神は理想郷(アルカディア)を見下ろし賜うた
ネタバレ
服を着ます
その日。聖域に住まう創造物達が集められ、ゼロスとレイスの衣装のお披露目が始まろうとしていた。
神獣達は俺の周りに集まり、2柱の登場を今か今かと待ち侘びている。
ふと見回せば、かつては仰ぎ見上げた神獣達が俺と同じくらいの芽線の高さになっていた。
……俺もちょっとずつ成長してるんだな。
そして精霊王と精霊達、それからハイエルフ達が神獣の一歩後ろに下がったところでそれを見守っている。
彼等の方が小さいのだから、もっと前に出て来てもいいと思うのだが序列的な問題があるようだ。
その更に後ろには聖獣と魔物、そして動物達だ。
獣達の先頭にいるのは、レイスのお気に入りの若い黒麒麟。
哀れにも母に見捨てられたとは微塵も感じさせない堂々とした佇まいだ。
今や黒麒麟は聖獣達は疎か、伝説級の魔物達すらも従え、その時を静かに待っていた。
「うむ。これでよい」
そう満足げに頷き、俺の隣の特等席の空中で映像記録魔法の準備をしているのは魔王ラムガルだ。
転生中の勇者が戻ってきた時に見せてあげるのだそうだ。
本来その役目を担うのは精霊王の様な気もするけど、ラムガルは勇者と仲がいいからね。
まるで本当の兄弟のようだと、俺はいつもほっこりとした気持ちで二人を見ている。
そして役者が出揃い、ざわついていた辺りはいつしか静寂に包まれた。
空にはさほど暗くは無いものの厚い雲が立ち込め、所々から幾筋かの光が漏れている。
まるで一枚の絵画の中に迷い込んだように、誰しもが動きを止めた荘厳なる風景だ。
――――その時。突然、天使達の歌声が天空に木霊した。
厚い雲が割れて一層大きな光の筋が射し込む。
するとその光の道の中を、ゆっくりとゼロスが舞い降りて来きた。
光の化身であるフェニクスの飾り羽のみで織られた、光り輝く純白の布をゆったりとその肢体に巻き付けたゼロス。
その布を留める太く長い布帯には、頭に載せた金冠と同じ色の金糸でハーティの刺繍が施されており、巻き余った分は肩から垂らされている。
肩に垂らした帯は落ちてこない様、ハイエルフ達に貰った白金の肩当てで留められていた。
光り輝く服を着ているにも関わらず、ゼロスはまるで、後光が射しているかのように神々しい。
「クェエエエエエエーーーーーーーッッ!」
とうとう興奮を押さえきれなくなったフェニクスが、歓喜の声を上げ天空に舞い上がった。
極彩色に輝く美しい鳥は、長い尾羽を羽衣の様に舞わせゼロスの周りを飛び廻る。
自分の羽をゼロスに素材として選んで貰ったのが嬉しくてはしゃいでるんだ。
しかしその時、天使達の歌の調子が何の前触れもなく変わった。
華やかで栄冠に満ちた歌から一変、厳かで刹那的な……それはまるで終焉の歌。
ゼロスの通った光の道に照らされ束の間晴れたかに見えた雲は再び厚く大地を覆い、今度こそ光を通さぬ闇が地上を包んだ。
そこに一筋の落雷が起きる。
―――いや。違う。
レイスだ。
レイスが降り立ったのだった。
あまりの速さで降りてきた為、大地はその勢いのまま抉れ大きなクレーターとなる。
―――もう。レイスったら、早く皆に見せたいからって焦り過ぎだね。
そして、ゆらりと土埃の中を立ち上がるレイス。
ヒヒイロカネとダークマターで創られた、無骨だけども繊細な彫刻を施されたベルトを腰の低い位置に付け、ベルトからは幾重にも布を重ね大きく広がる長い漆黒のスカートを靡かせている。
スカートの両サイドには動きやすくする為、大きくスリットが腰まで入り、足を動かすたびに両太腿が惜しげもなく晒された。
上半身は俺の白い枝だけを胸元に2重に巻きつけ、大きく広がった枝先を背中の片方に纏めている。
白い枝が背後に大きく広がるその様は、まるで白骨で出来た片翼だった。
更に頭にはハイエルフに貰った角の髪飾りをつけ、顔には漆黒の仮面。肩には白銀の、フェンリルの毛皮が掛けられている。
とても……とてもカッコイイよ! レイス!!
カッコイイんだけど……ただ、その枝の使い方がね。なんか俺がレイスの手ブラをしてるみたいで、ちょっと恥ずかしいかも知れない。
「ウオォォオオォォーーーーーンンッッ!!!」
今度はフェンリルが吠えた。
それを皮切りに黒麒も嘶き天に駆け上がる。
他の聖獣、魔物、動物達も足を踏み鳴らし咆哮をあげる。
今騒いでる子は、きっと殆どがレイスにもふもふされた子達なのだろう。
殆ど……と言うかもう全部だね。見境がないな。
天を駆けた黒麒はレイスの元に降り立ち、甘える様に額を寄せた。
レイスは黒麒の額をそっと撫でるとその背に腰を掛ける。
黒麒は再び天へと跳び上がった。
そして、姿を小さく変えたフェニクス(それでも2メートル程はある)を肩に乗せたゼロスの側に並び立つ。
そうして二柱が空に並んだ時、集まった聖域の全ての創造物達が歓喜の声を上げた。
ラムガルなんか初めてのお遊戯会を見るお母さんみたいに、目に涙をためながら映像記録魔法を回している。
2柱は照れながら……だけど嬉しそうに皆の歓声を聴いていた。
やがてこの光景は“理想郷”と題されたハイエルフ達の織る美しいタペストリーによって永く語り継がれて征く。
神獣、聖獣、魔物、動物、ハイエルフ、精霊、人と、その種族の壁を越え皆が笑顔で手を取り合い感動に沸き立つその様子は、俺の中でもとっておきの一枚として取っておこうと思う。
「ねぇゼロス。服も出来た。一緒に人里に行ってみよう」
「……。……え?」
―――皆が沸き立つ中。上空ではまたなにやらレイスが爆弾を落とそうとしているようだ。
これにて、服にまつわるお話は終了となります。
服を作ろうとして、不思議石や、伝説の剣ができ、神話時代の栄光の1ページが記されたのですね。……色々ありました(笑)




