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番外編 〜闇落ち勇者 なんか奴隷にされたから、魔王と手を組んでみる事にした⑦〜

最近頑張って書いてます。

ただ、寝ぼけながら書いてることが多いので、誤字脱字が多いです……。(すみません!)もし見つけたら、誤字報告いただけると嬉しいです!

見つけがいがあると思いますっ(*゜∀゜)

「何だ? お前は。 ……ははぁ、さてはラウを掠め取りやがった陰気なむっつり野郎だな? だっはっはっはっはぁ!!」


「ムッツリ? マジかよ、超ウケるんだけど! 腹いてぇわ!」


 追いつき、回り込み、奴らの前に立った俺を、クソ共は指を指して大笑いした。

 どうでもいい。こんなクソ野郎共に何を言われようが、どうでもいい!


 そんな事より、ラウは―――



 男に抱えられたラウを見たとき、俺は怒りのあまり目の前が赤くなった。


 あれ程嫌がっていた薬を打たれたのか、ラウの目は潤み、明らかに正気とは言えない光をともしている。

 俺の作ってやった、獣の毛皮と草のつるで作った下手くそな服は剥ぎ取られ、代わりに上等な布の服を着せられている。ただし、その腕に、身体に、細く丈夫な縄がぐるぐると巻かれ、ぜぇぜぇと喘ぎながらも、身動き一つ取れないでいた。



 ―――まだこれ以上、酷いことができるのかよ?



 俺は奴らを本気で殴り飛ばしたい思いに駆られたが、A級の魔物共すら歯牙にかけない俺が奴らを本気で殴れば、どうなるか等簡単に想像ができた。

 今の俺に、手加減なんぞしてやれる余裕はなかった。


「―――それ以上、ラウに汚い手で触んじゃねぇよ」


「「「っ!?」」」


 魔力は込めてないはずだが、俺の低い唸りに、クソ共が恐慌状態に陥る。


 俺は身動きの取れないクソ共をすり抜け、ラウを腕に抱き締めた。


「すまねぇ、ラウ。……辛かったな。辛かったよなぁ、すまねぇ」


 ぜぇぜぇと荒い呼吸をし、焦点の定まらないラウ。

 俺はラウに絡まった縄を切り、耳元で囁いた。



「帰ろう。 ここじゃねぇ、どっかに」



 もう、どこでも良い。魔王も、使命も、世界も、当然クソ共も、もうどうでもいい。

 お前にとって、辛いことが1つもない遠い所へ、一緒に行こう。

 俺が、守ってやる。




 ―――? 今、一瞬ラウと目があった気がした。

 そんな筈はない。平時でもそんなこと稀にしかなかった。

 薬を打たれたこの状態で、そんな事あるはずねーよな。


 俺はありえないと思いながらも、ふっとラウに笑いかけた。



 ―――ピィ〜〜〜〜〜……




 不意に、音が響いた。


「ふ、ハハッ! どんな魔法を使ったか知らないが、油断したな!」


 見ると辺り1面に、毒蛇が俺達をビッシリと、取り囲んでいた。


「俺達は蛇使い(テイマー)だ! その女を巻き込みたくなきゃ、さっさとこっちに渡せ、このムッツリ野郎が! まぁ、何れにしろお前は血祭りに上げてやるがな!!」


 誰がムッツリだ、クソ野郎。

 テイマーって、どうせその笛になんかの命令式を書き込んで、音で操ってるだけの道化野郎だろが。


 男の笛の音を合図に、他のクソ雑魚共も、身動きを始める。


「ハイー、10数えるぞ? その間に女を離せ。いいか?い~ち、にぃ〜い、さぁ〜〜ん、しごろくななはちくじゅ! ハイおしまいぃ―――!!!」


 男がニヤリと気味悪く嗤い、蛇が一斉に飛びかかってきた。


 俺は避ける。幾千の蛇を避けまくる。言ったろ? 俺は今、マジで手加減なんて、出来ねえんだよ。

 俺に攻撃させようとすんなよ。


 避けることは簡単だし、多少クソ蛇共の吐いた毒がかかったところで、勇者の力とやらが、すぐに中和してくれる。

 唯、ラウはそうは行かない。

 俺はラウを数千の蛇からひたすら守った。

 誰かを守ることが難しいと、初めて知った。そして初めて、この勇者の力とやらに感謝した。


 走れど走れどここは森。木の上から地面から蛇がぼとぼとゾロゾロと這い出してくる。

 ホントよくこれだけ集めたもんだよ。


「わかってねぇなぁ。蛇は主力じゃねーんだぜ?」


 不意に頭上から下品な声が聞こえた。

 木の上から巨体の男が、こちらに剣を向け落ちてくる。


 俺は身を翻し、紙一重でクソ野郎の剣を交わす。

 一人ならば余裕だが、ラウを抱えている以上あまり激しい動きはできない。

 ラウに衝撃が行かないよう細心の注意を払い、体制を立て直す。だが……


「いらっしゃぁーい!!」


「!?」


 後ろの茂みから突然槍が突き出してきた。


「避けるの上手だねぇ? 何で攻撃してこないのかな? だけどもう後がないよ?」


 俺の避ける先々から、まるで見透かされたように待ち構えていたクソ共が刃を突き出してくる。当然、蛇共も絶えず飛びかかってくる。


 うぜぇな。

 ホントにうぜえ。




「ハイっ!これでチェックメイトぉ!」


 左右を大木に挟まれた場所で、前と後ろからナタを持ったクソ共が同時にその刃を振る。


「何がチェックメイトだ。キモいな」


 俺は高く飛び上がり、その刃躱した。


「―――いいや、チェックメイトだ」


 クソの呟く声が聞こえた。


「あ、  あぁうぅぅ―――!」


 突然、腕に抱いたラウが身をよじった。


「!? ラ、ラウ? ……っぐふ!」


 俺は思わずバランスを崩し、着地に失敗する。ラウに怪我をさせないよう体を捻った拍子背を岩でぶつけ、俺はくぐもった呻きをもらした。



「っいってぇ……おいラウ、一体なん……」


「おいおい〜、どういう事だよ? ここにきて盾にするとかあり得なくないか? 信じらんねぇ」


 あ?

 何言ってんだよ、クソ野郎が。

 そんなことよりラウは無事か?      




 ラウ?




 ラウは立っていた。俺の無様に転がるその前に。

 嘘だろ? お前立てたのかよ?


 だけど次の瞬間、その身体はまるで糸が切れたように崩れ落ちた。


「え? あ、  え?  ラウ?」


 慌てて抱き寄せたラウの胸に、一本の太い棒が生えていた。

 そして、じわりと染み広がる目と同じ色のそれ。


「まじで信じランねぇ―――!! ここまで迎えに来てやったのに、そりゃどういう事だよ!?」


「お前の腕がポンコツだからだろ! せっかく俺らで追い詰めてやったってのによぉ!? てめぇの方が信じられんわ!!」






 え?      え?    本当に、どういう事だ?



 ちょっと待て。  本当に分かんねえから、ちょっと待てよ?



 混乱する俺の目と、ラウの目が合った。



 しっかりと俺を見てる。


 ラウが   俺を見た。




「なんだよ、待てよ。お前弱いくせに……何やってんだよ?」


「―――ぃ……」


「!? え? 今何つった!?」


「―――っは、……ちゃんと、ラウって呼んでくれないと、教えてあげない」


「な!?」


 ラウが喋った!

 俺を見て。 俺の目をしっかりと捉えて、俺に喋りかけてる!


「あぁ、ラウ! ラウ、ラウ、ラウ! 何度だって呼んでやる! だから待ってろ。頑張れ! 今、今―――」


 早く治療しなきゃいけない。だが矢を抜くと血が吹き出すから駄目だ。俺は聖女じゃない。勇者だ。どうやって治療する? 早くしないと。だけど、どうやって? 早く、早く……


 混乱して震える俺の手を、温かいラウの手が包み込んだ。


「違う。聞いて。ちゃんと呼んでくれたから、教えてあげる。私が……ラウが、何でこんなことしたか」


「え、 は?」


「ラウは、……あなたが好きだった。あなたを守りたかった。そこに絶好のチャンスが来た」 


「な、何を?」



 ―――死ぬ時くらい、好きな人を守って死んでいいでしょ?



「――――――っ」


 あの時は、何も言えなかった。

 今は、言えるだろ? 格好悪くても、無様でも、後悔しないように、ちゃんと……



「よく、……無いだろ! よくない!! 断じてだ! 俺もラウが好きなんだっ、愛してる!!  ど、どうだ!? マジで恥ずかしいんだぞこれ!」


 俺の叫びにラウがキョトンとした顔で俺を見る。


「だけど、これからお前の為に恥を偲んでいくらでも言ってやる。 なぁ、どうだよ? 生きたくなってきただろ? だから、死んじゃ駄目だろ……、ラウ、頼む……頼むから」


「……うん。生きたい。 もっと聞きたい」


「じゃあ……」


「ごめんね」


「……っ」



 なんで、ラウばっかりこんな目に……?

 なんで、ラウの親はこいつを捨てた?

 なんで、人買いはこんな奴等のとこにラウを渡した?

 なんで、なんで、なんで、なんで、俺は、



 ラウを一人にした?




「ありがとう。 ―――ラウはね、全然平気だったよ」


 ラウが嬉しそうに笑った。

 同時にラウの手からふっと力が抜ける。


「ラウ?     ラ……」



「いい加減にしろや」


「あーぁ、下らねえ寸劇見ちまったな」


「クセぇクセぇ。シラケるねぇ」


「とか言いながら、お前ら最後まで見てたじゃん!? ダハハハハハ!」




 煩い。





「……もぅ、黙れ」



 ―――パンっ



 俺の呟きで、馬鹿笑いしてたクソの頭が弾け飛んだ。




「   は?  」




 隣で血しぶきを上げるクソを見て、クソが上擦った声を上げる。


 それすら煩い。


 もう、お前等は一言も喋るな。




 ◆





「漸くお前にも愛が何たるかを理解出来たか。しかしこれは……」


 臭いクソ共の血の海の真ん中で、俺は体温の無くなったラウを抱え、ただ座りこんでいた。


「……よぉ、ガルガル」


 俺は俯いたまま乾いた声を上げた。


「愛? コレの事か? ならもう無くなったぜ。 もうなんにも無い。何処にも」


 始めっからこうすれば良かった。

 何であの時、あのクソ共を生かそうなんて考えたんだ? 人を守ろうとする勇者の呪いか?

 いや、違う。俺の弱さだ。

 一線さえ越えなきゃ、いつか俺もラウも皆と同じように笑い合える時が来るかもしれねぇ……なんて気がしてた。


 ―――こんだけやられ放しだったっていうのによ!


 俺はどんだけ馬鹿なんだ!?



 叫びが声にならず沈黙する俺に、ガルガルは淡々と声を掛けてきた。


「……世界の何処かで、何時も悲しみと喜びは生まれ来る。これもその一つに過ぎん。お前の行動の1つの結果でしかない」


 俺はキレた。


「知ったような口聞くんじゃねぇ!! お前もっ、殺してやる!!! う"お"お"ぉ"お"お"ぉ"お"ぉ"お"お"!!」


 俺の本気のマナを込めたデス・メタル(デスヴォイス)を放った。

 しかしガルガルは魔王を名乗るだけあって、流石にそう簡単にはクソ共のように壊れない。

 だけどヤル。―――絶対に!


 俺は更にマナを込めると、何故か急に目の前が赤くなった。


 不思議に思い目を擦ると、腕にべったりと血がついていた。

 鼻や、喉の奥からも血が溢れてくる。


 体の中のアチコチが壊れていく。だけど構わない。皮膚が弾け破れていくが、気にせず更にマナを込める。


 辺り一帯の木々が裂け塵となり、大地が消し飛ぶ。


 ガルガルの頬に出来た一線から、青い血がプシャッと吹き出した。


「……」


 ガルガルは指先で垂れる血を拭い取ると、低い声で言った。


「もうよい」


 次の瞬間ガルガルの姿が消えたかと思うと、一瞬の内に俺の前に現れ腕を伸ばし、凄まじい力で俺の喉を締め上げた。


「ガッ……」


「もう良い。今までの勇者はその心に持つ愛を、ゼロス神の創った世界の万物に向けた。だがお前は違う。たった1つ、その抜け殻になった者だけに向けた。自分に向ける愛さえ欠片も残さずにな」


 そうさ。こんな世界壊れちまえばいい。俺もどうなったって構わない。

 壊してやる。こんな世界。ラウのいないこんな世界なんて!


「その結果、まさか真の姿をした余に傷を付ける程の力を出すとは。肉体の壁を突き破り、魂に込められたマナを開放したか。見よ己の姿を。ボロボロではないか」


「ゴホッ、ガハッゴホォッ!」


 余裕をかましながらガルガルはそう言うと、ポイと俺を投げ捨てた。


「っ……っラウ!」


 無様に倒れた俺は、更に無様に、転がるように再びラウの亡骸に縋り付く。


「……やれやれ。極端なのも困りものだな。 そう言えば、―――」


 ラウを抱きしめ震える俺を、ガルガルは呆れ果てたように見下ろし、ふと何か思い出したかのようにポツリと言った。


「この世界にたった一つだけ、死者を生き返らせる力がある」


「!? なんだ!? アンデッドやグールってことか!? いや、それでも構わない! ラウを、ラウをもう一度!」


 ガルガルのその言葉に、俺ははっと顔を上げる。

 そぅ、そうだよ! 

 コイツは魔王。グール共のような魔物だって従えている“魔物の王”なんだ!


「ふむ。その方法も知っているが、薬漬にされ壊れた者の魂では難しかろうな」


「じゃあ一体……いや、何でも良い! 頼む! 何でもする! どうか教えてくれ!!」


 泣きすがる俺に、ガルガルは言った。





「聖域を目指せ。そこにその“力”がある」






イビスの師匠、妖精のヴォイスちゃんは、デスメタル系女子でした。(〃∇〃)

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