第十五幕 魔獣たちの蹂躙の時間
面倒くさいカオスデキオンのカウンセリング業務をグリーアに押し付けたマドーは、今度は五月雨武光率いる自由の翼とともに、人間狩り教の撲滅に向かっていた。
「マドー。あれがデマロンデ・エーテルハントが立てこもっている魔術師の塔だ」
「ほう。さすがにこのマドーと並ぶほどの実力者といわれることだけある」
魔術師が最も強い状態。それが魔術師の塔に立てこもっている状態の魔術師だ。そもそも、マドーのようにわざわざ敵と相対して戦うタイプの魔術師の方が異端ともいえる。
魔術師は厳重な塔に立てこもって、あらゆる魔術を駆使し外敵を駆逐するというのが一般的に優秀だとされているのだ。
武光たち自由の翼は、デマロンデの魔術師の塔から遠く離れた見通しのいい平地に陣取っている。森の中もまた罠だらけで危ないからだ。
そこで、ゴーレムや魔法生物といったいわゆる魔術師が用いる魔導兵と戦っている。ちなみにほかの人間狩り教徒はすでにマドーの手によって一掃されていた。
「それにしてもマドー。そんなでくの坊で大丈夫か?」
武光がいうでくの坊というのは、マドーが連れてきた魔獣のことだ。デイカオスの勇者連合の連中を素材にし、魔獣ギリマクゼオを始めとした屈強な魔獣を複数体連れてきている。
「おうおう!俺たちがでくの坊ってのはどういうことだ!」
「マドー様の親友だろうが容赦しないぞ!」
といって、魔獣たちはいきり立った。武光は困惑した。
「しかし、ならお前たちはデマロンデの魔導兵に対抗できるのか?」
「当たり前のことだ!マドー様!このギリマクゼオがデマロンデの首を上げて見せますぞ!」
といって魔獣ギリマクゼオは、いきり立ち魔導兵を蹴散らして魔術師の森に向かっていった。それを見た他の魔獣たちも手柄を取られてはまずいと思い勇んで突撃した。
「それいけ!ギリマクゼオばかりにいい顔させるなよ!」
「褒美をもらうのは俺だ!」
凄まじい士気の高さで一体何があったのかといったところだ。彼らは無理やりマドーに魔獣にさせられたはずだが。まあ彼らは人間よりも魔獣の方が性に合っていたということなのだろう。
とはいえ、武光の懸念通りこのでくの坊たちは、すぐに泣きが入ってしまい逃げ帰ってきた。
「話がちげーじゃーねかあ!マドー様よお!」
と愚痴りだす始末。マドーは仕方なしに話を聞くことにした。
「一体どうしたというのだ?」
「ゴミどもを蹂躙するからってんで俺たちを連れてきたんじゃなかったのか?こんなんじゃグリーアの姉さんのところにいたほうがましだったぜ!」
「確かに、ゴミどもを蹂躙するのが諸君らの業務であるといった。しかし、それだけが諸君らの業務ではない。それに、不死身のボディを与えたのだから、どれほど巨大な敵でもいつか攻略できるはずだが?」
マドーのいうように、魔獣らは誰も命を落としわけでもなければ傷を負っているわけですらない。それもそのはずで彼らは傷を瞬時に癒してしまう完全生命体だからだ。
「俺らは戦いたいわけじゃねえ!蹂躙したいだけだ!それに死なねえからって痛いことに変わりはねえ!だったら痛みも消してくれ!」
「しかし、俺は諸君らに強大な力を宿してほしいと考えているのだ。その有様ではとても新魔界に存在する伝説の始祖の魔獣になりえん。
痛みがあるから学習し、成長できるというものだ」
そんな風に言い合いしている最中、魔法陣が出現しデマロンデ・エーテルハントが出現した。といっても実体ではない。
「やあやあ。醜い言い争いをしているじゃないか。最強の魔術師マドー・マホー君!」
「そういう貴様は、このマドーと並ぶ魔術師、デマロンデ・エーテルハント」
「君が僕と並ぶ魔術師?馬鹿を言っちゃいけない。そんなでくの坊のサンドバックしかよこせない二流魔術師風情が、僕と並ぶなどとおこがましい」
それを聞いた魔獣たちはいきり立つ。
「なんだと!俺たちがでくの坊でサンドバックだってのか?サンドバックの力思い知らせてやる!」
といって突進するが、実体ではなく虚像なのですり抜けてすっころぶだけで終わった。
「いや、全く恐れ入る。さすがは最強の魔術師マドー・マホー!馬鹿で間抜けをそろえるのだけはお得意と見える!この分じゃ術比べは僕の勝ちってところだな」
「術比べ?」
マドーはその言葉に疑問を持った。
「おや?一丁前に反感を持ったかい?」
「術比べを所望なんだな?」
「ふっ。凄んだって無駄さ。君の噂ばかり大きくて実像は小さい人物だ。いい加減負けを認めたまえよ」
マドーはデマロンデの虚像に向かって風の刃を放った。
「無駄だよ?全く部下も部下なら主人も主人。同じような馬鹿なことを・・・ぐはっ!」
いきなりデマロンデの虚像が血を吐く。
「な、なにをした?」
マドーはその言葉に応えず、魔獣たちを激励した。
「さあ、蹂躙の時間だ」
魔獣たちは困惑している。武光がフォローした。
「デマロンデの力がほとんどなくなった。魔導兵も虫の息だろう。今なら君たちの力でも十分に蹂躙できそうだ」
「なるほど。そういうことなら」
魔獣たちはにやりとし、悠々とデマロンデの魔術師の塔に向かっていった。その心変わりの性根の汚さを見て武光はあきれた。
「本当にあんな連中で大丈夫なのか?」
「厳しいな。最初はあんなものだろ?」
「弟子をことごとく殺しているお前に言われたくないが」
「何を言う。正当な勝負の上のことだ。弟子と師匠が戦い。生き残った方が魔を継承する。それが魔術師というものだ」
「俺には理解に苦しむよ。マドーは弟子を大切に育てるが、結論殺すなら何のために育ててるんだか」
「なら勝手に苦しんでいろ。しかし、そうだな。連中は正当な弟子ではない。そろそろ新しい弟子を作ってもいい頃か」
「それなら、ルドオンにうってつけの人材がいたぞ」
「ならとっととルドオンに行こう。人間狩り教に関してはギリマクゼオに任せておけば大丈夫だ」
「本当に大丈夫かあ?マドーが言うなら言うことはないが」
「いざというときは頼りにしているぞ。千の首を垂れるヒドラよ」
「また俺の土下座外交頼りかよ」
マドーと武光は、魔獣たちと自由の翼のギルドメンバーを若干この場に残して自身らは異世界ルドオンに転移することにした。




