「make believe」
氷見野さんから文化祭のチケットを手に入れたおれたちは神佑大学附属高校までやってきた。
人生初の高校の文化祭だよ。
中学までの文化祭とは雰囲気が違うな。
1階の多目的ホールではコスプレをした女の子が「演劇部でーす!」と声を張り上げている。
(女子高生、かわいいなあ……!)
この篠原幸雄のルックスであれば片っ端から声かければ連絡先コンプリートできるんじゃね?
いや、やらないけどさ。
なんて話しかければいいかわからんもん。
向こうから話しかけてきてくれないかな!
「2年A組は……っと」
浮き足たつおれをガン無視して総平は受付でもらったしおりで教室の場所を確認している。
おれもしおりを開いた。
3階のいちばん奥の教室っぽい。
学生でもなければ保護者でもないし学校関係者でもないおれたちはのこのこと高校には入れない。
セキュリティが厳しいからね。
この篠原幸雄の美しさであっても不審者扱いされてしまうだろう。
悪いことしそうな顔には見えねえけどな。
こちとら世界の命運がかかっているってのに。
気にせず突っ切れよ!
でも警察の厄介になるのは篠原幸雄としては避けたいよな、と我慢して今日までやり過ごしてきた。
「総平、親父さんってどういう人?」
階段を上がりながら聞いてみる。
おれの父親については聞かないでほしい。
マジで聞かないでほしい。
よその父親がどんなだかは知りたい。
この世界の篠原幸雄はパパから愛されながら育ったようだし。
「どういう人……世間一般的には善政の首相だし、作倉さんからも良いところしか聞いてこなかったな……」
風車宗治首相。
首相ですよ首相。
おれはこういう立ち位置で、アカシックレコードも読んだから『風車宗治が実は【威光】の能力者で、その能力によって強制的に全国民を従わせていた』っていう事実を知っているんだけど、一般人は能力者だったってことも知らないからな。
亡くなってしばらくしてから風車首相の言っていたことが机上の空論に過ぎなかったって広まっていった。
なんてったって全人類を幸福にしようとしていた人だ。
地球上のすべての人間がハッピーであるようにと願い、行動していた。
どんな国でも先進国と同じ水準の生活レベル!
を実現しようとしてたんだから冷静に考えるとやばい。
無理に決まってんじゃん。
何年かかるのさ。
能力【威光】のせいでみんなそれが「できる!」と信じ込んでいたんだけどね。
「家ではどんな感じ?」
「あのでかい家を建てておいてほとんど家に帰ってこなかったよ。智司が物心ついてからは特に忙しくて。俺たちは作倉さんに育てられたようなもんだよ」
まあ、そうか。
そりゃあ忙しいよな。
あちこちの国に飛び回ってたんだし。
「母親は?」
「智司が生まれた時に亡くなってる」
さらっと答えたのは、聞かれ慣れている証拠だろう。
風車家、外から見たら裕福そうに見えるけど中身はわりと闇深いな……。
というか。
智司の記憶から総平が消えていたということは、これから会う宗治の記憶からも消えているんじゃないか?
長男の存在が消えて、次男だけになっている?
一人っ子ってことに?
でもまあ、生前にそこまで付き合いがなかったなら受けるダメージも軽減されるかも?
今の話を聞いていると。
もっと理想の親子の綺麗な思い出話をされるかと思っていた。
なんかどっかに旅行したとか。
運動会とか学芸会とかその辺の学校行事のエピソードとか。
(なら、なんでわざわざ高校まで会いにきたんだ……?)
総平にとっての父親がどうでもいい存在なら、蘇ってきた父親に会いに行かなくてもいいじゃん?
勝手にしろって感じで。
氷見野さんから話を聞いた時には氷見野さんに謝ってたけど。
「うわ」
「ん? ……わー」
2年A組の入り口から廊下にずらりと。
長蛇の列が形成されていた。
列の一番後ろでは“こちらお化け屋敷最後尾”の札を持った女子高生2人組がペチャクチャとおしゃべりしながら並んでいる。
これ待つの?
待たなくてよくない?
だっておれたち、別にお化け屋敷に入りたいわけじゃなくね?
「俺、ちょっと店番の子に聞いてくるよ」
総平が列をかき分けながら進んでいく。
助かるわー。
今日気付いたんだけどおれ人混みだめだ。
この身体になっても気持ち悪くなってくるんだから向いてないや。
店番の女子高生と話している総平を遠目に見ているおれ。
コミュ力ほしい。
こういうときに“ぼく”は聞きに行けるんかな。
話しかけられたほうはドッキドキだろうなぁ。
なんて考えてたら、総平がおいでおいでと手招きしてくる。
おれもそっち行かなきゃダメかー。
そっかぁ……。
「すみませーん。ごめんくださー」
頭を下げながら進むおれ。
嫌な顔はされないけどなんか割り込んでるみたいでやだな。
ふぅ……。
「氷見野さん、中にいるらしい」
中に?
え、オバケ役ってこと?
おれ知ってるよ。
やったことはないけどさ。
お化け屋敷入ったこともないけど。
お化け屋敷のオバケってオバケ役の人いるんでしょ?
本物じゃないんでしょ?
絶対やらなさそうだけどあの子。
何度か会話(向こうは筆談)してなんとなく性格を察した。
こだわりが強くてプライドめちゃくちゃ高いタイプじゃない?
「中入っていいのか?」
「こっちから入ればお化け屋敷の裏側に入れるからって」
総平が逆側の引き戸を開ける。
教卓のそばにパイプ椅子が2つ並んでいて、男子高校生が2人それぞれの椅子に座っていた。
手前側が氷見野さん。
「お客さん! こっちじゃないぞ!」
奥に座っていた男子高校生が立ち上がって手をしっしっと追い払うように動かしている。
この間会った風車智司を少し若返らせたような顔だ。
「お前が風車宗治か?」
能力による独裁政権を作り上げた男。
にしては、それほど悪そうには見えない……なんか、普通の子って感じだ。
まあ、13回目の世界の築山がそうだったように。
すんごく悪いやつほど悪のオーラを隠すのかもしれない?
「そうだよ! 何? オレって生まれ変わっても有名人?」
『思い上がるな』
「なんでこのおにーさんはオレの名前知ってんの?」
『この2人はお前に用がある』
氷見野さんに書かれて「ふーん?」と頷きながらおれと総平の顔を交互に見ている宗治。
総平からもなんか言ってやれ。
おれが背中を小突く。
「親父さ」
「オヤジぃ!?」
『総平はお前の息子だ』
宗治はドヒャー、という効果音と共に後ろにひっくり返った。
オーバーリアクションすぎない?
知恵ちゃんから前回までの情報を得ている氷見野さんは知っているけど、宗治にとっては突然やってきた息子だもんな。
それにしてもオーバーすぎない?
「オレの息子は智司だけじゃなかった? 総平? え……? 誰?」
しかもこの14回目の世界では生まれてすらいない。
宗治は総平に近寄っていくと、小声で「お母さん誰?」と耳打ちした。
小声なのにおれにも聞こえたからデフォルトの声の音量がバグっている。
「は……? 俺と智司の他に子どもがいる可能性があるの? 知らなかったなあそれ!」
まさしく青天の霹靂ってやつ?
宗治の襟首を掴む総平と「ないよ! ないから!」と弁明している宗治。
おれは止めたほうがいいの?
こういう時って止めたほうがいいですか氷見野さん!
目配せしたけど氷見野さんは冷ややかな目で風車親子を見ている。
「で! 母親は!」
「日下部美咲!」
「2人目……??????????」
「智司が2人目だよバカ!」
「あー! バカって言った! バカって言ってくる息子は息子じゃないもん!」
【make believe】




