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虚構の世界に介入して登場人物を全員幸せにするまでの物語、パーフェクト・バージョン!  作者: 秋乃晃
13回目の偽アカシックレコードの世界=虚構の世界編
71/100

Re:「空腹に劇薬」


 意識を失ったおれは空腹に気付いて上体を起こす。


 腕時計で日付を確認すると11月3日だ。


 10月31日に倒れて11月3日かあ。




(そりゃあ腹減るな……)




 おぼつかない足取りで洗面所まで向かう。


 どんだけダメージ受けてんだよ。




 頭の中はもやがかかったように冴えない。


 視界はぼやけている。


 視力が低い人の視界ってこんな感じなんだろう。




「ダーリン、おなかすいたでしょぉ?」




 キャサリンの低い声が背後から聞こえてくる。


 冷たい水で顔を洗ってから振り向くと、キャサリンは台所で食事の準備をしているようだ。




「ぼくの記憶が正しければ、今日は10月31日だったはずだ。しかし11月3日になっている」


「ダーリンの主観だと、そぉだねえ」


「ここまでの経緯を説明してほしい」




 キャサリンは「うーん、上手く説明できるかなぁ」と不安げな表情を浮かべているので、おれも何が起こったのかをできるだけ思い出そうとする。


 10月31日にスカルのかぶりものをした“ジャック”と名乗る男と相対した、ところまでで記憶が途絶えてしまった。


 ジャックというか楠木慶喜だけどな。




 いやーよく寝たなあ。




「ダーリンは時間切れを起こして、その場で倒れちゃったんだよぅ」




 そうじゃん。


 この段階での【疾走】はタイマーが0になる前に元の位置に戻らんといけない。


 戻らないとこうやってペナルティを受けてしまう。




 制限かけられてんのつらいなー。


 もっと自由におれの能力を使わせてほしいよ。


 おれにしか使えないおれの能力なんだから。




 まあ、今回は休めたからいいか。




 ポジティブに考えよう。


 この世界の篠原幸雄は前向き人間だからな。


 おれもポジティブシンギングでいかないと。




「そのあと、導ちゃんが大男に【変装】して変なやつを殴り倒して」


「みんなは動けたのか」




 ミスしないと得ることのできない知識もある。


 能力者本人が倒れても選択された対象はペナルティを受けない。




 ふむふむ。


 これは新たな学びだ。




 おれは他の誰かと一緒に戦うことなんてなかったし。


 一緒に戦わないから気にしたことなかったよ。




「うん。そんでもってキャサリンがダーリンをおんぶして、芦花ちゃんが扉をつなげて、オーサカ支部に戻ってきたって感じ」


「そこからおれはスリープ状態、ってことか……」




 規定時間までに元の位置に戻れなかったことへのペナルティ。


 おれの【疾走】は、他人にとっての1秒間が発動中の30秒間になるのなら、その30秒間おれの肉体は他人よりも速く歳をとることになる。


 実際に流れている時間とおれの体感時間の誤差が、このペナルティで埋め合わされているのだろう。


 だからこそ、すぐさまオーサカ支部へ戻るべきだったという後悔は消せない。




 将来的にこのペナルティなくなるから、マジで忘れてたんだよ。


 ほんとだって。


 嘘ついても仕方ないし。




 初歩的なミス……。




「おなかすいたでしょー」




 テーブルまで足を運ぶ。


 メインは窃盗団を捕まえることだったのだから。


 結果から考えれば大成功。




 おれを足止めしてくれた楠木は病院送りされたし。


 このままフェードアウト。


 本人は今後出てこない。




 ペナルティの存在を思い出させてくれたという点で楠木には感謝しとこう。




「いっぱい作ったから、いっぱい食べてねぇ」




 山盛りのピラフが目の前に置かれる。


 そのピラフを食べようと、スプーンを握った。


 飲まず食わずで寝込んでいたせいなのか、その感覚が妙になつかしい。




「そぉいえばぁ、今日って天平先輩のお見合いの日だぁ!」




 スプーンが床に落下する。


 フローリングの床にかたんと音が鳴った。




「お見舞い?」




 そうか、お見舞いか。


 この3日間の中で、天平先輩は負傷してしまっていたのか。


 なるほどなるほど。


 退院したばかりだというのにまた入院とはついていない。


 一度お祓いしてもらったほうが賢明かもしれないな。




「違うよ、お見合いだよぉ。おーみーあーいー」




 かがんでスプーンを拾う。


 なんでまた?




「誰と!?」




 ここで“ぼく”は驚く。


 おれは知っている。




「い、いや、キャサリンも詳しくはわかんないなぁ……」




 キャサリンが頬をかきながら斜め上の方向を見た。


 ごまかしているわけではなく、本当に知らないのだろう。




「行くぞ」




 スプーンを食卓に叩きつけると、キャサリンの手を掴んだ。


 これは行かなくてはならない。


 


「天平先輩のお見合い会場まで!」




 風車総平に会いに行くぞ!




 いや!


 待って!


 キャサリン!


 お前の用意してくれたピラフは食べる!




 食べてから行くから!


















 お見合い会場は知っている。


 偽アカシックレコードに書いてあった通りの場所だ。


 似たような名前の建物が多くてちょっとだけタイムロスしたけど、まあ大丈夫。




 間に合ったからよし。




「何しに来たん!」




 おれたちが到着して即、口から火を噴き出しそうな勢いで天平先輩が吼えた。


 見事な虎柄の着物をお召しになられている。


 黄色と黒のリズミカルな配色は既製品ではなかなかお目にかかれないだろう。




「天平先輩のお相手が如何なる男かとジャッジしに来ました」


「来ちゃったぁ」


「来なくてええわ! うちの親かなんかか!」




 天平先輩は激怒しているようだ。


 化粧で覆われているはずの頬が真っ赤になっている。


 もちろんおれたちは天平先輩の親ではない。




「親ではなく仲間だ」


「この人がさっちゃん?」




 会話に割り込んできた男。


 風車総平だ。




 この人が、だなんて天平先輩に確認しているけどおれのこと知ってるでしょ?


 おれは前回のこと、ちゃんと覚えてるからな。




 風車総平は神佑大学の別館にある“知恵の実”に前回までの出来事を記録している。


 だから今回はここで初対面なおれのことだって知っているはずなんだよ。


 知らんぷりすんな。




 おれはこの世界の篠原幸雄になったけれど、この世界のルールである“記憶のリセット”は効かないっぽい。


 転生して来たからかな。


 元々がこの世界の人間ではないからかも。




 やったぜ。




 まあ、生前に読んだ偽アカシックレコードの知識がないとどうしようもなかった部分はある。


 そこまで忘れてしまっていたらおれは“ぼく”として振る舞えないよ。


 おれと“ぼく”は違う人間なんだから。




「せや。こっちがさっちゃんでこっちがキャサリン。ってかキャサリンもなんで止めんかったん?」


「芦花ちゃんもグランマも相手さんのこと教えてくれないから気になっちゃってぇ」


「あああああああ話さんほうがよかったああああああ黙っときゃよかったああああああああ」




 崩れ落ちていく天平先輩のことは一旦忘れよう。


 というか、まだ総平は名乗っていないからここでおれが“総平”と呼んでしまうとおかしなことになるな。


 その点に注意しながら会話を進めるか。


 


「お前がお見合い相手で間違いないのか」




 おれが男をにらみつけると、男は「お見合い? ……ってことになっているなら、そうかもしれない」と答えた。


 そうかもしれないとはなんだ。


 はっきりさせてもらおうか。




「すまんの、総平さん。変な後輩で」




 復活した天平先輩がすまんすまんと謝っている。


 よし。


 ここから先は呼んでもいいな?




「総平、おれはお前に話がある。今度2人で話し合おうじゃないか」


「気が合うね! 芦花さんの“仲間”なら、俺も仲良くなりたいよ」




 総平の横で天平先輩が「あー、……面倒なことになったもんやなあ!」と頭をかいた。


 何が面倒なの?


 いいじゃん。







【空腹に劇薬】



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