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最終話、『二人メシ』

 ……彼女の笑顔をオカズに食べる料理は、いつもより美味しく感じた。


 そんな自分を自覚し始めた頃から、聞こうと思っていたことがある。

「――白さんはさ、なんであの時ボクに声をかけたの?」

「ん? ぐ、ん、……」

 モグモグモグ。

 ――……食べることを選んじゃったよ、この娘!

 食事中なので、返事よりも食べ続けることの方を選択されちゃいました。

 デザートを食べてる最中に話しかけたボクも悪いけど、誰かに注意されるわけでもないんだから大丈夫だと思うけど……そんな考え方は堕落を招くのでしょう。反省。

 ――……ボクも、食べてから話すかな。

 ヤレヤレと溜息をつきつつ、ゲットしてきたクレープをパクリ。……うん。ンマーイ!

 ここのクレープは『焼いてある生地』に自分好みの具をのせて作る形式タイプ

 ス○ミナのように自分で生地を焼くって楽しみはないが、失敗する危険もない。

 ――……失敗の危険を排除することが創作の楽しみを奪う……一長一短。世の中、上手くいかないものだよね……。

 でも、生地を焼く楽しみはなくても、具を選ぶ楽しみはあるのです。

 とりあえずクレープ一発目はバナナとチョコレートにホイップクリーム……ちなみにバナナとチョコはチョコレートタワーからゲット。

 チョコレートタワーでバナナにチョコをつけていたら『このチョコバナナをそのままクレープ生地に包めばいいんじゃね?』的な閃きが降ってきたのさ。思いついたらやる! とりあえずやって、失敗したら後から悔やむ! 後悔ってのは後から悔やむと書くのですよ!

 その上にホイップクリームをかけたのは『さらに一味! たとえ蛇足と言われても、もう一味!!』って想いを抑えきれなかったからであります。

 けっこうその一味は失敗する可能性高いけど……スタ○ナで焼きたてクレープにフルーツ包んで、最後に一味気分でアイスを包んだら熱で溶けてグチャグチャになったとか……。でも、いま考えると冷ましてからやればOKだったとも思えるので、次回試してみようと思います。なんかいまから楽しみになってきた――ッ!

「……○タミナの話?」

「――――ッ!?」

 心を読まれた!?

 ――……な、何故、ボクがスタミ○の事を考えてるのが解ったのでござろうか?

 以心伝心!? いや、いつの間にそこまで心が通じ合ってたの!?

 心当たりはないけれど、なんかトキメキそう……鎮まれ、ボクの心! クールになれ!

「あの時、声をかけた理由が知りたいってことよね」

「んぐ、んぐ」

 ――……そっちの話!?

 頷きながら前方確認――さっきまで彼女が食べてたデザートは綺麗サッパリ消失済。

 どうやらボクがクレープ食べながら考え事してる間に完食した様子。食べ終わったから先ほどスルーした質問に答えることにした、って起こるべくして起こった天然時間差口撃か!?

「アナタには才能があるから、よ」

「言葉にはしにくい?」

 あの時を思い出しながら言葉を紡ぐ。


『アナタには才能があるわ!』

『えっと……なんの才能?』

『言葉では説明しにくい才能よ』

『どういう意味!?』

『だから、これからは私と二人でゴハンを食べなさい』

『初対面の女の子に遠まわしなプロポーズされた! なに、この展開!? スゲェ!!』


 ――……何もかもみな懐かしい。

 思えば遠くにきたもんだ…………思わず涙がポロリと落ちそうですよ。

「――別に言葉にして説明することもできたわよ」

「できたのッ!?」

 なんか思い出ブレーカーな事言ってくれちゃいましたよ、この娘!

 白さんはシレッとした顔でジュースを一口――あの色は葡萄酢ドリンク。そしてボクの手元にあるのはパイン酢ドリンク。このホテルバイキングで生まれて初めて見た飲み物だけど、飲んでみたら美味しかったのです。飲みまくりです。微妙な酸味がGOOD!

「聞きたい?」

「……聞いていいの?」

「友達、だからね」

「ぜひ聞きたいデス!」

 これは……おそらく好感度アップにより発生した攻略必須イベント!

 戦友から友達にランクアップ(?)した事により、彼女の心に覆いかぶさってた蓋が外れたと言う事に違いない! なら、ここで進まないなんて選択肢はありえない!!

 白さんはボクの輝くような瞳を眩しそうに……訂正、意気込むボクに気圧されながら、ちょっと躊躇う素振りを見せつつ――


「……私はね、アナタとなら一緒にゴハンを食べられると思ったのよ」


 消えそうな声で言う。

 とても恥ずかしそうに、顔を真っ赤にして。

 正直、その仕草にトキめいて困るのですが、今はマジメな状況――笑いに逃げず、真正面から立ち向かう時! ツッコんで聞いたらいろいろ壊れそうだけど、逃げちゃダメだ。

 ……でも、逃げたくなるほど彼女の言葉は哀しい。

 彼女の言った『ボクとなら食べられる』っていうのは裏を返せば――

「ボク以外とはダメだった、ってコトだよね?」

「そうよ」

「そんなに辛いの?」

「……アナタの言葉を借りるなら『逆流』するぐらい、ね」

 深刻だ。

 人と一緒にご飯を食べる事を、そこまで忌避する人を初めて見た。

 ――……中学の給食とかどうしてたんだろう?

「残しまくって、周囲からは小食だと思われてたわ。お腹が空いたら個室で菓子パン食べたりしてたわね……いまではバカな笑い話よ」

 ――……学校で生徒が利用できる個室って……やっぱトイレだよね? 深刻すぎるよ……。

「深刻なのよ」

 ……あれ?

「――ボク、声に出してた?」

「ええ。あと、ついでに……」

 彼女の視線の先には――彼女の両手首をがっちり掴んでホールドしているボクの両手。

「あ、ゴメン」

「謝りつつも離そうとしないあたり強引よね、アナタ」

 自転車の時もそうだったけど、と呟く白さん。

 ボクも確かに強引だけど、白さんも本気で振り払おうとしない……だから『こんなボクを彼女は受け入れてくれている』と自惚れたくなってしまう。正直、素直に自惚れたいけれど、理由がわからないまま自惚れるほど、ボクはお気楽ではない。自惚れたいけど。

「……なんで、ボクだったの」

「……私ね、本気で困ってたの」

 彼女は静かに、注意しなければ聴き取れないようなか細い声で語る。


 幸せそうに食卓を囲んでいた家族が幻想だったという話を。

 誰もいない食卓で、コンビニ弁当を食べていたという話を。

 祖父母と一緒にゴハンを食べてる最中に吐いたという話を。

 学校で給食を食べてる最中、何度も吐きかけたという話を。


 ――……許せない、な。

 食べ物を粗末にするという行為は、ボクにとって最大級の罪だ。

 ゴハンを楽しく食べるというボクのポリシーと対極にある行為だから。

 ……だから、できることなら、彼女をそんなに追い込んだ両親とやらに人誅をくれてやりたいと思う。でも、勝手にヤってもそれはボクの自己満足にしかならない。彼女がソレを望むなら喜んでやるのだが………………………………いっそのことビシッと命令してくれないかな?

「……一人で食べるぶんには問題なかったから、栄養摂取的な問題にはならなかったのが不幸中の幸いかしらね」

「不幸中の幸いっていうのは、結局のところ不幸だってコトだよ」

「……まあ、そうね」

 白さんが作り笑いで同意する。

 ――……失敗したッ! 完全に余計な一言だったよ、いまの!

 不幸な人に『お前って不幸だな』って言うぐらい酷いことはない。

 昔、ウカツにも会長の妹を不幸な娘扱いして、会長に半殺しにされたって言うのに……全然成長してないぞ、草壁太陽ッ! 残念すぎてガッカリだよ!!

「でも、そんな時にね……変質者に出逢ったの」

「…………」

 まず自分の耳の異常を疑い、次に自分の精神の異常を疑い、最後に彼女の言葉を疑う。

 彼女はいままでとは違う、どこか嬉しそうな微笑みを浮かべていて……なんか続きを聞くのが怖い雰囲気………………や、やっぱり、お、襲われたとか、そんなドキドキ展開かな?

「その人は、雨の中、傘もささずに『電柱の上』に立っていたわ」

「感電しますよ!?」

「それで、私の姿を見るなり『愛、覚えてますか?』とか言い出してね」

「それ、精神的にヤバくなって見えたヤバイモノじゃないの!?」

「愛とか解らないって答えたら、『好きとか嫌いとか言い出したのは誰なのかしら♪』って歌いながらUSBメモリーを放り投げてきて……『愛とか奇跡とかバカにしちゃダメ♪』って歌いつつ、微笑みながら『世の中は全部ラブコメでいい』って言い残して去っていったの」

「……な、なんか、最後のセリフにすっごく心当たりが……」

「そのデータの中に、アナタの経歴とかが全部入ってたのよね……この世のものとは思えない凄まじいイケメンだったから、半分夢かと思ってたら学校で発見してビックリだったわ」

「それボクの友達、と言いたいトコだけど……傷心の女性の心の隙間に男をあてがうような行為をしたヤツと友達だといったら白さんに嫌われそうな気がするから友達だって認めたくないような、それでいてナイスアシストと褒めてやりたいような、そう思いつつも、ボクはヤツの手のひらの上で踊りまくりな恐怖感で恐ろしいような悪夢な気分です」

 すべてがあのラブコメマスターの手のひらの上かと思うとマヂで怖い。

 個人情報かってに流されてたって事実も怖い……………………………………って、あれ?

「じゃあ、『クラスメートだもの。コレぐらいの情報収集するわよ。学校は世界の縮図。そして世界は情報を握ったものが勝つんだから!』ってのは嘘だったんだ……いや、あの出会いそのものも偶然じゃ、なかった……ってこと?」

「あそこで出逢ったのは完全に偶然だし……そもそも、私は『ラブコメの人』から貰った情報なんて嘘っぱちだと思ってたわよ」

 ……『ラブコメの人』って、ヤツのコトですよね。

 少女漫画の相手役みたいな呼び方だな~、と現実逃避気味に笑ってやりましょう。

「そもそも、忍者の家系とか、私にピッタリあったラブコメ相手とか、一人バイキングが大好きな自称・楽食家とか……そんなマンガみたい存在、信じるほうがどうかしてるわ」

 ごもっともデス。

 そう言われると、こちらも反論のしようがございません。

 でも――


「だからこそ、偶然出会った時は驚いたわね。データ通り、一人バイキングしてたし」


 百聞は一見にしかず、なのである。

 クラスメートゆえ、生きて存在するって事は知っていただろう――その上で、そのデータが正しいという裏付けが一つでもとれれば、全体の信憑性は増す。

「最初はそれでも疑ったのよ。私の行動パターンとか全部調べて先回りさせた大掛かりなビックリじゃないかとか……」

 それはきっと、今ボクが味わっているような感覚だろう。

 ヘタをしたら現実を信じられなくなりそうな最悪な気分で、人間不信一歩手前デスよ。

「だけど、演技であんな幸せそうにご飯を食べる事はできないって知ってるから……呼び止めて誘ったの。私のリハビリ相手として。私が、一人じゃなくて、誰かと一緒に生きるために」

 ……たかがご飯を食べるぐらいで『生きるため』とか、大げさだって思うだろうか?

 ボクは思わない――だって、一生、一人でご飯を食べ続けるなんて不可能だから。

 学生だったら友達と一緒に食べるだろう。

 たぶん社会に出たら、同僚とか上司と一緒に食べる事からは逃げられない。

 好きな人ができたら、家族になったら、家族が増えたら……一人で食べるとか夢物語だ。

 ――……ああ、そうだ。ボクも同じだったよ。

 家族から『毒』なんて盛られたら、人と一緒に食べたいなんて思えないさ。

 吐くほど酷くないけど、誰かと一緒に食べるって事が怖くて味なんてわからなかった。

 なのに、あのバカどもは……強引に誘ってくるというか、嫌だって言っても一緒にゴハン食べようとしてきて、逃げようとしたら半ば力尽くで拘束して、拷問まがいなランチをしてくれやがってさ……あの手この手で攻めてきて、おかげであの二人となら一緒に食えるようになっちゃったんだよ。

 ――……ボクだって昼休みの度にアイツらと食べてるんじゃなくて、まだアイツら以外と一緒に食べれないだけなんだよね。

 ……なにが『ソーライスしか食わない』だ。

 なにが『母親の料理の腕がジェノサイド』だ。

 全部、ボクのためのクセに。ボクが普通にみんなとゴハン食えるようにするためのクセに。

 みんなで美味しく食べれる鍋とか焼肉とか……気づかないフリするのも大変なんだぞ。

「……アナタも、私と同じで一人で食べる人だったから、二人じゃなくて、一人と一人だったから、アナタと一緒に食べるのは苦痛じゃなかった」

「ボクも、白さんと食べるのは楽しいよ」

 嘘じゃない。

 初めから彼女と一緒に食べるのは苦痛じゃなかったというか、むしろ楽しかった。

 思いっきり『干渉しないでくれ』って空気を出しまくっていたから、こちらも同じ事ができて――それが許されるってことが心地良かった。その上で、擦り合わせるように、お互い手探りでツッコミ入れあって……ボク達はコンビの絆を育んできたのである。

「私も楽しいわよ。アナタ、運悪くて嗤えるし、行動力あるけど迂闊者で見てて飽きないし」

「……たとえ本心でも、もうちょっとオブラートに包んでください」

 そういえば白さんの心の底からの笑顔見たのって、イタリアンのあの事件の時か……あの頃から『人の不幸は蜜の味』な雰囲気あったね、この娘。

 ――……もしかして、この娘が好きだっていうボクは自覚のないドMなのか?

 自分ではSだと思ってたけど、看板を返上しなくてはいけないかもしれない。

 ※後で友人から『太陽は最初っからドMだったぞ』と言われて絶望するフラグ(天の声)


「でも、このままアナタ以外と食べれなくなったらどうしようかしら……責任とってくれる」

「やっぱ遠まわしなプロポーズだよね、ソレ」

 そんな、始まりを意識したセリフを言うボクに、白さんは微笑み――


「どうかしら?」


 あの日とは違う、曖昧な答えを返してくる。

 あの時は狼狽えてた娘が、ここまで打ち解けてくれたという事実に、なんか胸がいっぱいになりそうです。ヤベェ、なんか泣きそうです……。

 マヂで零れそうになってる涙を誤魔化すために、食べかけのチョコバナナクレープ(ホイップクリーム付)を再び口に運ぶ……ああ、美味しいなぁ、コンチクショー!

 ――……チョコとバナナは単品でも食べれるけど、チョコバナナは別格ですわ。

 そのチョコバナナをクレープで包むとさらに魅力的なモノにエボリューション。

 バナナが3、チョコが5、クレープの生地は単品ではせいぜい1の戦闘力しか持たないだろう。だが、チョコバナナなら10、チョコバナナクレープなら15の戦闘力が期待できる。

 ※戦闘力の数値は太陽くんの好みにより設定されております(天の声)

 ――……きっと、これと同じなんだよ。

 相性の合う人と一緒なら、美味しく食べることができる。

 一人でバイキングに行く事が恥ずかしいのではなく、友達と一緒に食べたほうが美味しいと思うから人は仲間と一緒に戦場へ向かうのだ。それがきっと真理なのだ、とボクは思う。

「白さん、ボクは……アナタのバナナでありたい」

「……ボクのバナナ的なセクハラかしら?」

「…………白さんはチョコであってほしい」

「…………私をペロペロしたい的なセクハラよね、ソレ?」

 ……うん。時間はまだある。

 これからじっくりと、この欲求不満エロリ娘をボク好みに教育してやりましょう。

 絶対逃さないぞ! 意地でも『そんな恥ずかしい言葉、私言えません』って感じの清楚で貞淑で恥じらいを知る娘に育て上げてやっからな、コンチクショーっ!

 涙が落ちたチョコバナナクレープは、塩分で素材の甘味が引き出されてさらに甘くなりました。とても美味しかったです。



「ありがとうございました」

 数分後、ボク達は従業員さんに見送られながらレストランを後にする。

 ――……なかなか良い店であった。

 なんか、あんな会話したせいかこれで一段落って雰囲気になりそうだケド……全く終わってないのです。むしろ声高らかに宣言しよう――

「ボク達の戦いは始まったばかりだ!」

「……何故突然、第一部完な打ち切りゼリフを言い出してるの?」

「……聞きたい?」

「まあ、『友達』が突然変な事を言い出したら、気にしてあげるのが人の道でしょうからね」

「……ホントのホントに聞きたい?」

「変な引きはいらないから、早く言いなさい! 命令よ!!」

「イエス・マスターっ!」

 反射で返事をしつつ、彼女の腕を取り――手を繋いだまま外に出る。

 途端に眩しさに瞳を焼かれ、肌にまとわりつくような熱気に襲われ、最高にギラギラした熱線に素肌を照り焼きにされ……無言で∪ターン。

 冷房が入って涼しいロビーの椅子に座って、何事もなかったかのように休憩タイム突入。

「異論は?」

「……私達の戦いは始まったばかりだわ」


 ここから再び自転車三十五キロの旅が始まる。

 お腹いっぱいの身体で自転車をこいで、あの下り坂を今度は登るんだよ。

 …………出発前から挫けたくなるよ、ホント。


 あまりにも絶望的だったので、次回はこんな事にならないような手段を考えると――とても簡単に答えが浮かんできた。それがとても当たり前な解決方法だったから、よく考えもせず告げる――


「また、二人でこようよ……今度は泊まりで」

「……うん」


 顔を赤らめながら承諾してくれる白さん。

 自分の言った言葉の意味に気づいたのは、その日の就寝前。



 ……身体はヘトヘトだったのに、ドキドキしまくって寝られなかった十五の夏の夜。

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