番外編 〜隣のお兄さんは魔王でした。僕は勇者なんですが、この想いを伝えても良いですか?③〜
評価、感想ありがとうございました!
すごく嬉しかったです!
これまでに評価下さった方も、併せてありがとうございます!
あと誤字報告も、ありがとうございました。
「「キャアァアァァ!!! 勇者様とガルム様よ!!」」
「まさに光のプリンスに闇の貴公子‥‥はぁ♡」
「勇者様、これ手作りなんですが良かったら貰ってください!」
「あっ! わ、私も!」
「ありがとう。頂くよ」
僕はそう言って、差し出された可愛らしい袋を受け取った。
僕達が学園の廊下を歩くと女の子達が叫び、ソワソワとしながらプレゼントをくれる。
断るのも申し訳ないので、僕は全ての贈り物を受け取るようにしていた。
すると隣を歩いていたガルム兄さんが、からかうように僕に言う。
「アーサーはモテるな。沢山のプレゼントを貰って」
「……」
僕は無言で笑顔だけを返した。
いや、実際ガルム兄さんも以前は色々貰ってたんだ。
だけどガルム兄さんの対応に、女の子達の方が皆玉砕‥‥というか、心をバキバキに折られてしまった結果が今だった。
とはいえ、別に対応が酷かったわけじゃない……というか寧ろ逆だ。
手作りのハンバーグ弁当のお返しにと、翌日手作り5段重箱フルコース弁当を返されたら、そりゃ女の子としては自信を失うよね。
しかも返された空のお弁当箱には香り付きの“ありがとう”のメッセージカードと、手作りハーブクッキーが入ってるときた。
返された女の子は一瞬、誰も声を掛けられない程凹んだ後、もの凄くいい笑顔で「私、諦めたわっ☆」と言っていた。
因みにその重箱弁当箱は、クラスの皆にとても美味しくいただかれる事になっていた。
学園に入学して早3年。
僕は入学後すぐにマナの扱いに目覚め、今ではルーン文字の解析や新魔法の研究なんかもするようになっていた。
ただの一学生でしかなかった僕だが、勇者の特権で、図書館では禁書指定(貴重すぎる為)となっている大魔法使いガルシアの手記なんかも見せて貰うことが出来たから、研究はとても捗っていた。
例えば手記によるとルーン文字は、全部で43518文字あるそうだ。
ただ学校で基礎として教えられている文字は、たった120文字しかない。
因みに今現在、一流と呼ばれる魔法使いの間で把握されている文字は基礎を含む192文字。
そして未だ未解析とされている研究中の文字
は3434文字もあった。
……あぁ、うん。数が合わないね。
というのも、手記によれば“全てのルーン文字は12枚のミスリルの石板に刻み込まれた”とあるのだけど、ガルシアの死後石板は学園に保管されていた一枚を残し、他は全て行方不明になってしまっていたのだ。
その謎に満ちた石板について、別の文献によれば“石板を全てを見つけ手にした者には、神の叡智が与えられる”なんて書いてあったけど本当かな?
僕は胡散臭いと思ったのだけど、同世代の学生達にとってこの“12枚の石版の伝説”は、グリプス大迷宮攻略と同じくらい夢溢れる物語とされているようだった。
僕の学園生活はそんな感じなのだが、ガルム兄さんはと言うと、相変わらず魔法の課題を全て物理で乗り切っていた。
まぁ神業過ぎて誰も気付いては無いけどね。
だけどガルム兄さんの使う魔法は、あまりにマナが動かないと指摘されたことはある。(魔法使ってないから実際動いていない)
学園側はそんな兄さんを言及するかと思いきや、“明鏡止水のガルム”なんて2つ名まで付けて秀才であると褒め称えていた。
「ねぇ、ガルム兄さん。この後また剣の稽古をつけてくれないかな?」
「構わない。お前は魔法学園にいても剣が好きなのだな」
「うん。僕は強くなりたいんだ。もっともっとね」
「そうか。この前教えた“瞬歩”は出来るようになったのか?」
「うん。出来るようになったよ。後で足周りのチェックをしてよ」
「良いだろう。出来る様になっていたら次は新しい技を教えてやる」
そんな話をしながら僕達が学園内にある実技場に向かっていると、通り掛かった学園長先生に声を掛けられた。
「おお、これはこれは、神童アーサー様!」
「学園長先生、神童はやめてください。僕なんかに、その名をつけると、主神ゼロス様に不敬です」
「いやはや、謙虚で実に信仰厚いですな。流石、勇者様。これからどちらへ?」
「実技場に。剣の鍛錬です」
「いやはや、流石、勇者様!十分お強いのに、更に上を望まれますか!しかし魔法の方はどうですかな?アーサー様の助力もあり、ここ数十年凍結していた、ルーン文字の解析が、再稼働したのですからな!どうぞこちらにも、また力を貸してくだされ」
「はい、ご心配なく。今は大魔法使いガルシアの手記を辿り、魔法の荷物袋を再現させようと、新たな魔法陣を構築している最中なのです。……だけどルーン文字が足らず、新たな文字を探さないといけないと思ってる所でしたから」
「なんと! 素晴らしいですなぁー、それはいやはや楽しみですなぁー!」
そして学園長先生は上機嫌に鼻歌を歌いながら去っていった。
「ルーン文字を探しているのか?」
何か思いついたように、ガルム兄さんがふと口を開く。
「そう。座標移動に対応できるルーンが必要なんだ。今ある石版に望みの文字があればいいんだけどね」
「他の石板か……はて、ガルシアなら一体何処に隠すかな」
ふと兄さんが腕を組んで考え込んだ。
だけど直ぐに顔をあげると、どことなく柔らかい表情で遠くを見詰め、懐かしそうにこう続けた。
「……おそらく奴なら、大切な物は愛する者達との思い出の地に隠しているんじゃないか? 素直で単純。そして俗世的な奴だったからな。―――手記を探るといい。あいつが何を大切にしたのかを探せ。ソレがおそらくヒントになるだろう」
「……」
―――いつか僕も旅に出たら、大魔法使いガルシアの縁の地を巡ってみるのも良いかもしれない。
ふとそんなことを思ったのだった。
◆◆◆
「勇者様、卒業おめでとうございます! 共に学べたことは生涯の誇りと致しますわ」
「ありがとう。君も卒業おめでとう。僕こそ共に学べて光栄だった。これからも進む道は違えど、互いに頑張ろうね」
「ハイィ♡」
王立魔法学園ノルマンは四年制だ。更に勉強を続けるなら専修学生や院生、準教員、教授、若しくは学芸員と言う道にも進める。
だけどこの僕には、ノルマンに残るという選択は存在しなかった。
このノルマンで多くの実績を残し、首席で卒業した僕は、かつての“無能勇者”のレッテルなどすっかり取り去られてしまい、再び教会から招集令が出されたのである。
ノルマン最後の行事である卒業式が終わると、 ガルム兄さんが満足そうな笑顔を浮かべ、僕に花束を渡してくれた。
「強くなったなアーサー。喜ばしく思うぞ」
「ありがとうガルム兄さん。全部ガルム兄さんのお陰だよ」
僕はそう言うと首席の証として渡された黒いシルクのスカーフを、ガルム兄さんの首に掛けた。
ガルム兄さんは少し照れたように笑い、僕に訊ねてくる。
「お前は立派な勇者になった。もう使命を果たせるな?」
僕は頷いた。
「北にね、魔物が集結しつつあるらしい。魔王が復活したのかも知れないと教会から通達があったんだ。僕は行くよ。……あの、ガルム兄さんは……」
「私は行けない。魔物を、そして魔王を倒すのは勇者の使命だからな。―――別れの時だアーサー。いや、勇者アーサー」
僕の未練を見抜いたガルム兄さんは、僕を激励すると共にバッサリと切り捨てた。
悲しくはない。
いつか言われていたから覚悟は出来てた。
だけど振り向けばいつも隣にいたガルム兄さんとの別れは、とても寂しかった。
◇
僕はあれから直ぐに教皇様と、聖女様の住まうセントリア教会に向かった。
この教会に来るのはこれで二度目である。
一般の者は入れないここ“勇者の間”で、僕は教皇様からの洗礼と聖女様からの祝福を受けていた。
以前目にした美しいタペストリーも、相変わらずそこに掛けられている。
敵対する魔物達が人や精霊、入らずの森の番人ハイエルフ達と共に手を取り合い笑い合っている。
タイトルは確か“理想郷”だった。
昔、これを目にした僕は「魔物は殺さない」と心に決めたんだったっけ。
そんなことを思い返していると、いつの間にか儀式は終わっていて、微笑みを浮かべる聖女様が僕に話しかけてきてくださった。
「勇者アーサー。かつてとは見違える程逞しくなりましたね」
「聖女様もとても麗しくなられました」
以前会った時はお互い5歳だった。それが10年も経てばお互い変わって当然だ。
「では勇者アーサーよ。そなたに勇者のみが使える魔法と聖剣を与えよう」
「はい。必ずや人類に害をなす魔物達を討伐して参ります」
満足げに微笑む教皇様から、僕は一つの魔法陣の巻物を渡された。
だけどそれを開いてみて僕は言葉に詰まらせる。
―――なんだ、これは?
「それは不死の魔王ラムガルを封印する為、神より与えられた最強の封印魔法なのだ」
―――そうか。そういう事だったのか。
僕は奥歯をギリッと噛み締めた。
「……は。必ずや主神ゼロス様の御名にかけ、魔王を封印して参ります」
「では勇者。次は教会の中庭に安置されている聖剣ヴェルダンディのところに参りましょう。付いてきてください」
聖女様に付いて僕は歩き出した。
建物を出て、手入れされた庭園を進む。
そして中庭の石台に突き立てられた聖剣ヴェルダンディーを前にした時、僕はその美しさに思わず息を呑んだ。
『―――久しいな。お前が新たな勇者か』
「!?」
聖剣が僕に話しかけてくる。
どうも教皇様と聖女様には聖剣ヴェルダンディーの声が聴こえていないようだ。
『―――我を手に取れ。そして汝の力を我に示せ』
僕は言葉に従い、その柄を握ると一気に引き抜いた。
聖剣を天に掲げ、刀身に僕のマナを流し込む。
『汝の力しかと受け止めた。我の記憶を開放しよう』
そう聖剣ヴェルダンディーが告げると、その刀身が一層輝き、僕の中にかつての歴代勇者達の雄姿の記憶が流れ込んできた。
『これで汝は歴代勇者の力を手に入れた。名を名乗れ、新たな勇者よ』
「我が名はアーサー。勇者アーサーだ」
僕の答えに聖剣の光が歓喜するように強くなった。
「何と……かつての勇者達の記述にも、これ程まで聖剣を輝かせた者はおらぬ」
「なんて美しい。これが勇者アーサー様の輝き」
こうして僕は勇者としての力を名実ともに授けられたのだった。
その晩。
賑やかな祝儀が催される中、僕はささやかな身支度をした。
―――止まっている時間はない。僕はもっと強くならなければいけない。
そう強く願いながら一人旅立ったのであった。
一応、今回の勇者は、物心つく頃から色々考えてたということで、かつて無い天才頭脳の持ち主という設定です。
ブクマ、ありがとうございます!
続きます




