雪の中の秘密
テスト3
誰にも気付かれず白の中に落ちた、赤。
果てしなく続く銀世界、その血の一滴だけがやけに鮮明だった。
しかし時間とともに消えていく、そんな吹雪の夜だった。
「ゴン、ゴン」
ドアの外からもの音がする。
扉を開ける少年(アルフレッド 9歳)
そこには1匹の犬がいた。
「…大丈夫?」
アルフレッドは寒さに震える手で、その犬を抱き上げる。
真っ白な毛並み。
かすかに動くシッポ。
そして、お腹から滲む血。
犬は、助けを乞うようにアルフレッドを見上げた。
アルフレッド
「かーちゃん。この犬、怪我してるみたい。」
「そんな犬、早く捨ててきなさい。」
部屋に戻った瞬間、母親はそう言った。
冷たく、迷いなく。
アルフレッドは少し黙る。
「でも…」(可哀想だ。でも家は貧しい)
母親は睨みをきかせる。
アルフレッド
「…わかった。」
しょんぼりとし、そう答えた。
けれど―
アルフレッドは犬を見捨てなかった。
家の裏の古い納屋。
アルフレッドはそこに犬を隠した。
「安心しろここなら絶対バレないからな。」
「うーん、」名前がわからない…
「そうだ、白いしブランにしよう!」
「ボクはアルって言うんだ、よろしくなブラン!」
ブランは、小さく尻尾を振り応える。
喜んでいる様にも見えた。
アルは軽く包帯をまき、手当てをした。
そしてこっそり食べ物を運び、自分が使っている毛布でブランの体を覆い温めた。
傷口が痛むたびに小さく鳴くブランに、胸が締めつけられる。
「絶対、僕がなんとかするから。」
その言葉の半分は願いだった。
翌日。
街なかで少年たちは談笑している。
「…おーい、ノエルくん!」
(不良少年ノエル 12歳)
息を切らし、転びそうになりながら駆けつけるアル。
ノエルはゆっくり抱えているものを見る。
「どうしたんだ?」
「犬が…昨日拾った犬が、かなり弱ってて…!」
腕の中で、白い犬は弱く息をしている。
ノエル
「病院は?」
アルフレッド
「行けないよ…お金ないし…」
周りの仲間が口を挟む。
「じゃあ諦めろよ。」
「どうせ誰かの犬だろ?」
「放っとけばいい。」
軽い声だがアルにはこたえた。
アルの顔が歪む。
「そんなこと言うなよ!」
「それが出来ないから頼みに来たんじゃないか!」
「…もういい。」
そのまま、飛び出していった。
「何だったんだ?」
「しらけちまったな。」
と仲間は言う。
ノエルたちはまた雑談をはじめた。が胸に引っかかり上の空だ。
と、その時
「おい!」
低いドスの効いた声。
振り向くと、黒い服の男が立っていた。
「お前がノエルだな。」
「このくらいの白い犬を見なかったか?」
包帯の巻かれた手で表現する。
空気が変わった。
ノエルは一瞬、目を細めた。
「知らないな。」
黒い服の男
「…本当か?」
ノエル
「なぁ、その犬のお通夜でもあったのか?」
服装を見てわざと言う。
「生き返って逃げ出したから探してんだろ。」
男の眉が動く。
「…くだらない事言うな。」
「…。」仲間は沈黙し内心ヒヤヒヤしていた。
黒い服の男
「見つけたら教えろよ!」
「じゃ無いと、どうなるか分かるだろ。」
ノエル
「あぁ、気が向いたら教えてやるよ。」
「…」
男はしばらく睨み、やがて去っていった。
「ヤバいぜ、あんな事言ってどうすんだ?」
ノエルは、小さく息を吐く。
「アルのやつ、面倒なの拾ったな…」
「とりあえず手分けして探すぞ。」
「ああ。」
アルを探している途中、カイルに出会う。
(少年ギャングのリーダー 12歳)
カイル
「お前もチャールズさんとこの犬を探してるのか?」
いつもなら目障りだから話してこないカイルから話をふる。
ノエル
「それがどうした?」
カイル
「見つけたら何でも好きなのくれるってよ。」
「よっぽど大切にしてるんだな、その白い犬。」
ノエル
「どうかな?」
カイル
「お前は手をだすんじゃねぇぞ。」
「これでオレもチャールズ一家の仲間入りだ。」
ノエル
「やめとけ、面倒なのに巻き込まれるぞ。」
カイル
「面倒だから金になるんじゃねぇか。」
「安心しな、お前はオレが使ってやる。」断れると思うなよ
ノエル
「ゴメンだな、オレはオレのやりたい様にやる。」
カイル
「フフッ、なら先に見つける事だな。」
手を上げ別れた。
夕方。
路地の奥で、アルは座り込んでいた。
ブランを抱えたまま。
「死なないで…」
その声は、か細くほとんど消えそうだった。
そこへノエルがやって来た。
「アル」
「ここに居たのか…」家に行っても居ないからかなり探した。
アルは顔を上げる。
「ノエルくん…」希望に満ちた目だ。
「その犬、チャールズ一家のだ」
絶望に変わり、アルの顔が強張る。
「返すぞ、俺も行く。」
「嫌だ!」
即答だった。
「あいつらがやったんだ!」
「あいつらがブランを傷つけた!」
ノエルは黙る。
アルフレッド
「返したら、殺されるかもしれない…!」
ノエル
「このまま、ほっといてもいずれ死ぬ。」
雪が静かに降る。
「わかった…一人、当てがある。」
ノエルが言う。
「少し変わったやつだけどな。」
教会に着いた。
アルフレッド
「お祈りでもするの?」
ノエル
「ハハッ、それで治るなら病院は要らないな。」
古びた扉をノックする。
本や紙に埋もれた空間で、少年が顔を向ける。
(神父の養子 ルーク12歳)
「入って。」
ノエルの顔をみて少し笑みを浮かべた。
「珍しいね、君から訪ねて来るなんて、」
「よほどお困りかな?」
「まぁな。」
ノエルはアルの背中を押し、ブランを差し出す。
「この犬を治せるか?」
ルークは犬をじっと見る。
縫い目のあるお腹、優しく触り観察する。
「クーン」
痛そうだ。
ルーク
「この犬は君の犬か?」
アルに聞くが口をあたふたし黙り込む。
「なるほど…」
「その昔、奴隷の女が胎児をかかえ国境を渡った。」
「そして錬金術師たちは生まれた赤子を金に変えたと言う。」
唐突な言葉。
「…何の話だ?」
ルーク
「この命を救うには、それ相応の“モノ”が必要だ。」
アルフレッド
「いくらいるの?」
ルークは言う。
「お金じゃない。」
「まぁ、お金があれば何とかなるかもしれないが…」
「僕では助けられないと言ってるんだ。」
ルークは少しだけ、柔らかく笑う。
「この話を聞いて、君ならどうする?」
ノエルに問う。
「…。」ノエルは考え込む。
「まぁ、頑張ってくれ。」
ルークはノエルの肩をたたく。
「でも錬金術師なんて本当にいたのかね?」
帰り道。
「何だよあいつ…!」
アルが怒る。
「何もしてくれなかったじゃん!」
「いや」
ノエルは前を向いたまま言う。
「言いたい事は分かった。」
夜。
チャールズ一家のアジト。
「犬を見つけて連れて来た。」
とノエルは言う。
奥から、男が現れた。
ボスのチャールズだ。
(この街のマフィアのボス チャールズ37歳)
「ほう」
「さすがノエルちゃん、仕事がはやい。」
「カイル君とは違うね!」
ノエルは嫌な顔をする。
「病院には?」
「いや、」
「警察には?」
「行ってない。」
「…そうか」
ノエルの顔色を伺う。
「フハハッ」
「実に正直でいい。」
笑っているが目が笑っていない。
そういう生き方をしているからだ。
言葉とは裏腹に完全に疑っている。
「この犬はとても大事な犬なんだ。」
「お礼をしないとね。」
「で、何が欲しい?」
脅す様な目でノエルを見る。
今にも殺しかねない様な目だ。
ボスの問いに、ノエルは迷わない。
「この犬が欲しい。」
その場にいた部下たちも驚き、空気が凍る。
「…正気か?」
ノエル
「ああ」
「元気なときは懐いてた」
淡々と続ける。
「お手だってする。」包帯の男を見て言う。
部下が睨む。
『嘘つけ、このバカ犬が?』
咬まれて包帯で巻かれた手を摩る。
ハッタリを言うノエルに対し、今にも銃を取り出しそうだ。
ボスは手を上げ部下に待てと合図する。
実によく出来た犬だ。
ブランの腹を触り確かめる。
縫い直した形跡もない。
そして―理解する。
(まだ“中身”は無事だ)
チャールズはゆっくり頷いた。
「いいだろう。」
ノエル
「もちろん、」
「“元気な状態で”だ。」強く言った。
チャールズ
「フハハッ。」何故か目が笑っているように見えた。
「分かった。」疑いが晴れたようだ。
「約束しよう。」
数日後。
チャールズ一家から連絡が来る。
ブランが良くなったとの報告だ。
アルには危険なので、1人で迎えに行くノエル。
チャールズ
「ノエルちゃん、お腹の中身知ってたの?」
ノエル
「いや、」
「知らないってこと知ってるだろ。」
チャールズ
「そうだな、」
「まぁ、それとは別に仕事の話があるんだがどうかな?」
「辞めとくよ、父の遺言なんでね。」
「そうか、クラウドの…、なら仕方ない。」
「また気が向いたら考えておいてくれ。」
「ああ」
チャールズが少し寂しそうに見えた。
その後
アルはお使いに出された。
ブランも散歩がてらに連れていく。
どうやら母親を説得したようだ。
ノエル
「アルじゃないか、どこ行くんだ?」
「ノエルくん!」
アルが走ってくる。
その後ろで、白い犬が元気に跳ねる。
ノエル
「おっ、ブラン!」
飛びつく。
「くすぐったいな。」
しっぽが大きく揺れる。
「お前、ずいぶん元気になったな。」
ノエルはしゃがむ。
「お手!」
ブランは迷わず前足を出した。
ノエルはその手をとり、頭を撫でる。
「良かったな…。」
アルフレッド
「そうだ、お使いの途中なんだ。」
「またね、ノエルくん。」
アルは青果店に訪れた。
「ブラン、静かにしてろよ。」
ブランに話して屈んだ瞬間。
「おい、そこのお前!」
店の男に腕を掴まれる。
「ここにあったジャガイモ、盗んだだろ!」
「えっ、違うよ!」
誰も信じない。
汚れた服、貧しい子ども。
それだけで、答えは決まっていた。
そのとき―
ブランが飛び出した。
人混みをすり抜け、一人の男へ向かって行く。
「ガブッ、」と足首に噛みつく。
「うわっ!」男は倒れ込む。
ジャガイモが地面に転げ落ちた。
沈黙の時が流れる。
そして店の客たちはざわめいた。
「そいつだ!」
ブランは離さない。
真犯人を、逃がさなかった。
アルと店主はただ呆然と見ていた。
「…すげぇな、お前。」
ブランは誇らしげに尻尾を振った。
店主
「疑って済まなかったな、」
「代わりに好きなものを持って行っていいぞ。」
アルは迷わず青年が落としたジャガイモを拾い、青年に手渡す。
「コレ、ボクのだから…あげるよ。」
「お願い、許してあげて。」店主を見て言う。
あげるとは言ったものの、店主は納得出来るずがない。
客たちは
「いいぞ!」
「許してやれよ!」
と、アルとブランに拍手喝采だ。
店主も納得せざるを得なくなった。
「参ったな、負けたよ。」
「ありがとう。」
ブランに救われた。
その瞬間、アルは思った。
―ブランの事を、ずっと僕が守る。と…
でも守れない日が訪れた。
本当の飼い主が見つかったのだ。
アルフレッドの家の前。
遠くで、貴婦人が犬の名を呼んでいる。
「ビアンカちゃん。」
2つ離れた町のメアリー婦人だった。
財力を使って見つけ出したのだ。
「この子を見つけてくださって、ありがとうございます。」
「なんと御礼をしたらいいのか。」
頭を下げる。
母親はすぐに笑顔になる。
「ビアンカちゃんのこと、ずっと面倒見てたんですよ。」
アルは黙る。
「美味しいものもたくさん食べさせて―」
全部、嘘だった。
『ボクのあまりものだ。』
『ブランはボクが守らなきゃ!』
でも―
大事なドレスを汚してもブランを抱き抱える姿を見てアルは安心した。
『これからは、いっぱい美味しいものが食べられるぞ、』
『暖かいベッドで眠れるし、こんな怖い思いをしないで済む。』
アルは寂しそうな顔をする。
その時、ブランは婦人の手を離れ、アルのそばに来た。
そして静かに寄り添う。
「お前の居場所はここじゃ無いだろ。」
「…行けよ。」
アルは強がり、言う。
少しだけ震えながら。
「元気でな!」小さな声で
ブランは一度だけ振り返り、
しっぽを振って、まるで手を振る様に別れを告げた。
「ノエルくん」
「なんだ?」
「ありがとう。」
満面の泣き笑い。
ノエルは胸を貸す。
「まあ、みんな無事でよかったよ。」
2人はただ、幸せそうなブランを見つめていた。
雪は溶け、濡れた大地の上で…
ノエルは光る破片に気付き踏み締めた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
結局ブランの中には何があったの?
それは“秘密”です。
N様の参考になればと思っています。




