⑨類は友を呼ぶ?
「あいつはどうしているんだ?」
ベアルの言葉にステアは一瞬首を傾げかけて、にっこりと笑った。
「もう、あいつって…。あの子のことね。相変わらず、じゃないかしら」
それを聞いてベアルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「相変わらずって、あいつは家のことも手伝わずにほっつき歩きやがって!大体あいつが今日だってここにいれば宿代だって踏み倒されずにすんでんのに…」
ベアルはブツブツと不満を漏らした。
「おじちゃん、開けてー」
ドンドンとドアを叩く音がして、ベアルは壮大なため息をついた。
「またか…プロートがドアを叩いているってことは…あいつはまったく…」
ベアルがドアを開けると、ベアルよりもさらに大きな青年が人を担いで立っていた。
「いつも悪いな」
そう言って、ベアルは担がれた人を受け取り、その顔に水をかけた。
「んんん?」
水を掛けられた彼女は目を覚まして辺りを見渡した。
そして、ベアルと目があうと、わざとらしく肩をすくめた。
「あ、ごめん」
「ごめん、じゃないだろ」
そう言ってげんこつを落とそうとしたベアルの右手を彼女はヒラリとかわした。
「あ、プロート、いつもありがとう」
彼女は担いで連れてきてくれたプロートににっこり笑ってお礼を言った。
「いや、いいけどさぁ。ガーディア、泥まみれだよ」
「ありゃ!」
ガーディアと呼ばれた彼女はそう言われて我が身を確認して驚きの声を上げた。
「ごめんねー。私のせいでプロートも泥まみれだね」
「別にいいよ」
ベアルは2人のやりとりを呆れながら聞いていた。
「ガーディア、いい加減にしないか。大体今日は何をしていたんだ?」
「たしか…」
ガーディアは、頭に手をやって考え込んだ。
「ちょっとぶらぶらと散歩して…なんか絡まれたから相手して…で、ここどこだ?って考えているうちに…寝てた?」
「うん、今日は大分町外れの方まで行ってたよ。でっかい樹の下に誰か寝てるなぁ、と思って近づいたら君だったよ。今日も僕がたまたま通りかかったからいいけど…」
ガーディアの言葉を捕捉するようにプロートが言った。
「ありがと」
ガーディアはそんなプロートにそう言って微笑んだ。
「おい、ガーディア、そんなに暇で、この宿屋を手伝う気もないなら、この雨降らしのお嬢ちゃんとナヨっちい兄ちゃんと一緒に旅に出て来い」
雨降らしって…レイナは呆然としながら呟いた。隣りではナヨっちいと言われたサニーが頬を膨らませていた。
突然のベアルの言葉にガーディアはポカン、と口を開けていた。
「何?どういうこと?」
「どうせ、お前はヒマしてんだろ。腕はたってもすぐ行方不明になって一年でクビになるようなお前を雇おうという奇特なとこはみつからんだろ。家の手伝いもせんでフラフラするくらいなら、少しは人の役に立っておけ」
そう言って、ベアルはガーディアにレイナとサニーを紹介した。
「2人で旅を始めたらしいが危なっかしくってしょうがない。だから、この2人にお前もついていけ」
ガーディアは、レイナとサニーを見て、笑みを浮かべた。
「いいよー。あ、私一年で仕事をクビになっているような奴だけど」
「大丈夫です。俺は半年でクビ」
「…私は…半年で退学です…」
ベアルは口をあんぐりと開けていた。
「あの…僕もついて行った方が…」
話を聞いていたプロートが不安な表情でそう言ったが、「プロートは仕事があるだろ。せめて君くらいはしっかり働きなさい」とベアルに一蹴された。
「はい…」
なぜかシュンとなってプロートは体に似合わず小さな声で返事した。
「で、レイナちゃんとサニーさん?2人は私がついてきてもいいの?」
「もちろん。旅は2人より3人が楽しいでしょ。それにやっぱり腕っ節の弱い…俺とレイナちゃんじゃあ、不安もあるから心強いです」
ガーディアの言葉にサニーは嬉しそうにそう答え、その隣りでレイナはコクンと頷いた。