そう言って、片手を左右に振りながら笑って答えると、リリー達はその場で片膝を突いて跪き、祈るように手を合わせた。
「ああ……!」
「なんと、これだけのものであっても、大したことではないと……!」
「ぬ、ぬ、ぬぉおおおっ!! 感動したっ!!」
三人はそんな叫びを上げながら、涙を流したのだった。




