実家へ到着 63
森の中での一泊とは思えない快適な夜を過ごし、次の日の朝を迎える。
「……死の森の中とは思えない夜でした」
「ぶっちゃけると、王城での暮らしより快適な……」
「フォル殿。それは不敬にあたるやもしれぬぞ」
朝、リビングで寛ぐリリー達がそんな雑談をしている中、俺は村で購入した服に着替えたミドを見て拍手をしていた。
「おお、似合うなー」
「あ、ありがとうございます……」
少しお洒落な服にしてみたのだが、ミドは美少女と見間違うばかりの美少年だから良く似合っていた。なんならスカートを履かせても似合うだろう。いや、そんな趣味はないけどね。
「ミド様、見違えました」
「いやぁ、本当に美しいですなぁ」
「うむうむ」
リリー達もミドの衣装チェンジに気が付き、そんな感想を漏らす。それにミドは頬を赤くして俯き、小さな声でお礼を言っていた。いかんぞ。そちらに目覚めてしまう者もでるかもしれない。それくらいの破壊力だ。
服が似合い過ぎているミドの将来を心配しつつ、フォル手作りの朝食を食べてから家を出た。もちろん、電気によるコンロを見て、フォルが大騒ぎしたのは言うまでもないだろう。
家を出てから、ふとマルサスが昨夜のうちに大きく進んでいたらどうしようと心配になった。森の中を進む間、マルサスの足跡一つ見ていないのだ。魔獣の死体も見当たらない。それだけこちらに痕跡を悟らせないほどの距離を離れているなら、俺たちが家を建てて休んだタイミングも知らないかもしれない。
そんな不安を持って進んでみたが、その心配は無駄に終わった。三時間ほど進み、そろそろ昼食にするべきかと思っていた頃、坂道を登りきった瞬間、目の前に巨大な影が現れた。明らかに動物のようなその影に、ミドやリリー達が即座に臨戦態勢に入る。
しかし、その巨大な影はピクリとも動かなかった。よく見ると、そこには首がなく、少し離れた場所に頭が落ちていた。冗談みたいに大きな毛の長い牛のような見た目だ。頭には角が一本。口には一メートルはありそうな牙まで生えている。そんな恐ろしい毛長牛の死体に、ラウムが驚愕した。
「な、なんと……! これは、一角大牛!? 中型魔獣でも上位の存在ですぞ」
「……あまりにも死体が綺麗ですが、もしや、一撃で……?」
「切り裂いたような傷口です……! どのような魔獣がこんなことをできるでしょうか」
ラウムが驚愕とともに魔獣のことを解説し、フォルとリリーが傷口について言及した。俺とミドはそれに苦笑しながら顔を見合わせるのみだが、リリー達は一気に緊張感を増して周囲を警戒し始めた。
魔獣の死体がまだ新しいのは、マルサスが離れていない証拠である。
「まぁ、大丈夫ですよ。もうすぐ着くので」
そう言って笑っていると、リリー達は信じられないものを見るような目でこちらを見て、三人で顔を見合わせた。
「……これは、もしや……」
「恐らく……」
「これも、賢者様の御力というわけですな……?」
ひそひそと変な会話をしている様子を見て、ミドが困ったような顔で笑い、こちらを見上げてくる。それに曖昧に首を左右に振っておき、三人に声を掛けた。
「それじゃ、行きますよー」
「は、はい!」
「お、お待ちくださいぃ……!」
リリー達は置いていかれては大変と慌てて付いてくる。
それから、約六時間。ついに始まりの地にまで帰ってきた。川と開けた空間があり、対岸には巨大な風力発電設備が見える。川の上流には取水施設と送電塔、そして下流側には下水処理施設もだ。
「おお、ようやく着いた!」
もう足が棒のようである。膝がカクカクと笑うことが妙におかしくて、両手で膝を押さえながら笑った。
「ソータさん、お疲れさまでした」
ミドもホッとした様子でそう言って笑い、二人で微笑み合う。振り返ると、リリー達三人が送電塔を見上げて絶句している姿があった。
途中、送電塔は幾つもあったはずだが、深い森の中で気が付かなかったようだ。
「こ、これが、賢者の塔……」
「あの風車のようなものが周囲の魔力を吸収しているのでしょうか……」
「むむ!? あちらには別の建物も……」
どうやら、風力発電設備を家と勘違いしていそうである。残念ながら、もう何度も見てきた地下の住居が唯一の家だ。こじんまりとした素敵な家である。
「それでは、皆さんにもう一人、家族を紹介します」
そう告げると、リリー達はハッとした顔になり、居住まいを正した。この様子ならば、恐らく大丈夫だろう。そう思い、地下の家へと案内する。
「ちょっとお待ちください」
「は、はい」
緊張した様子で待つ三人。その視線に見送られながら、ミドと一緒に家へ戻った。玄関に行き、黒いパネルに触れる前にミドに尋ねる。
「……カラビア、寂しかっただろうね」
「……ご、ごめんなさい。どうしても、我慢できずに……」
「いや、ミドが悪いわけじゃないよ」
余計な一言を言ってしまったせいで、ミドが申し訳なさそうに俯いてしまった。それに謝罪しつつ、玄関を開ける。僅かな音を立てて、扉が開かれた。
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