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番外編 〜隣のお兄さんは魔王でした。僕は勇者なんですが、この想いを伝えても良いですか?②〜 



「なに? アーサーは勇者なのに魔物を倒したくないのか?」


 ガルムお兄さんは釣り竿を川に垂らしたまま、驚いたように僕に聞き返してきた。

 僕は肩を落として頷く。


 あれから暫くガルムお兄さんの観察を続け、僕にもやっと少しの耐性がついた頃。ガルムお兄さんが僕を釣りに誘ってくれたのだった。


「だって魔物だって生きてるんだ。それに神は隣人を愛せとおっしゃった。死せる者を尊べとも。なのに動物は良くて魔物はだめなの? 命は同じじゃないの?」


ガルムお兄さんはふむ、と一拍考え込んだあと浮きを見詰めて呟いた。


「なる程。自然淘汰に任せよと言いたいのか」

「……」


 初めてだった。

 大人達ですら僕の話の意味すら分かってくれなかったのに。


「確かにそれは生き物の本来のあるべき姿だ。アーサーの考えは正しい」


 そう言ってガルムお兄さんは天空を舞う渡り鳥を見上げた。

 だけどすぐ肩を竦めて川に浮く小さな浮きに視線を戻す。


「だがな、魔物と聖獣はその輪から外れるのだ。いわばエゴから生まれた嗜好の産物なのだ」

「どういうこと?」


思いもよらなかった答えに僕が首を傾げると、ガルムお兄さんは釣り糸を垂らす澄んだ川の清流を見渡し言った。


「そうだな。例えばこの川はこの土地に古くからあり、この土地と気候にあった生態系が完成しているな」


そして川の中に一振りの撒き餌を投げ込み、僕に訊いてきた。


「だがこの川に、もし私がふと思い立って南部の生き物レッドロブスターの番(つがい)を一組放したとしよう。どうなるか分かるか?」


 レッドロブスターとはこの地域にはいない、手の平程の肉食のエビだ。臭みと寄生虫の多さから食用にはならない。 


「えっと。この辺りには天敵のメニガエルやクチナガドリがいないから、レッドロブスターは爆発的に増えると思う。繁殖力も強いし」

「よく知っている。その通りだ。なら、そうなった場合この川の生態系はどう変わる?」

「マブナは大きいけど成長に時間がかかる。直ぐに食べつくされてしまうだろうね。そしたら餌のなくなったレッドロブスターもまた全滅し、腐敗した死骸で汚染された川は濁って鳥や獣も寄り付かなくなると思う」

「そうだ。だがその破壊や汚染は自然淘汰などでは無い。そして魔物と聖獣もまた、それと同じ存在なのだ。箱庭の中で管理されている分には問題ないが、それらが野に出た場合、奴等がが全てを壊し切る前に、誰かが調整をかけないといけない。分かるか?」


 その時、僕は自分の中でずっと疑問に思ってたことに、初めて合点がいった。

 まるで失くしてたパズルのピースを見つけたみたいな気分だった。


「それが勇者だというの?」

「少し違う。調整をかけるのは全人類だ。人にはそれだけの力を神から既に与えられている」

「冒険者達のように、だね」

「そうだ。勇者とは神に選ばれし者の事を指す。だが、神の聖心はアトムとイムを創られた頃より変わってはいない。全ての人間を慈しまれ、勇ましくあれと願われていらっしゃるのだ」

「そうか。勇者とはつまり、共存の為に魔物を狩る“勇敢なる人々”の導き手なんだ」

「そう。そしてその勇者がお前だ。アーサー」


 僕の頭に衝撃が走った。

 勇者の意味、そして何故僕らが魔物や魔王を倒さねばならないのか、その全てを理解したんだ。


 だが同時に僕は絶望した。


「僕は……最低だ。僕は勇者の力を嫌い、今まで封印していた。過去の勇者は息をするが如く強大な魔法を使ったと言われるけど、今の僕は人並みのマナの扱いさえ分からない」


そんな僕をガラム兄さんはフッと笑い励ましてくれる。


「アーサーなら直ぐに力の使い方くらい思い出すさ。だが不安と言うなら魔法の学校に通ってみればどうだ? 基礎が分かっていれば、より強大な力が効率的に出せるようになる」


 ―――国立魔法学園ノルマン。

 魔人ガルシアという伝説の魔法使いが作り上げた、最古にして最高と謳われる学園都市。

 行ってみたい。だけど……


「行きません」

「どうしてだ?」

「ガルムお兄さんと離れ離れになっちゃうから嫌だ」


ガラムお兄さんが声を上げて笑った。


「そうは言っても別れは必ず来る。が、今ではないかな。ならば私も行こう、ノルマンへ。それなら良いのだろう?」

「え?」


 一瞬、ガルムお兄さんが何を言ったのか解らなかった。


 だけど徐々に言葉の意味を理解出来始めると、僕は釣り竿を放り投げて躍り上がった。


「行く! やったぁーっ!!!!」




 ◆





 準備と手筈を全て整え国立魔法学園ノルマンに向かう馬車の中で、ガルムお兄さんがとんでもない爆弾発言をした。


「私は魔法が使えない」

「ええ?!」


 魔法学園に何しに行くつもりなの?!


 因みに僕は一応勇者という肩書があるから、無能でも顔パスが効く。

 だけどガルムお兄さんは一般編入だから、編入試験をパスしなければいけないのだ。

 そもそも僕のように意識して魔法を使わないように生活でもしない限り、15歳にもなって魔法が使えないなんてことはあり得ない話なんだけど。


「まぁ、大丈夫だろう」


 ―――不安しかない……。





 ◆




「それでは編入実技試験を行います。まずは風の試験。20メートル先に1本の蝋燭があります。そこに灯る火を風で消してください。それでは、始め!」


 試験官の先生がそう言うと同時に、ガルムお兄さんは2本の指を立て、蝋燭めがけて空気を切る仕草をした。


 ―――フッ


「素晴らしい。マナの動きをあまり感じませんでした。とても効率的な使い方が出来るのですね」


 僕はその結果に唖然としていた。


 だってガルムお兄さんは魔法なんか使ってなかったんだから。

 勇者の動体視力を舐めてもらっては困る。

 僕の目に写ったのはまず、試験前に靴のかかとを直すふりをしてガルムお兄さんが砂粒ほどの小石を拾ったんだ。そして開始の合図とともに、指に挟んだそれを蝋燭めがけて投げつける。

 すると砂粒は寸分狂いなく蝋燭の芯をブチ切り、その火は消えた。



「次は火の試験です。このペーパーを燃やしてください。始め!」


 ―――パチンッ‥‥ボゥッ


「素晴らしい。合格です」


 待って! なんで指パッチンで火が出るの!?


「次はこのプールの水を波立たせてください。始め!」


 ―――ザザザザ……


 掌拳突きで波動が出た……。


「次は大地を……」




「―――合格です。入学を認めます」

「うむ」


 ―――強くなろう。

 魔法だけじゃなく、自分の身体も鍛えて精神も鍛えて、もっともっと強くなるんだ。



 ガルムお兄さんの四股踏みによって出来た大きなひび割れたクレーターを見ながら、僕は自分にそう誓いを立てたのだった。




魔王様、真面目です。

今回は、魔王がいつも何をしてるかを、少し書いてみたくなりました。



ブクマありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで句読点多かったっけ? ちょっと読みにくい、、、
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