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虚構の世界に介入して登場人物を全員幸せにするまでの物語、パーフェクト・バージョン!  作者: 秋乃晃
13回目の偽アカシックレコードの世界=虚構の世界編
66/100

Re:「君の手をとる」


 オーサカ支部におれが着任してから今日で1週間経つ。


 サルの事件を解決してから、導は何かとおれに絡んでくるようになった。


 どうやらおれの能力に興味津々らしい。


 まだ本来の力を出し切れていないのにこんなに評価が上がるなんて。




 サルの救出をやってよかった。


 宿題は教えないけど。




 弟ができたみたいで嬉しい。




 スマートフォンに登録されている連絡先を確認しても兄の那由他の名前が見当たらなかったので、この世界の篠原幸雄には兄弟がいないっぽい。


 兄からは殴られた思い出しかないからいなくていいんだけどさ。


 実の兄弟でもないし。


 気にかけるような存在ではない。


 八人兄弟の末っ子の導が兄や姉の話をしてくるから、つい。




「ささはら! 今日はオーサカ駅前のケーキ屋で天使のシュークリームが販売されるんじゃ!」




 導が目を輝かせながらスマートフォンの画面を見せてくる。


 天使のシュークリーム。


 一ヶ月に一回。


 限定100個。


 午後3時から発売開始。




「シュークリーム?」




 わー!


 美味しそー!




「さっちゃんは知らへんの? ここ、めっちゃ有名やで」




 天平先輩が会話に割り込んできた。


 自席から離れてぼくの席まで歩み寄る。


 今日のファッションポイントは虎柄のスカーフだろうか。


 髪は側面で編み込みにしており、なかなか様になっていた。


 導のスマートフォンをひったくって操作する。




「キャシーとオーサカ市内巡りしたんやろ?」




 ふたたび見せられた画面には見覚えのあるケーキ屋の外観が。


 そうだそうだ。


 思い出したぞ。


 カフェが併設されていて、おれとしては寄りたかったのにキャサリンが「もう食べられないよぉ」と言うので断念した店だ。




「ささはらに買ってきてほしいんじゃ!」




 えー?


 この店のシュークリームを?


 男1人で行くの?




「シュークリームか、ええな」




 築山は週刊誌を読むのが趣味で、机の上に何十冊と積み重なっている。


 出勤前に自宅近所のコンビニエンスストアでまとめ買いするのだと。


 その1冊を携えておれの机までイスを転がしながらやってきた。




「オーサカ洋菓子ランキング第2位やねんな」




 とある雑誌のスイーツ特集のページを開いて見せつけてくる。


 おなじ店のおなじシュークリームの写真がジュエリーのように紹介されていた。


 昨日は天平先輩と「ダイエットせな」「せやな。病気したら人間つらいやん」などと会話していたくせに。




 やめとけって。


 糖尿病エンドあるぞこれ。




「買うてくれへん?」




 天平先輩がおれの目を覗き込んでくる。


 ずるい。


 そんなふうにお願いされたら男としては買いに行かなきゃじゃん?




 腕時計を確認すれば時刻は正午まであと3分。




「午後3時販売開始ではなかったか?」




 最初に導がスマートフォンの画面を見せてきたとき。


 そのように書いてあった。


 記事にもおなじように午後3時からと書かれている。


 まだ3時間もある。




「せやで。いまから並べば5個! 確実に買えるんや!」




 ガッツポーズをする天平先輩。


 築山支部長もガッツポーズをしてうなずいている。


 並ぶ?


 こんな一個200円のアイテムを購入するのに?


 いまから並ぶ?




「わしの家族分も買ってきてほしいんじゃが……!」




 導はカバンからぬいぐるみを取り出しながら拝んできた。


 例の目玉の飛び出たクマだ。


 その口から紙幣を取り出そうとしている。


 財布なのか。




「導の、家族分?」


「じゅっこじゃ!」




 あと、導じゃのうて鎧戸先輩じゃ!


 と付け加える導だがそんなことはどうでもいい。


 ああ、八人兄弟プラスご両親のぶん?




 おれは合計何個買えばいいの?




 ねえ。


 誰か数えてよ。




「篠原くん。よろしく頼むな」




 築山がぼくの肩をぽんと叩く。


 顔を見ればにっこりと微笑まれた。

















(ほぼほぼ女性しか並んでないじゃん)




 オーサカ支部からオーサカ駅へ歩き、反対側へ着いた頃にはすでに行列ができていた。


 列の大半が女性で、しかも何人かでグループを形成して並んでいる。




 これってもしかしておひとりさま何個限りとかある?


 だとしたらおれひとりだとまずくない?


 全員ぶん買える?




 おれは慌ててスマートフォンを取り出す。


 キャサリンを呼び出そう。


 もう起きてるだろうし。




 この世界の篠原幸雄がそうであったように、おれもキャサリンと共同生活をしている。


 向こうはおれのことを“ダーリン”と呼んで慕ってくれているし。


 おれも美女と暮らせて一石二鳥。




 ぼくも女に全く興味がないわけじゃなかったんじゃん。


 とちょっとだけ安心はしたけど、冷静に考えるとキャサリンを“女性”の枠に入れていいのか微妙だなあ。




「ダーリン、おはよぉ」




 眠たそうな声で電話に出るキャサリン。


 時刻を確認する。


 13時半。




 共同生活を始めてから、オーサカ支部初日におれをオーサカ駅に迎えに来られなかった理由が判明した。


 朝にべらぼうに弱い。


 寝起きからまともに動けるようになるまで最低一時間はかかってしまう。


 起こさなければ午後まで眠り続ける。


 本人曰く低血圧らしい。


 午後2時の到着に間に合わなかったわけだ。




「キャサリン、いまからオーサカ駅のケーキ屋まできたまえ」




 あと1時間半も1人で待つのつらいし。


 ポスターよく見たらやっぱり購入個数に制限ついてた。


 キャサリンにも来てもらわないと頼まれたぶん買えない。




「オーサカ駅ぃ……?」




 相変わらずの野太い声で返答される。


 目を覚ましてくれ。


 おれは困っているんだよ。




「オーサカ市内を巡ったときに入ろうとしたあのケーキ屋だ。仕事でシュークリームを購入しなければならないが、おれ1人では至難の業だから助けてほしい」




 おれの“助けて”のワードが心に響いたようで「おっけぇおっけぇ! すぐ行くねぇ!」と一方的に電話を切られてしまった。


 すぐとはどれぐらいになるだろう?




 そういえば、カバンやバッグに目玉の飛び出たクマのぬいぐるみをつけた若者をよく見かける。


 列に並んでいる女性たちも持っている。


 流行りものなのだろうが、どうもかわいげがない。


 おれの感覚が世間とずれているのか。


 あんなものに囲まれていたら夢にでも出てきそうだけど。


 導にどんなキャラなのか聞いてみよう。




「だぁーりーん!」




 来た。


 想定よりも速い。


 おれ以外の何人もがキャサリンのほうを目をまん丸くして見ている。


 声のせいだろう。


 見た目とのギャップで二度驚く。




「急いで来てくれたのか」




 ほどよくカールした金髪。


 分厚い唇とはっきりとした目鼻立ち。


 胸はあるがお尻は小さい。


 絵に描いたような八頭身美女のキャサリン。


 赤いハイヒールをかつかつと言わせながら「もっちろん!」と答えてくれた。




「ダーリンのためなら、たとえ火の中水の中だよぉ」








【恋がみみずばれ】



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