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わが青春の泉荘  作者: 田久青
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9/22

本当にあった怖い話

東京の最も南のエリアに大田区がある

大田区の中で最も大きな街が蒲田だ

新編武蔵風土記によると、かつて蒲田は梅の木村と呼ばれ、梅の名所だった

江戸時代には歌川広重が蒲田の梅を描いていて、蒲田梅屋敷と呼ばれたらしい

現在でも蒲田の属する大田区の「区の花」は梅である。

JR蒲田駅より東急池上線の蓮沼駅の方が近い場所にそのアパートは建っていた

年季の入った木造モルタルの2階建て

ひび割れ模様の広がった外壁

歩くとギシギシときしんだ音がする渡り廊下

風呂なし共同トイレで部屋は6畳一間

そのアパートの名前は「泉荘」

「泉荘」によく現れる同郷の同級生の一人に神田君がいた


朝、起きると寝ぼけ眼で


昨晩吸った煙草のシケモクをうまそうに吹かす神田君


ギターをかかえて即興で人を小馬鹿にした歌を作ってしまう神田君


友達以外の第三者にはやたら喧嘩っ早い神田君


首都圏をあっちこっちすぐに引っ越してしまう神田君


そんな神田君がJR山手線の田端駅近くのアパートに住んでいた時の話


でも実は神田君の話ではない


僕の「あなたの知らない世界」の体験談


今は霊感などほとんどない僕だが「泉荘青春時代」は


よく金縛りにあったり不思議なものにもよく遭遇した


僕は大学の同級生と池袋の安い居酒屋にいた


8月のうだるような暑さの夜で


ビールのお替りの回数も増えてゆき、気がつくと夜の12時を回っていた


西武池袋線沿線に住んでいた友達とわかれて


山手線のホームへ行くと当時住んでいた世田谷へは


たどり着けない時間帯であることがわかった


「泉荘」のある蒲田への最終電車も終わっていた


「そうだ田端の神田君のアパートへ行こう」


JR山手線で池袋から4つ目の駅が田端駅だ


当時は携帯もないため事前連絡を入れることができず


僕は田端駅のホームで最終電車を見送ると改札を出た


生暖かい夜風にあたりながら5分ほど歩くと


神田君のアパートにたどり着いた


共同玄関に靴を脱ぎ階段を上がり一番手前の部屋をノックする


返事もなく人の気配もない


左腕の時計の時間を見て一瞬固まってしまう


「え?今日どこで寝ればよかと?」


次の刹那、神田君がいつも部屋のカギをポストから取り出すの思い出した


階段を降りると薄暗い中で神田君の部屋の番号のポストを見つけ


手を突っ込むと冷たいカギの感触があった


ほっとして、そのカギを取り出した


何とか僕は神田君の部屋に入ることができた


壁にかかったカレンダーに長崎帰省の印があり


丁度今日の日付けから〇がついていた


気疲れと酔いが重なって急に睡魔が押し寄せてきた


押入れの布団を取り出すとすぐに横になり眠ってしまった


どのくらい時間が経ったかわからないが


突然、胸の上に重石を乗せられたような息苦しさで目が覚めた


まだ夜は空けていない


え?


僕の枕元の上に誰かがいる


確かに誰かが枕元の上に座っている


確かめようと顔を上げようとしても首筋の筋肉が硬直してうまく動かない


息苦しさと恐怖で必死に頭を上げようと何度も繰り返す


僕の枕元の上に誰かがいる


僕の枕元の上に誰かが座ってる


だんだん頭がパニックになってくる


もう一度、もう一度、必死で顔を上げようとした時


僕の枕元の少し上あたりに


見たこともない白髪のおばあさんが正座をしていた


次の瞬間


そのあばあさんが覗き込むように僕を見下ろしてきた


「ぎゃーーーーーーーーーーーー」


上半身だけ必死に身体をおこして窓を見る


窓は外の暗闇のため丁度鏡のようになっていて


僕の枕元の少し後ろの上のあたりに


大きな火の玉が揺れている


「うぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」




気がついた時は朝になっていた


どうやらあまりの恐怖に気絶してしまったようだ


素早く布団を片づけ押入れにしまうと


僕は急ぎ足で田端駅に向かい始発電車で自分の住む世田谷へ向かった


自分のアパートへ戻り


鏡を覗き込んだ僕の顔の目の下には大きなクマができていた



後日、長崎の実家に帰っていた神田君にこの時の話をした


「お前、見たとか!」


笑顔だった神田君の顔が急に強張った


神田君に聞くと


神田君があのアパートに入居した直後から


毎日朝になると誰もいないはずの廊下から


箒を履く音が聞こえてくるのだそうだ


気持ち悪くなって大家さんにそのことを話すと


「ああ、前に住んでたおばあさん、綺麗好きだったからね」


大家さんはそう言ったそうだ


神田君の前にその部屋に


綺麗好きなおばあさんが住んでいたらしい


おばあさんのその後については大家さんは


口ごもって詳しく教えてくれなかったようだ


神田君はすぐに田端から松戸へ引っ越した


僕は未だにこの時のことを思い出すと


どんな夏の暑い日でもちょっとだけ涼しくなる

お読みいただきありがとうございました。

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