夕照
観世様と別れ、少し修行をしていた。
ーー第一燼・燦火
「煌閃!」
ズバァァン!
「うおー、すごいな、これ。あれ?全然竹が倒れてない。おかしいな。」
そう言って、斬撃が飛んでいった方向の竹を押してみる。
ズッ、ズシャン。
「なっ、ええ?」
隣の竹も押してみる。
ズッ、ズシャン。
「おお、一応切れてる。にしてもこれはおかしいだろ。」
自分が切ったと思った竹は全て「押したらずれる」現象が起こった。
「もしかして、切れ味が良すぎた、とか?」
燦火の影響か?
「なんだこれ、観世様、合ってます?これ。」
ガサッ
「…誰だ。」
油断していた。気配に気が付かなかった。
「アレ、バレたか。」
「出てこい。」
出て来たのは、強面の武士。
短髪、顔は傷だらけ。
失われた右目、左手が歴戦を物語っている。
「いやあ、バレるつもりはなかったんだが。しかしアンタ、強そうだな。楽しめそうだよ。」
「言っておくが、無闇に戦いたくはない。修行中だ、邪魔しないでくれ。」
「そんなこと言うなよ。楽しもうではないか。」
なんなんだ、こいつは。
飄々としてるように見えて、隙がない。
「死んでもいいなら、戦ってもいい。」
「すごい自信だなあ。その言葉、そのままお返ししよう。」
両者の間に火花が散る。
初めに男が言う。
「…来い。」
ーーーーバシュッ
★★★
義崇は刀を振り抜いた状態で静止していた。
対して男は、刀を抜き、防御姿勢でいた。
「ほんとに速いな、アンタ。」
「何、まだ本気じゃないさ。」
ぎこちない会話が続く。
(初撃を防ぐ、と。ほんとに何者だ?)
「…行くぞ。」
すると男は不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、待ってるぞ。」
ーー第一燼・燦火。
ドシュッ!
ギィン!
「お前、目ェ良すぎるだろ。」
「アンタ、まだ本気で来ないか。」
戦闘狂同士の会話。傍から見てまともでは無い。
そこに在るのは、純粋な闘志。
「わかったよ。ただ、たった一撃で死ぬんじゃ無いぞ。」
ーー神閃居合、壱ノ業
「…暁閃!」
バシュッ
抜刀音、空気を切る音。
ズバァンーー
「クハァ、ハッハッ。ガハァッ!」
ーーキン
「防御されることを期待していたのだが、な。」
「あゝ、今のは良かった。クフッ、カフゥ」
男は、笑いながら血を吐く。
「ところで、名をなんと言う?」
「…成謎正儺深。アンタは、」
「戦国最強。」
「なるほどな、道理で強いわけだ。北堂義崇殿。」
「有名になった者だな、俺も。もう、戦いはおわりか?」
またも笑う。戦う体力は誰が見ても歴然、残っているようには見えない。
「そう見えるか?そんなわけなかろう。腕試しは大事だからな。ハハッ」
カチャ
刀を構え直す。
「芍火一刀流、白界。」
キン
「…!」
刀音は全く聞こえなかった。
そして見えなかった。
実際、目の前に正儺深は居らず、
背後にて、刀を収めていた。
「クッ、お前、何者だ?」
「通りすがりの、どこにでもいる剣士さ。」
「お前みたいなのがどこにでもいたら、とんでも無いな。カフゥ」
血痰を吐く。
腹を触ると、血がべったりと付いた。
口から血が溢れる。
口端から血が垂れる。
そして正儺深は言う。
「儂と、アンタでは、住んでる速さが違うんだよ。」
因みに、壱ノ技はイチノギ、壱ノ業はイチノワザと読みます。