Chapter9
11月3日。
今日は文化の日。
明日から神佑大学附属高校は文化祭!
「もらっちゃっていいんですか?」
我が家のお向かいの交番に勤務中なたーちゃんにチケットをあげる。
祝日だけど文化祭の事前準備で登校しないといけないの。
「あったり前田のクラッカーさんってヤツ」
「……秋月さん、たまーにネタが古いですよね」
「そんなコト言うたーちゃんの分はボッシューなの」
なんだよぉ。
せっかく用意してやったってのに。
慌てて「冗談ですって!」なんて言われたら仕方ないな。
「余らせても捨てるダケだし」
たーちゃんぐらいにしか渡す相手がいないし。
この前『機会があれば』学校来たいって言ってたし。
みんなは家族に渡すんだろう。
「ちなみに何やるんです?」
「お化け屋敷!」
「ど定番ですね……」
何だその反応は。
うちのお化け屋敷は一味も二味も違う。
なんたって希代の天才・氷見野博士がいるの。
現役の警察官が腰を抜かすの楽しみ。
「それで、こっちは?」
文化祭のチケットといっしょに渡した四角い箱。
ラッピングしているんだから察してほしいの。
「たーちゃんへの誕生日プレゼントなの」
わたしはなにももらってないケド。
考えをあらためてみたの。
先に渡して来年に3倍にして返してもらうの。
わたしってば策士じゃない?
「まだ先なんですけど……」
「もらえないよりいいじゃない?」
「それもそうですね。開けてみてもいいですか?」
パイプ椅子に座って、机の上に今しがたわたしから受け取った箱を置くたーちゃん。
対面の椅子に座るわたし。
「今?」
「受け取れないようなものが入っている可能性がなきにしもあらずなので……」
「ひでぇな。やっぱりボッシューかぁ?」
箱のにおいを嗅ぎ始める。
失礼な。
チョコなんだからにおいでわかるワケがなかろう。
「このリボン、縦結びになってませんか」
おいおいおいおい。
ラッピングに文句つけ始めたじゃん。
不器用なりに頑張ったのになぁ。
「こまけぇことはいいじゃないの」
「そうですね。大事なのは心ですもんね。贈り物の金額とか出来映えとかではなくて」
開けてから言うなし。
見た目は悪いかもしれないケド。
ただの手作りチョコレートじゃない。
秋月千夏が作ったチョコレートだし。
「何入れたんですか」
食べる前に聞くなし。
せめて一口食べてから聞いてほしい。
そんなもん答えてやるもんか。
「食べてからのお楽しみってコトで」
「うわぁ」
頭を抱えられちゃった。
食べられないものは入れてないし。
わたしにも常識はあるし。
「そうだ! 食べさせてあげよっか!」
学校のみんなにあげる前に、客観的な評価は欲しい。
だからたーちゃんが食べてくれるのは大賛成。
みんなの分を包んでたらわたしの分なくなっちゃったし。
味見できてないし。
「はい、口開けて!」
「手の届く位置にお茶用意してもいいですか」
「ねじ込むぞてめぇ」
わたしが精魂込めて作り上げたものを流し込もうとするなや。
噛みしめろ!
味わえ!
「!?」
わはは。
美味し過ぎて飛び上がっちゃうでしょう。
「どうだ!」
「何入れたんですかコレェ!」
「ワサビ!」
「ワサビぃ!?」
甘いものと辛いものを合わせるコトで相乗効果が生まれる。
正反対のものを組み合わせるのはよくある話じゃない?
絶対イケると思って調べたら既にパティシエがワサビ入りチョコレート作ってるし。
自分のカバンから取り出した水筒からお茶を一杯注いで飲み干して、一旦落ち着いてから「……率直な感想いいですか」と切り出すたーちゃん。
おう。
何とでも言ってくれや。
ラーメン屋の店主のごとく腕を組むわたし。
「とても美味しいわけでもなければ不味くもないです」
「ビミョーってコト?」
「辛くてびっくりはしますけど食べていくうちになんかこういうものだったような気がしてきてしまうというか……ビミョーってコトです」
美味しいなら美味しいのほうがイイし。
不味いなら不味いほうがそれはそれで“オイシイ”し?
どっちつかずがいちばんリアクション取りづらいんじゃない?
「ビミョーかあ……」
ビミョーと言いながらももう1粒食べて「そういえば、秋月さんはいつまで高校生してるんですか?」と話題を変えてきた。
いつまでって。
いつまでなんだろう?
いまが楽しいから、考えてもみなかった。
「このまま来年は3年生になるんですか?」
単位足りてるし。
問題なく進級できちゃうし。
「なんで高校生になったのかはわからないケド、わたしはみんなとあの学校を卒業したいと思っているし」
愛着っていうのかな?
もうなんかなんで高校生やってるのかとか考えるのヤボに思えてきちゃったし。
こうなったら来年度も続けていきたいし。
「だとすると、しばらくは俺とコンビを組めないでしょうね」
「寂しいコト言うじゃない」
たーちゃんは警察官だけど、組織の協力者でもあり、実は能力者でもある。
ほぼ能力使わないから能力者だってコトを忘れがち。
わたしが“組織”に所属して研修期間を終えた後すぐの、最初の任務がたーちゃんと一緒だった。
それから幾度となく頼りにしてきたし。
たーちゃんは相棒。
「寂しい?」
「違うの?」
「秋月さんは俺が近くにいなくて寂しいと」
ニュアンスちょっと違うんじゃない?
いや違くないか。
ん?
違くない?
いやまあ、そうか。
「そりゃそうよ。たーちゃんはお米みたいなもんだし」
「米?」
「めちゃくちゃ美味しいワケじゃないけれども毎日食べられる、みたいな関係ってコト。お米がなくなったら困るじゃない?」
「もっとわかりやすい喩えありません?」
わかりやすくかぁ。
精一杯わかりやすくしたと思うケドなぁ。
日本語ムズカシイネー。
「米か……」
たーちゃんの本名は“剛力宝“だけど、なんかガチガチだし。
変に距離感があるよりは仲良しになりたかったからあだ名をつけたの。
「去年の6月だったっけ?」
「何の話……ああ、最初の?」
とはいえ、最初からこの呼び方が受け入れられていたワケじゃない。
あれは確か去年の6月に入ってすぐぐらいのコト。
それぐらいだった気がする。
【友人以上恋愛対象未満相棒】




