番外編 ~愛する人と二人で~
クリスマス・イブという事で久しぶりに書いてみました。
番外編『~愛する人と二人で~』
この話は『第1000話 ~The end story~ 女神様といっしょ!』の後日談となります。
――魔王が倒されて既に三年。
レイ達の冒険も幕を閉じ、平穏に戻った彼らは王都にて各々の仕事に取り組んでいた。
「せんせー、さよーならー」
「はい、さようなら。帰り道は気を付けてね……バイバイ」
笑顔で帰宅する生徒を見送ったレイは一度職員室に戻って、自分の帰りの身支度を整えて自分も学校の外へ出る。
珍しく魔法学校の仕事を早く済ませ、久しぶりに早く帰る事が出来そうな彼は家路を急ぐ。
その途中、空から白い氷の粒が降って来た。
「雪か……」
レイが空を仰ぐと、そこには雲一つない暗い空から白い雪が降り注いでいた。
「もう冬……最近寒いわけだよ……」
凍えて冷たくなっている手を擦りながら、レイは自分の愛する人に早く会いたくて無意識に早足で家へと向かっていた。
「ただいま~」
レイが家の扉を開けると、中から暖かい空気が流れ込み、微かに良い匂いが漂ってくる。
「お帰りなさいまし、レイ様」
玄関まで出迎えてくれたのはエプロン姿のレベッカである。手にはおたまを持っていて、丁度料理中だったようだ。
「……うん、ただいま」
レベッカに笑顔で迎えられてレイは心から安堵する。
彼女達と結婚してから既に1年半の月日が流れていた。あれからレイ達は、カレンの両親の支援の下に一等地の屋敷を購入してレイ達は幸せな日々を過ごしている。
しかし、元勇者としてのレイの名声は王都内では広く知られて、彼は今も多くの人達から尊敬の眼差しを向けられている。
当然レイもそんな人々からの期待を裏切る事の無いよう、日々自己研鑽に努めている。
が、今は一人の学校の教師として生徒たちと向き合う日々。
学校の生活は大変だけど、勇者としての使命を果たすために命を賭けていた3年前と比べたら、今の方が遥かに充実していて毎日が楽しい。
だがそんな楽しい日々を送れるのは、目の前の彼女や彼女と同じくらい愛している仲間達のお陰だ。
「夕食の準備が整いましたので始めましょう」
「うん」
レベッカの言葉に頷いて、僕は食卓のテーブルに足を運ぶ。少し遅れてレベッカは二人分の夕食を運んできて、僕と彼女は椅子に背中を預けて食事を始める。
「「いただきます」」
手を軽く合わせてそう言いながら食事を始める。そして、レベッカの作った肉料理やスープを堪能しながら軽い雑談を交えて食事を進めていく。
「今日は皆様はお忙しいようで帰りが遅くなると連絡を受けております」
「あー、そうなんだ……皆、大変だね」
「もう年末でございますから……皆様、今年中に今残っている仕事や依頼を全て片付けようと躍起になっているように思えて心配で……」
「だね……カレンさんやエミリアは大丈夫だと思うけど、ノルンやルナはちょっと心配だよ。特にノルンは世界中を飛び回ってるし、いつも帰ってくるときはクタクタになってるからね」
「それに、ベルフラウ様とアカメ様も」
「……ああ、まぁね」
レイは自分の姉妹で二人の事を思い出して苦笑する。
今、彼女達はとある事情からこの近辺を飛び回ってお仕事をしている。
そのお仕事が何かというと……まさかのアイドル活動である。
今から3ヶ月ほど前、僕の勇者としての名声を知ったとある面倒な……いや、それは有名な貴族の方々から僕に話が来た。
『勇者レイ殿、貴方のご活躍は吾輩の耳にも届いておりますぞ!そして、アナタを慕う美しい女性達の事も……!』
『あ、ありがとうございます………』
『そこで、貴方の人徳を見込んでお話があります。是非、吾輩主催の大会に貴方の美しい花嫁達を連れて参加してくれませんか……!?』
『は、花嫁……!?』
……まさか、それがアイドル選考の大会だったとは。
その時はレベッカを含む他の皆は全員忙しかったので、家で暇そうにしていた二人を連れて行ったのだけど、その二人が見事に選考会で優勝。結果、二人のアイドルコンビが爆誕したというわけだ。
ちなみにグループ名は『光と闇(ライト&ダークネス)』である。
厨二心を無駄に擽る名前でその手の人に好評なのだとか。
二人のアイドル活動が王都で話題となり、今や彼女達は王都の一大人気アイドルとして名を馳せている。そのお陰もあってか二人は家に居ることが少なくなり、今現在レベッカは一人で家を切り盛りしている事が多くなった。
もちろんなるべく協力するようにしているが……それでも負担が大きいのはレイも理解している。
「まぁ、あの二人も楽しんでるみたいだからいいとは思うけどね……」
「前にアカメ様が帰ってこられた際、真顔で『ベルフラウとコンビ扱いされるのが気に入らない。お兄ちゃんが良い』と仰っておられましたが?」
「そこで僕に交代させようとするのに、そこはかとなく悪意を感じる」
「レイ様が女性としてアイドル活動すれば、あっという間に天下を取れるとレベッカは確信しております」
「いや、僕は男だから……どのみちアイドルなんて僕には無理だけどね……」
あんな華やかな仕事は二人みたいな美少女こそやるべきだ。未だに道行く人に女と勘違いされてしまうような自分にはとても似つかわしくないとレイは考える。
「でも二人って今はそんな仲悪くないでしょ?」
「はい、アカメ様もベルフラウ様に対しての態度には少々棘がありますが、言葉の節々や態度に愛情を感じております。今では二人で買い物に出掛けることもあり、二人の仲はもう心配ないと思われます」
「それなら良かった。まぁ今のアカメが姉さんを殺す様な事は絶対しないって分かってるけどね」
敵だった頃のアカメが姉のベルフラウを殺そうとした事を思い出す。
だがあんな事はもう二度と起こらないだろう。
それから二人きりの夕食を終えると、二人で食器を片付けて夕食の片付けを行う。仕事を終えて二人で居間のソファーで寄り添っていると、レイは外の雪の事を思い出して言った。
「そういえば……外、雪降ってたよ」
「初雪でございますね。そういえば、以前にベルフラウ様が『もうじきクリスマスが近い』と仰っておられました」
「あー……言われてみると……今日はイブ辺りかな」
「ふむ、クリスマス・イブでございますか?」
「そうそう、聖なる夜で恋人たちが一緒に過ごす日だね。まぁ本当は別の意味があるらしいけど」
僕はそう話しながら窓の外に目をやる。
あれからずっと雪は降っており、雪は少しずつ積もってきているようだ。
「レイ様、雪が気になるのですか?」
「ああ、うん……まぁね……」
幼少の頃、レイは雪が降ると母の美鈴と一緒に外で雪だるまを作って遊んでいたことを思い出す。今はもう会う事が出来ない両親の事をレイは時々思い出と一緒に思い返すことが多くなった。
「……」
「……外、少し出ますか?」
そんな彼の心情を理解しているレベッカは、ソファーから立ち上がって彼の手を取る。
「え、でも寒いよ」
「ふふ、ではレベッカの愛情という魔法で暖めて差し上げます。そうすれば寒さなんてへっちゃらでざいますよ」
「あー……うん。じゃあ、お願いします」
「はい♪」
レイが頷くと、二人は手を繋いで外に出る事にした。
外は雪が降っており、既に地面や家の屋根には積もっていた。
「これはまた積もりそうだね……」
「そうですね。雪だるまを作るにはとても良い環境かと」
そんな他愛もない話をしながら、二人は家の周りを散歩する。そして暫くして、二人は家の前の広場に辿り着くと、そこはイルミネーションに彩られていた。
「……綺麗でございますね」
「本当だね……」
雪に反射したイルミネーションがとても美しく、二人は思わず言葉を漏らす。
周囲を見るとベンチには如何にもな男女が幸せそうに寄り添っている。ここはまさに恋人同士の為に作られた聖域であり、二人は少しだけ場違いに感じられた。
何せ二人は恋人ではなくもう夫婦なのだ。
そんな心情を互いに理解していたのか、二人はどちらか声を掛けるまでもなくその場から離れる。そして、互いの手の温もりを感じながら少し離れた場所で立ち止まる。
レベッカは言った。
「レイ様、わたくしの事を大事にしていただいて感謝しております」
「どうしたの、いきなり?」
彼女の事を大事にしているなんて言うまでもない。
それはお互い様だし、今更口にせずとも二人は理解している事。
「レイ様はお優しい方です。わたくしにいつも気を遣っていただいて、わたくしは本当に幸せ者でございます」
「そんなの僕だって同じだよ」
「そして……いつも私の身体を気遣って頂いているのも……わたくし、気付いておりました」
「……!」
レベッカの言葉にハッとして、レイは彼女の目を見る。吸い込まれそうな彼女の紅の瞳は、まるでレイの心を見透かしているようだった。
「……レベッカ、もしかして自分の事を……?」
「……はい。以前にレイ様方と冒険の日々を送っている時から、自分の身体が少しずつ以前と変わっていることに薄々勘付いておりました」
レベッカはそう言いながら自分の小さな身体を自分の手で抱きしめる。
「いつまで経っても幼いこの身……不思議だと感じておりましたが、この異変が起こり始めたのはミリク様と出会ってからでした……わたくしの身体……少しずつ人間ではなくなっているのですね……」
「それは……」
レイは思い出す。かつて彼女の父親に言われたことを。
『……私の見立てではおそらくあと数年。レベッカは数年経てば完全に肉体の成長が止まってしまう。そうすれば内包するマナの質が変質し永久的に体内を循環し始めて不老不死と肉体となり、徐々に人間ではない別の存在に成り替わっていく』
『”人”としてのレベッカのリミットはおそらく4、5年だと思う。……私はね、レイ殿。娘に人としての幸福と母としての幸せ人生を歩ませてあげたいのだ』
彼女の父ウォルターの言葉がレイに圧し掛かってくる。
そう、今の彼女にはあまり時間が無い。
このまま何もせずに時を過ごしてしまえば、レベッカはいずれ『神』として生まれ変わる。
そうなれば彼女は人間を越えた別次元の存在となり、その身は一生変わることのない不老の存在となる。そしてそれはレベッカは人間としての機能を失う。
「(……いずれ、こうなってしまうって理解してたのに……!)」
彼女の今の状態『神化』を解除する方法をレイは知っていた。
それでもなおレイがそれを止める手段を使えなかった。
その手段は……『彼女の胎内に子を宿す』ことだ。
「……」
レイ自身にそこまで踏み込む勇気が無かったのも勿論理由の一つだ。だが本当の所は、幼い彼女の肉体で子を宿す事で彼女を壊してしまいそうで怖かったのだ。
例え、彼女の『神化』を解除出来たとしても、人としての彼女に後遺症が残ってその後の人生を台無しにしてしまうのではないか?
そして、自分が彼女と婚姻を結んだ本当の理由を彼女に悟らせてしまうのが怖かった。
だが、このままだと全てが手遅れになってしまうかもしれない。
「……レイ様」
レベッカは自身を抱きしめていた手をこちらに向けて伸ばす。
「……レベッカ、キミは自分の身体の事を……」
「……感じております。……内側から有り余る力が迸り、少しずつ身を造り替えていることも……そして心臓の鼓動が遅くなっていることも。おそらくあと数年以内に……わたくしは……」
「……っ!」
レイは無我夢中で彼女の身体を抱きしめる。今の彼女を決して離すまいと。
「レイ様……わたくしは……」
「ダメだ……キミが神になるなんて僕は絶対にさせない……!」
レイは必死だった。
まるで天へと帰る彼女に無理矢理縋りついて足を引っ張るように。
「……」
そんな彼を見て、レベッカは覚悟を決める。
そして彼にこう告げた。
「……レイ様………わたくしを……」
レベッカはそこで羞恥に顔を染めるが、
彼女は自分に縋るレイの身体を細い腕で抱きしめながら彼に囁く。
「……わたくしを……抱いてくださいまし……」
その一言はレイにとって衝撃だった。
その言葉を頭の中で反芻し、その意味を理解して……彼は我に返る。
「……良いの?」
互いに顔を赤らめながらもレイは彼女に聞き返す。
当然、その意味は互いに理解している。
「……はい。わたくしレイ様にならこの身を委ねられます……」
そう言いながらレベッカはレイから一歩離れて後ろを振り向く。
「……きっとこの聖夜の夜はわたくし達にとって祝福の日だと思うのです」
「……」
レベッカはこちらに振り返る。
「わたくしの全てを奪ってくださいまし……レイ様」
「……レベッカ」
二人はその場で深く抱擁してキスを交わす。
そして、互いの意思を確認し合うとゆっくりと手を取って家に戻る。
……その後は語るまでもない。
それから数カ月後……。
彼女の身に二つの命が宿ったことを知った二人は喜んだのだった。
番外編『~愛する人と二人で~』―END―
久しぶりに女神様といっしょ!の続きを書けて楽しかったです。
もし面白かったのであれば、評価や感想を下さると嬉しいです。




