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虚構の世界に介入して登場人物を全員幸せにするまでの物語、パーフェクト・バージョン!  作者: 秋乃晃
13回目の偽アカシックレコードの世界=虚構の世界編
67/100

Re:「しゅうまつにひびくさいれんと」


 金曜夜にけたたましい救急車と消防車のサイレンが鳴り響く。


 あまりにもうるさいので窓の外を眺めようと、もぞもぞとベッドから這い出た。


 テーブルの上のスマートフォンが光っている。


 画面を見ると、導からだった。




「ささはらぁ! 大変なんじゃ!」




 サイレンの音に負けないぐらいの声量で導がわめく。


 どうやら火災現場の近くにいるようだ。


 おれはワイシャツを羽織りながら、「何が大変なのか話してくれたまえ」と冷静に訊ねる。




「オーサカ支部がっ! オーサカ支部がっ!」




 左手にスマートフォンを持ちながら右手でボタンを留めた。


 オーサカ支部が?


 キャサリン宅の寝室からオーサカ支部は見えない。




「燃えとるんじゃ!」




 来た!


 今日がこの日か!




 眠気が吹っ飛んだ。


 わかっていたら起きていたのに、すっかり寝入ってしまっていた。




「いますぐ来るんだな」




 築山が割り込んで通話は一方的に途切れた。


 おれはキャサリンが丁寧に折り畳んでくれた黒いデニムパンツを穿く。




 いますぐってなんだよ。


 行くに決まってんじゃん。


 職場が炎上しているのに寝てるやつがいるか。




「行ってくる」




 キャサリンは寝てたわ……。


 まあ、起こすのも可哀想だしこのままにしとこう。











 キャサリン宅から徒歩5分。


 オーサカ支部を含む雑居ビルは見事に燃えていた。


 夜中にも関わらず真っ昼間の明るさ。




 あーあ。


 誰のせいだろうなぁ?




「何しとったんじゃ!」




 導が声を裏返しながら吼えた。


 何って、いやまあ、寝てましたけど。


 金曜の夜なんで。




 むしろなんで導が起きてんの。


 これだから身長伸びないんだぞ。




「まあまあ、導くん」




 築山が導の両肩に手を乗せてなだめる。


 それでも導はおれの胸をぽこすかと叩いていた。


 火は高く夜空を焦がすように。




「幸雄くんは責めないけどな」




 導がいて、築山がいて、キャサリンは自宅にいる。


 オーサカ支部のメンバーはおれ含めて5人だから、ひとり足りない。




「気付いたかな?」




 気付いてるよ。


 言われなくとも。




「天平先輩はどちらに?」




 今朝はハーフサイドアップな髪型をしていて。


 上半身には虎柄のタンクトップに白いカーディガン。


 レザー素材のタイトスカート。


 それにナースシューズを合わせていた。


 


「ねえさんはオーサカ支部の中なんじゃ!」




 涙をこらえながら。


 おれのワイシャツを握りしめながら。


 導はしぼりだすように言った。




 助けなきゃな?




 このおれが。


 おれにしかできないことをやってのけるしかない。




「オーケー、きみたちはここで待っていてくれたまえ」




 タイマーを60秒にセット。


 救急隊員よりも速く。


 チロリンアンハットを放り投げ、起動した。




「スタート」




 だっる。


 このルーティン、さっさと省略したい。




 2階に続く階段に向かって走り、燃え盛る火の壁を乗り越えた。


 火の勢いとは裏腹に瓦礫は少なく、ダッシュで駆け上がることができる。




 左手で勢いよく扉を開けると、黒煙がぶわっと溢れ出した。


 銀色の髪が灰で鈍色に変わってしまうかも。


 やめてほしい。




「うっ!」




 目がつぶされそうになる。


 なんとか煙を払ってやり過ごしながら進んでいく。


 だいたいの机の配置は覚えている。


 覚えているがここで転けたらカッコがつかない。




 足で探りながら進み、右足で窓の端を蹴りつけると窓ガラスがすぐに割れた。


 これで煙はゆっくりと外に逃げてくれるだろう。




(いた!)




 天平先輩は導の机の近くで、背中を丸めて倒れ込んでいる。


 煙を払い除けて、「天平先輩!」と身体を揺さぶった。


 手首を掴んで確認すると、脈がある。


 大丈夫だ。


 生きている。




「ん……あれ……? さっちゃん……?」




 仰向けに寝かせて、膝の上に頭を乗せると、ぼくの存在に気付いてくれた。


 その両腕で目玉の飛び出たクマのぬいぐるみを抱きしめている。


 導の持ち物だ。




「あたしはただ、こいつを助けようとしとったんやけど、倒れてたか……」




 こいつ。


 この目玉の飛び出たクマのぬいぐるみ。


 天平先輩はすっかり真っ黒になった手でぬいぐるみの頭をなでる。


 こんなもののために。


 こんなもののために、天平先輩は火の中へ飛び込んだと?


 こんなものが燃え尽きてしまっても、代わりはいくらだってある。


 天平先輩の代わりはいない。




「さっちゃんはあたしを助けに来てくれへんと思っとった」




 そんなに信用ない?


 おっかしいな……。




 おれはここで天平先輩を助け出せるのがおれしかいないから助けに来た。


 ここで死なれたらめちゃくちゃ困るし。


 一歩遅くて亡くなってたら“正しい歴史”が変わってしまうところだった。


 生存ルートが正しいんだもん。




「ありがと、さっちゃん」








【しゅうまつにひびくさいれんと】



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