勢いだけで東方に来たわけだが、東方のホテルというか宿屋は想像以上のものだった。その弐
前回のあらすじ、
駄メイドの紹介で駄メイドの実家の宿に泊まる。
部屋で休んでしばらくするとパティが夕食を三人分運んできた。
ダナーはともかく、ミシェルの分くらい用意させれば良かったな。
まぁいい、もしもミシェルが食べたがったらアレをやれば良い。
『はい♥あ~ん♪』
『あ~ん♥』
ってアレですよ!アレ!
これは女子にされるものなのだろうけど、この際どっちでも良い。
だが、食事の前にパティに言っておくべきことがある。
「パティ、2部屋で7万じゃなかったか?」
「……きょ、今日の夕食になります」
スルーしやがった。まぁいい、減給すれば良いだけのこと。
「こちらは前菜のサラダです」
海鮮サラダっぽいサラダが出された。
ふむ、可もなく不可もなく、不味いと罵倒するわけではないが、美味いと賞賛するほどでもない。
パティが作るサラダよりも少し美味いくらいか?
いや、たぶんこの差は食材の鮮度の差か?
素人だからまったく分からんが。
美食家ぶりたかっただけだから。
「次は蟹のスープでございます」
和風の蟹汁のようである。
ふむ、美味い。高い蟹を使ってるんだろうか?
この辺りは漁業が盛んなのだろうか?
「お次は豚の角煮と麦酒です」
魚類、甲殻類ときて豚か。
たしかに脂が乗って美味いのだが……王城ほどの感動は無い。
そして麦酒、つまりビールである。
俺はビールよりもカクテルとかの方が好みなのだがな。
しかし、ファミレスで1500円くらい使ってるような感覚に近い、ちょっと贅沢してみた時のような……。もっと喉から手が出るほど食べたくなるようなモノが食べたい。
(喉から手が出るほどって使い方間違ってる気がしないでもないが)
「こちらがメインディッシュになります。王都ではあまり食べられませんが、酢などで調味したご飯を一口サイズにの大きさに整え、その上に生魚の切り身を乗せた……」
「寿司!!」
「寿司じゃねぇか!!」
目の前には日本人なら皆が知ってるであろうあの『寿司』が並べられていた。
おいおい、マジかよ!?
「……す、すし?」
パティはきょどっている。
どうやらこれの名前は寿司ではないらしいが、そんな些細なことには興味ない。
「醤油は!?醤油は何処だ!!」
「Soy sauceは!!ソイソースは何処ですか!!」
「あ、タレならこちらに……」
さっさと寄越せ!
まさかこの異世界で寿司が食えるとは思わなかったぜ!
「美味い!!美味いぞ!!」
「デリシャス!!余は満足である!!」
この刺身も美味い……。
涙が出るほど美味い……。
醤油がここまで心を潤してくれるとは思わなかった……。
あぁ、日本に戻りたい……ただのホームシックである。
天麩羅や鋤焼きも食いたいと思う……。
あれ?これも頑張れば食べられるんじゃね?
天麩羅って小麦粉であげただけだし、鋤焼きも調味料さえあればそんなに難易度高いとは思えないし。
よし!ルーティトリルディ大公から大金を搾取した後でコックを雇おう!
美味い飯が毎日食うためにはパティ1人だけではダメだ。
(ここでダナーの存在を除いた理由は後日語ろう、語る機会があれば)
「ここまで美味しいとは思わなかったよ。昔を思い出すよ……」
「ん?回らない寿司屋にでも行ったのか?」
「いんや。ソフトボール部の田口先輩って居たじゃん?」
「あぁ、ソフトボール部が全国大会にまで行ったから激励会と言う会った事も話した事も無い同じ学校の生徒と言うだけの共通点しかない赤の他人を強制的に激励(と言ってもただ講堂で突っ立て居るだけなのだが)しなければならない非常に退屈な悪夢の行事があったからな。俺の中の準許さない人リストの中に入ってるからよく覚えてるよ」
「そんな酷いリストを作ってたんだね……しかも『準』って。で話を戻すけど、その田口先輩の知り合い、というか後輩のクラスメイトと一緒に田口先輩がバイトしてる100円均一よりもワンランク高い回転寿司に行ったんだよ」
「ほぅ。それで?」
「それでサーモンの手巻き寿司を頼んだんだけど、海苔はシャリのおかげで湿って、そのシャリも形が整ってない酷く残念な形のサーモンの手巻き寿司が届いたんだよ」
「あぁ……どんま……」
「しかも、それ作ったのが田口先輩の彼氏さんだったから文句も言えずにお金を払って帰ったよ……。その後で食べたコンビニの唐揚げの味をボクはまだ忘れてない。」
「泣け、存分に泣け、その時の悲しみが和らぐくらいに食べるが良いさ」
こいつにそんな悲しい過去があったとは知らなかった。
……しかし、なぜこんなに美味い寿司でその過去を思い出したんだ?
こいつの思考回路は理解に苦しむ。
「ご満足いただけましたか?」
俺たちが皿の上に盛られた寿司を7割ほど平らげてるのを確認してパティが自分の、いや自分達の評価を求めてくる。
「いや、まだだ」
「え!?」
「まだ食い足りない。おかわりだ!後2人前用意させろ!」
「あ、ボクも!おかわりをお願い!」
「ぼくも!ぼくも!」
俺に呼応するように忍とミドリが所望する。
「たぶん出来ると思いますが別料金に……」
「ダナー!旅費はいくら持ってきている!」
「念のため1000万ほど」
興奮している俺の叫び声に対して壁の傍で棒立ちしていたダナーが申告する。
「よし!たとえ100万でも構わんから5人前作らせろ!」
「かしこまりました。少々お待ちください」
パティが普通に部屋を出て行った。
もっと急げよ!!
(そんなに美味しいの?)
ミシェルがモノ欲しそうな顔で寿司を見ながら欲しがった。
ついにあの「はい♥あ~ん♪」のフラグが立ったのか!!
「食べる?」
(あ、良いの?じゃあいただきます♪)
そしてイクラの軍艦をひょいっと摘んで口の中に放り込んだ。
あ、うん。知ってた知ってた。
なんでミシェルとはそういうイベントが無いんだろうか……。
(もぐもぐ……う~ん、確かに美味しいけど期待したほどじゃないかなぁ?)
イクラだからかね?
イクラって『やっぱり俺は寿司と言ったら断然イクラだぜ!』って言われないけど嫌われるほどではない褒めるのに苦労するネタだからな。
というわけでウニを勧めてみることにしよう。
ウニに醤油をつけて強引にミシェルの口元に持っていく。
「こっちの方が美味いぞ?」
(あ、じゃあいただきます。……ん!これは美味しい♪)
ミシェルが最上級の笑顔で喜ぶ。
この笑顔が見れただけでここに来た価値がある。
▽
お代わりの寿司を食べ終わった後でミドリが食休みなのか就寝なのかは分からんが寝たことを確認した忍が何かを言おうと……、
「さて、ゲュップ」
何かを言おうとしていたがゲップなのか吐き気の前触れのアレなのか、口ごもった。
どうやら耐えることができたようで言い直した。
「さて、良い子も寝たことだし、ここからは大人の時間だ」
酒を飲んだせいなのだろうか、忍が訳の分からないことを言い出す。
いや、こいつが意味不明な発言をするのは良くあることだな。
うん、平常、平常。
そんなわけで俺は忍の脳天にチョップする。
「ぐわぁ!」
「寝言は寝てから言うから許されるんだぞ?」
「うっう…、なんだよぉ…、たまの休みくらいハメを外したって良いじゃないか…」
なんか知らんがガチ凹みである。
「するのぉー!!もっと深夜の、大人の遊びをするのぉー!!」
オモチャを買ってもらえない幼児のように駄々をこね始めた。
おいおい、ミドリが起きたらどうするつもりだよ……。
「分かった、分かった。何をするかは置いといて話だけは聞いてやる。何がしたいんだ?」
「脱衣ポーカー!」
脱衣……ポーカー?
「そこは脱衣麻雀じゃないか?普通」
「だって、麻雀のルールなんて知らないから」
こいつは……。
「そもそも麻雀ってアレなんなの?役が多いし相手が捨てた牌で相手が何を狙ってるか予想するとか無理ゲーだし、点数が万単位になったりマイナスになったりってインフレデフレが酷いじゃん?」
「ま、まぁ……俺も麻雀は詳しくないが点差がバカデカいよな。あれって最下位って巻き返せるのかな?」
「きっとスターとかのアイテムを使えば一発逆転できるよ」
「レースゲームかよ!!」
「レースゲームかはさて置いて、麻雀は役も良く分からないんだよね。『天保四暗刻大三元』とか『トイトイ、チャーシュー、ドラゴン、トンナンシャーペィ』とかもう良く分からん」
「待て!後者のは明らかに違うの入ってるだろ!なんで麻雀でドラゴンやチャーシューとか出るんだよ!」
「でもドラの語源はドラゴンだって『s○ki』で言ってたよ?阿○賀編だったかな?」
「マジか?いやでもドラゴンって西洋の言葉だろ?んでもって麻雀は中国発祥だろ?なんで中国がドラゴンって使うんだ?中国でドラゴンって言ったら『龍』だろ?むしろ、麻雀でロンってあるからそれなんじゃねぇの?」
「ボクに言われても困る!!」
開き直りやがった……。
「とまぁ、冗談はこのあたりにして、ポーカーをやろうか」
麻雀ネタを強引に切り上げてポーカーをやろうと誘ってくる。
「別にポーカーくらい良いが、たった2人でか?」
「ミシェルとダナーもやらない?」
(別にいいけど?)
「マスターがやるのであれば数合わせに」
どうやらミシェルとダナーの2人もそれなりに乗り気のようである。
ミシェルの脱衣か……興味あります!!




