神は歴史の道標(オベリスク)を大地に建て賜うた
「誠に素晴らしきお披露目で御座いましたな」
ラムガルがレイスとゼロスに先程のお披露目会の感想を述べた。
お披露目が終わると集まった皆も解散し、辺りはいつもの静かな平穏さを取り戻している。
「ふー……全く。服を着ただけでゼロスは大袈裟。お披露目なんか不要な演出だった」
レイスが照れ隠しに怒った口調でにゼロスに愚痴った。
だけどゼロスは気にする様子もなく、ニコニコと笑顔を返す。
「皆にも手伝って貰ったんだし、お披露目はしないとね。それに皆も喜んでたじゃない」
「……確かに皆喜んでた。―――仕方ない。レイス、ちょっと恥ずかしかったけど良しとしとく」
レイスは小さな声でそう言うと俯いた。
その時のレイスの表情は、俺以外に誰にも見られることはなかったけど、嬉しそうに微笑んでいたのだった。
俺も嬉しくなってそよそよと葉を揺らしていると、根元の方から澄んだ流暢で美しい声が掛けられた。
「ゼロス様、レイス様。この度は素晴らしいお召し物が完成し、誠におめでとうございました」
「あ、ハイエルフ達。ありがとう。どうしたの? 帰ったんじゃなかったの?」
森の中から姿を見せたのはハイエルフ達。
また306名全員が並んでいる。
……別に良いんだけど、そんなにチョクチョク、ハイエルフの里を空っぽにしても大丈夫なのかな? なんて、ふと余計な考えが脳裏を過った。
ハイエルフ達は恭しく一礼しゼロスに答えた。
「はい。一度里に戻りましたが、どうしてももう一つお渡ししたい物がございまして再参させて戴きました」
ハイエルフ達の言葉に、一瞬二柱の視線が鋭くギロリと動く。
まぁ、前にいいもの貰ったからね。期待しちゃうよね。分かるよ。
それに気付かないハイエルフ達は、ペガサスに引かせた巨大な車の上から布の掛かった荷を降ろし、ゼロスとレイス、そして俺の前に置いた。
絹の布が掛かってて中身は見えないけど何やら大きい。
優に20メートルは在ろうかという細く、高くそびえ立つそれの布を、ハイエルフ達はスルリと取り払った。
「―――コレは……」
布の下から出てきた物に言葉を詰まらせる二柱。
それはミスリルで出来た五角形の巨大な柱の様であった。
天高く伸びる白金の柱には魔王と勇者を始め、これまでゼロスとレイスが創造した者達が一つ残らず全て彫り込まれている。
しかも丁寧にゼロス作のものが2面、レイス作の物が2面、残り一面が、二人の共同製作の神獣達と言った風に刻み分けられていた。
それからその上には、風鈴のような、底が穴になった、ミスリルの玉が乗せられ、玉には、天使達が唄いながら飛び交うその下で、ゼロスとレイスが見慣れた水差しを手に、俺に仲良く命の水を与える姿が彫られている。
「これはオーナメントにございます。世界樹アインス様の為に作りました」
え? ……俺?
「本当はゼロス様とレイス様への御品を御作りしていた時に同時進行で完成させていたのですが、お披露目の話もありまして、このタイミングでの献上とさせていただきました」
なんと! 流石空気の読める子達だ。
今回の主役はなんといってもこの二柱だったものね。
俺への気遣いなんかで皆の気が逸れるのは、俺だって望むところではない。
この最高のタイミングでの最高のプレゼントに、俺は感動に枝を打ち震えさせながら感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとう。とても嬉しいよ」
「じゃあ、僕が付けてあげる! どの辺がいい?」
「レイスもつけたい! レイスも!」
と、ゼロスとレイスもまるで自分ごとのように嬉しそうに口々に声を上げてくれる。
「じゃあ一緒につけようか」
「うん」
二柱の意見はすぐに纏まり、見晴らしの良い高い枝にハイエルフ達の作ってくれたオーナメントを吊るしてくれた。
オーナメントを吊り下げると上部の玉の中に収納されていた鎖が伸び、玉の下に柱が吊るされているという、まさに風鈴のような形態になる。
また吊るしてみて分かったのだが、オーナメントの内部にはアダマンタイトの加工板が嵌め込まれているようで、その板を通過した光は計算され尽くした屈折角を通り、揺れる五角形の柱を内側から照らしだす仕組みになっていた。
内側から照らされた彫刻は、まるで透かし彫り細工の様にキラキラとそれらの絵を浮かび上がらせる。
うん。なんだかとても、オシャレになった気分だ。
二柱も感心したように、俺に付けられたオーナメントを眺めていた。
「キレイだね」
「うん。ハイエルフ達はゼロスに似てとても器用」
その精巧さに感嘆しているのだ。
だけど俺だけは二柱とは少し違うことを考えていた。
このオーナメントにはゼロスとレイス、そして二柱の創った全ての者が刻まれている―――。
懐かしい……今でも芽を閉じれば思い出すんだ。
虚無と闇の中で泣き叫んでいた絶望の時。
その中でゼロスとレイスという希望の光を見つけ、その優しさ、愛情、好奇心、無関心、喜び、悲しみ、それらから生まれた色んな想い願いから、沢山の創造物が産まれた。
そんな創造物達が、また新たな想いをそれぞれの心に宿し、広がり続けるこの世界。
―――なんと愛しい事か。
「ありがとう。俺は本当にとても嬉しいよ」
もう、それ以外の言葉が出てこなかった。
この世界に俺は“ありがとう”と言いたい。
光も闇も、善も悪も、生も死も、全てが愛おしい。
「そう言って頂けて私共も感激の極みにございます」
「レイスも! レイスもアインスが嬉しいと嬉しい!」
「そんなの僕だってそうだよ。良かったねアインス。似合ってるよ」
「うん。……うん」
俺はこっそり樹液を流しながら何度も頷いた。
その時、ふとゼロスが俺の根本を見下ろし提案した。
「そうだ。ラムガル映像記録してるって言ってたね。ミスリルの特殊効果付与領域に、データをコピーしたら?」
俺の木の根元で映像記録のコピーをせっせと造っていたラムガルが、ゼロスの提案に顔を上げた。
ラムガルが制作しているのは手のひらサイズの青い宝石。そんな映像記録結晶は、もう既に40個程は出来ている。
観賞用に保存用。保存用の保存用と神棚に供える用……後一体いくつ作るつもりなのだろうか。
「賜わりました」
そう言ったラムガルが1つの映像記録結晶を掲げると、青い玉は光の粒に戻り、すっとミスリルの柱に吸い込まれていった。
「これで良いでしょう。一定量のマナを込めれば、かのデータが再生されます」
その言葉に俺は若干しょんぼりと言う。
「ありがとうラムガル。だけど、俺はマナ操作が出来ないよ」
「アインス様程のマナ保有者であれば、意識せずとも“見たい”と思うだけで、映像は再生されるでしょう」
その言葉に俺は歓喜して言った。
「それはいいね。ありがとう」
「いいえ、これしき」
「謙遜しないでいいよ。おかげでこれは、更に、何にも変え難い宝物になったのだから」
だがその時だった。
突然強風が俺の枝の間をゴォっと吹き抜け、オーナメントを揺らした。
「ん?」
一瞬だった。
―――ガキンッ!
嫌な音と共に頑強であるはずのミスリルのオーナメントの鎖が千切れ、五角形の柱の部分が物凄い勢いで飛んでいったのである。
「「「「あ……」」」」
あまりの突然の出来事に俺を始めゼロス、ラムガル、ハイエルフ達が呆気にとられた声を上げた。
「……ごめん」
続いてレイスの小さな謝罪の声。
「わ、わざとじゃない。服の強度を試そうと思ってちょっとターンしてみた。そしたら、……なんか飛んでいった」
……。
「レイスー!! なんかじゃないよっ! もうっ! ちょっと僕とってくる!!」
ゼロスはそう叫ぶとレイスのターン(?)によって発生した巨大竜巻に乗って何処かに飛んでいったオーナメントの片割れを探しに、慌てて飛び立っていった。
「……」(俺)
「……」(レイス)
「……」(ラムガル)
「……」(ハイエルフ達)
「……レ、レイスも行ってくるっ」
無言の視線に晒され、沈黙に耐えきれなくなったレイスが飛び立った。
いや…………その、ごめんね。レイス。
決してレイスを責めてるわけじゃない。
俺もちょっとびっくりし過ぎて言葉が出なかっただけなんだ。
あのオーナメントの片割れは一体どれほど遠くに行ってしまったんだろうか。
運悪く誰かの上に落ちたりなんかして、大事になってなければいいんだけど。
そんな事を考えながら、俺は無言で二柱の背を見送ったのだった。
読んで下さり、ありがとうございました。
次回、人里にゼロスとレイスが出没します。
ブックマークして下さって、有難うございます!




