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Fibe-A2

昼間は灰色の濃淡だけだった街は夜になるとまったく装いを変えていた。


昼間はただのガラス張りの外壁に見えたのは液晶パネルで、画面には店内の様子が映し出されている。


映っているのはその店に所属しているホストたちで、一言二言決め台詞を言うと顔の下にテレビ出演者のように源氏名が浮かび上がった。


すると彼らをかき分けるように画面の中央から店の名前が迫ってきて、手前まで来たところで弾ける。弾けた後には勤務しているホストたちが勢ぞろいで笑顔でこちらを見て手を振りながら来店を待っていますと告げている。


(MVみたいだな)

物珍しさで見ていたウエストは水商売とは思えない演出に苦笑いを浮かべた。ただ、中に入ることはなかった。


彼が目指しているのはそんな華やかな演出をする店ではない。

砂羽から渡された名刺には『calmy』と店の名前が書かれていた。


検索してみると黒い板塗りの壁にLED製の看板が掛けられた店の外観が出てきた。

煌びやかな夜の街で埋没しそうなほど地味な見た目だが、昼間と違いあっさりとウエストは見つけることができた。


(なるほどな)

確かに地味だが浮かび上がる看板は何かの標識のように見えて歩く者の目を引きつける。加えて英語が分かる者ならこの街で、この単語を見たら気にならないわけがない。


入口で名刺を見せると受付の女性は手でOKの形を作り、奥の方のテーブルにウエストを案内した。

店内は意外と広く、カウンターだけでなくソファー付きのテーブルも2つ置かれている。


「お飲み物は何になさいますか?」

とその女性が日本語で訊いてきたが、当然ウエストには分からない。

すると奥から別の女性が出てきて


「Would you like something to drink?」

と英語で訊き直してくれたので


「ああ、ビールをたのむ」

と事なきを得た。


その女性はテーブルの上に液晶タブレットを置くと

「こちらはMS.砂羽よりMr.ウエストがお越しになった時に渡すよう承っております」

「オレに?」

「内容については私どもでは伺っておりませんので、どうぞご確認をお願いします」


女性が一礼をして去るとテーブルに残されたタブレットを手に取り画面にタッチする。

待機画面が出てきたが、当然そこから先に進むにはパスワードの入力が必要となっている。


(パスワード?)

ウエストは砂羽との会話を思い返してみるが、それらしいモノは記憶にない。

仮にあったとしても会話の中でポロっと出たのであれば、覚えていられるはずもない。

どうしたものかと画面を見て腕組みをしているとビールが運ばれてきた。


「サンキュー」と言ってビールがテーブルに置かれるのを眺める。

女性が白いコースターをまず置いて、その上にビールをセットする。

置かれたビールを手に取るとビックリするくらい冷えていた。


(これは冷やしすぎじゃないか?)

そう思いながら、ひと口飲んでみると想像以上のうまさに驚いた。


(うまい!)

グラスからはよく見ると白い冷気が零れ落ちており、冷やすのではなく本当に凍らせていたことがわかった。


あっという間に飲み切ってしまい、追加を頼もうとしたが女性の姿が見えないのでコール用のボタンが無いかテーブル上を探すと、ふと先ほどまでビールの置かれていたコースターが目に入った。


正確にはコースターに書かれた数字に気付いた。


タブレットが要求している暗証番号は6桁であり、コースターに書かれた番号も6桁だったからだ。


慌ててタブレット画面をタッチし、待機画面を呼び出すとコースターに書かれた番号を入力してみる。


はたして、パスワードは無事に通過し、画面が変わって砂羽の顔が出てきた。


背景は彼女の事務所のようだ。


『これを見ているのならまだ、そんなに酔っぱらっていないってことかしら』

画面の中の彼女が切り出した。


『じゃあ、そんな元気な頭で今から明日の狙撃についての予習をしてもらいます』

「予習?何のことだ」

もちろんタブレットの中の彼女はその問いかけには答えない。

すると画面が切り替わって地図が出てきた。


『ここが明日、アナタが狙撃をする場所。そしてここがターゲットとなる晶河高校。二つの間は直線距離で約4km。通常であれば、まず届かない距離だけどあなたの能力があれば、距離の問題はクリアできるでしょう。ただし・・』

そう言うと砂羽は地図をタッチして映像を俯瞰から水平に切り替えた。


『ごらんの通り、ターゲットとなる晶河高校は市内中心部にあり、周りには障害物となる建物がひしめき合っているので直線での狙撃は不可能です』

画面は恐らく狙撃ポイントから見た映像なのだろうが、確かにターゲットは全く見えない。


『そこで、アタシの固定の能力を使って市内上空30か所に反射板をセットしました。明日はこの反射板を使ってターゲットを狙撃してもらうので、今日のうちにどこにどういう角度でセットしてあるかを頭に叩き込んでおいてください』

「ん?」

『当然、反射板の角度はアタシが適当にセットしたものなので、実際に撃ってその都度修正していくことになりますが、まずはどこに反射板があるかを覚えて、出来ればそれを基にアナタの頭の中でシミュレーションまでしておいてもらうと明日の作業効率が全然違います。ぜひともよろしくお願いいたします』

「なに言ってんだコイツ」


30か所の反射板?


それを基にした弾道シミュレーション?

それを今、ここでやっておけ?

そういうことをさっき言わないで、今言うか?


『次の画面になると実際に反射板の角度を動かすことも出来るので、使ってみてください』

悪びれる様子もなく、むしろサービスだとでも言わんばかりに画面の中の砂羽が笑う。


その笑顔を見てウエストは彼女が自分をこの店に向かわせた理由を完璧に理解した。


「アイツ、まったく俺を休ませる気が無ぇな」


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