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転生エルフ、ポケット巡洋戦艦を作りました!  作者: サクヤ・ゾーセン
転生・天界編
12/12

11. 転生人、魔導池を製造する

 ――転生から四ヵ月後。

 

 アンドロメダ銀河の天界 海軍工廠近郊 魔導池製造工場。

 

「それで? 買収によって時間を買って、どうするんでしたっけ?」

 おれはいじけているフィリー先生に、質問を投げかけている。

 

「そして? 非の打ちどころのない魔導池は、どこにあるんですかね?」

 工場の角っこで壁に向いて丸まってるフィリーの背中を、つんつん、と突っついてやる。

 

「だ、だって。まさか溶かした魔素が、型の中でちゃんと固まらないなんて、予想がつかないじゃないか!」

 くるりと振り向いて抗弁をしてくる、涙目のフィリー。ディーが見たら“おぬしはそれでもツクリノミヤ家の次期当主か!”とかなんとか、一喝をするであろう、情けない姿である。


 そう。フィリーご自慢の《魔素溶融成形式・空間拡張工法》、その肝である溶かした魔素を固める工程。これがなんと、魔導池を作るための型を使うと、魔素が全然固まらないのである。そろそろ固まったかな、と型を開くと液体のままの魔素が、シャバシャバ、と流れ落ちてそこで固まる。最初はなにが起きたのか分からず、おれたちのほうが固まっていた。

 まさに『魔導関連技術って、そういうことはよくあるんだよ』が絶賛発動中だ。あんなこと言ってフラグを立てるからこうなるんだよう、フィリー先生よう。


「ほらあ、いじけていたってしょうがないだろ。パターンだよ。観点を出してパターンを組んで、端から試していくんだよ」

 おれがフィリーの腰をつかんで、隅っこから引っ張り出そうとすると。

「それはもう散々やったじゃないか! いまさら考えつく観点なんか、あるもんか!」

 そういってイヤイヤをするフィリー。自慢の技術が通用しない現実に打ちのめされてしまったようで、こりゃダメだ、という有様である。


「ふたりとも、なにをやっておるんですかな」

 そこにヌウっと影が伸びて声をかけられる。えっ、と振り向くとそこにはガブリエ親方が、首をかしげて立っていた。

 

 ――

 

「なるほど、そりゃあ難儀な課題だ。とはいえ、魔導技術を扱っておれば、まあ、あるある、というやつですわ」

 丸まってるフィリーをひょいと持ち上げて、お茶のテーブルに連れてきて、またひょいと座らせたガブリエ親方。フィリーに話を聞くとそう言い、おれたちの疲れた顔を見て、まあ頑張んなさい、と言ってガハハと笑った。


「それはそうと、親方はどうしてこちらに?」

 親方のアポなし訪問の目的が分からず、とりあえず聞いてみるおれ。

「ああそうでした。お知らせというか、お伺いというか。ついでに、随分と篭りきりだと聞きまして、様子見ついでに寄らせてもらいましたわ」

「籠ってるって、誰がそんなことを?」

「アーフィリア様ですよ。自転車の調子を見に行ったとき、心配だから様子を見てきてほしいと、頼まれましてな」

 さすが女神様! ああみえてお優しい一面があって、この敬虔な信徒たるルタヴァールめは感動も打ち震えております。

「いや、あの二人は放っておくとなにをしでかすか分からないから、ちょっと確認してこいと、まあそんな調子で」

 前言撤回。あのポンコツ女神め、本当につまんないとこだけよく気が回りやがるぜ。ぺっぺっ。


「それでですな、ほら。頼まれていた手動式の成形機。砲弾をつくるとかで用意した機械。あれが出来上がったので、どちらに納めるのかを伺おうと思いましてな」

「それはわざわざ、ありがとうございます。あれは船内で砲弾生産に使うものですから、造船ドックのほうに運んでいただければ」

「ここへ」

 おれと親方は首をふって、フィリーを見ると。

 やつは目を爛々と光らせて、やばいことを思いついた!という目をしていた。ああ、血よ、血の恐ろしさよ。

「ここへ! ここへ運び込んでください! 実験だ! 人力! 人力の成形で実験します!」

 とつぜん立ち上がって、天に腕を突き出して叫ぶフィリー。その鬼気迫る様子におれも親方も呆気に取られて、ただただ見上げるしかなかった。

 

 ――

 

「ふんぬうぅぅっ!」

 おれが成形機のハンドルをぐるぐるぐるぐるっ!と回す。

「おぉりゃぁぁっ!」

 ハンドルに繋がれた歯車たちが次々と回転し、最後に棒へ刻まれた溝と噛み合って。

「こなくそおぉぉっ!」

 棒が、ぐっ、ぐっ、とゆっくり前進。大きな注入器の中で溶けた魔素を、ゆっくりと型に押し込んで、魔導池を形作ってゆく。ゆくが……お、重い! 型に押し込んだ魔素から、跳ね返ってくる圧力に、負けそう!


「頑張れ、ルタヴァール! それでも天の川から拉致されてきたエイリアンか! 根性を見せてみろ!」

 応援なんだか、罵倒なんだか、よく分からない声援を送ってくるフィリー。

 

「いいですぞルタヴァール殿! もっと腰をギュッと入れて! そうじゃなくて、ギュッと!」

 聞いていてまったく分からないアドバイスをくれるガブリエ親方。もう用は済んだんだから帰ってもいいんですよ?

 

「どりゃっ!」

 最後のひと回しをしてハンドルをロック。ぜえぜえ。はあはあ。これで魔素の注入は完了だ。

 

 さきほど、製造ラインの自動機械から型を取り外してきて。その型を、砲弾製造用に用意した、手動式の成型機に取り付けて。そうして行われている手動による魔導池の製造実験は、おれの体力を使いつくして、無事にその山場を越えた。


「手動での注入に……十五分。結構かかるね。それから、固まるのを待つ時間が三十分。取り出して、掃除と次の準備に十五分」

 フィリーが、それぞれの時間を確認している。

「一個作るのに、一時間かあ。こりゃあ、手で作るのは無理かな。データを取ったら自動化しないと」

 いままさに重労働を終えたおれを前にしてそれをいうのは、人としてどうかとおもいます。


「なあフィリー、おかしくないか? 魔素を押し込むのが、手作業だとなんでこんなに、大変なんだ?」

 ひいはあ、と息を継ぎながらフィリーを問いただす。もっとこう、シュッと、サッと、できんのかい。

「この小型の魔導池は歴史のある製品でさ。作られた時代が古くてね。固めるための型が洗練されてなくて、注入に力がいるんだよね。製造ラインで使ってる機械は、魔導モーターの力づくて押し込めるし、冷却も魔導クーラーでするから。あっちなら、一個作るのに十分くらいなのになあ」

 ああそう。悪かったわね、あっちの機械みたいに、パワフルじゃなくって!


 そして、お茶をしながら待つこと三十分。


「じゃ、外すよ」

 フィリーが型の留め具を外して、型を押さえているレバーを持ち上げる。

 型が真ん中からパカっと分かれて、そして。


 コローン、ロン、ロン、ロン。


 床に落っこちて、小気味良い音を響かせながら跳ねる、五十センチ四方の、真白い箱。


「「「で、できた」」」

 

 おれとフィリーとガブリエ親方、三人の声のハーモニーに包まれて、魔素製の魔導池が出来上がった瞬間だった。

 

 なーんだ、魔素ってもの凄くゆっくりと入れればよかったのかあ、ってバカヤロー。人をおちょくっとんのか、このくそ魔素野郎は。


「よし!よし! 方向性が掴めたぞ! あとはこれを、製造ラインで使う自動制御の魔法陣に仕立て上げれば」

「あー、ちょっとよろしいですか、フィリー教授」

 おれは手を挙げて、興奮しきりのフィリーに待ったをかける。

「なんだね、ルタヴァール学生、わしに意見しようというのかね」

 律儀におれに付き合ってくれるフィリー教授と、突然始まった即興コントに、ひとり戸惑うばかりのガブリエ親方。

 

「その自動制御の魔法陣、完成はいつ頃になりそうですか」

「うむ! よくぞ聞いてくれた。この微妙で複雑な操作の再現も、わしの腕を持ってすればそうさな、ざっと一ヶ月ほどあれば……一ヶ月?」

 そして絶句するフィリー教授。 

「い、いや! しかしだね! 量産性を! 工場の生産性を考えればだね!」

 即座に立ち直ろうとするフィリーに、おれはゆっくりと歩み寄ってその肩をポンと叩く。


「フィリー。おれたちはね、一隻の船を作れば、それでいいんだよ。なにも八八艦隊をズラリと勢揃いさせようってわけじゃあないんだ」

「……ハチハチカンタイってなんのことだい?」

「おれの故郷でつくりかけた、夢とロマンが詰まった大人のおもちゃさ。それはともかく、あやふやな約束の一ヶ月なんて、さすがに待ってはいられないぞ」

 フィリーの目がだんだんと理解の光を宿していき、次の瞬間に、造船ドック仕込みの大声を上げた。

 

「えっ! まさか人力でやろうってのかい? 百個もかい? 十日もかけてかい? ルタヴァールきみ、あたま大丈夫かい?」

「さっき一個できたから、あとたったの、九十九個だ。それに二人ってわけじゃない。きっとガブリエ親方も……」

 いない。ガブリエ親方はどこへ?

 

 そのとき遠くから扉の開く音がして。目を向けると、開いた扉の前でこちらに向かって「まあ頑張んなさい」というように、ひょいと手を挙げた親方がみえた。扉が閉まる。親方が消える。


「……二人で頑張ろう!」


 おれは、すでに死相を浮かべたフィリーの手をしっかりと握り、絶対に逃さないぞ、という想いを込めてブンブンと腕を振った。


本年の更新はここまでです。

ここまでお付き合いいただいた方々に御礼申し上げます。

年末にせっせと書き溜めて、来年は第二週あたりから再開したいな、と思っています。


それではみなさま、良いお年を!

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