第56話 寝物語
「先ずは……そうだな。ヘイザと出会ったのは五年前、俺たちデイリー・ペースが旗揚げした後のことだ」
焚き木で食後のおやつのマシュマロを焼きながら、マイケルが話し始めた。
なおこのマシュマロを出したペネロペは「さっさと寝た人の分はありません」と良い顔で言っていた。
「デイリー・ペース結成までのことを話すと、まず私とマイケルくんが同郷出身なのよ」
「へぇ、幼馴染ってやつですか?」
「いや幼馴染っていうには、ミラさんとは年齢が二回りは違うよ」
「一回り! ぎりぎり一回りよ! まだ30代だし!」
どうしてヘイザ含めたデイリー・ペースの人間たちがミラのことだけ”さん”付けで呼ぶのかジャック達は悟った。答えはなんともシンプルだった。ただ少しばかり表現するのに躊躇われるだけで。
「と、ともかく村長の次男坊だった俺は、剣の才能も魔法の才能もそこそこあったから、行き遅れて親族から白い目で見られていたミラさんと一緒に、冒険者になって伸し上がるため、ミラさんは冒険者の旦那を見つけるため、アダムズ市に出てきたんだよ!」
「丁度、ハルノ・クリアスカバードと七雄の英雄譚が集大成を迎えた頃だったからね。憧れもあったのかもしれないわ」
英雄ハルノと七雄への憧れ。それは近年冒険者になる者で最もポピュラーな動機の一つである。その人気は凄まじく本来は敵である帝国人の中にすらファンが大勢いるほどだ。如何に嫡男ではなかったとはいえ、本国の貴族でありながら冒険者になったヴァルゴ・ハルファスなどはその代表例の一つである。
「ちなみに俺の好きな七雄は今天狼ロクサーヌだな! 一度見たが、大きな人だった。あ、人間性がね? 決してやましい気持ちとかじゃなくて」
ペネロペに怒りのまなざしを向けられたマイケルが慌てて弁解していた。
ちなみにメイドでありながら方天画戟を武器に戦場で暴れまわるロクサーヌは、途轍もない巨乳であったと伝えられている。グランドール家の屋敷でロクサーヌの肖像画を見たことのあるジャックはしきりに同意するように頷いていた。
「そしてアダムズ市の冒険者ギルドで、同じ日に冒険者登録をしにきたマイケルたちとペネロペとぱったり出会って」
「同じ日の同じ時間の同じギルドで冒険者登録をしたことに運命的なものがあるって感じて、パーティーを組むことにしたんです」
「素敵な話ですねぇ」
冒険者という職業にずっと憧れのあったキクコには、四人がパーティーを組む経緯にエモーショナルなものを感じた。
だがマイケルは「いやいや」と首を横に振った。
「どっこい。素敵なおとぎ話はそれでおしまいさ。俺たちは早速、冒険者の現実を思い知ることになったんだ」
「冒険者の、現実?」
「最初は上手くいってたんだ。剣術も魔法もそれなり以上にこなせて、指揮も上手いマイケルを中心に、まず数回お使いクエストをこなして九級になって、そこそこの魔物退治をこなして、直ぐに八級に昇格した」
「好調じゃないですか?」
「ええ、ジャックさんの言う通りそこまでは良かったんです。でもそこで行き詰ってしまったんです」
ペネロペは昔のことを思い出したのか、苦い表情で言った。同じように苦い顔でマイケルが続ける。
「ステップアップするために、ちょっと身の丈以上のクエストに手を出すと、失敗に次ぐ失敗。正直、全員無事で一人も欠けてないのが奇跡だったよ」
「クエストに失敗すれば当然報酬はゼロ。だけど使ったポーションは戻ってこないし、消耗した武器や防具だってそう。クエストを受注する度に赤字が増えていくわ、資金不足のせいで装備も満足に整えられなくなったわ、そのせいで九級相当の依頼にすら失敗するようになるわで、もう散々だったわ」
一度負のスパイラルに巻き込まれると、そこから延々に抜け出せずに、脱出しようと藻掻くたびに逆にドツボにはまる。ミラが語るのは新米冒険者が破滅する王道パターンの一つだった。
「そんな時だったよ。ヘイザと出会ったのは」
だがデイリー・ペースはそうはならなかった。
ヘイザ・アッシュブレードという男と巡り合ったからである。
もし宜しければブックマークと、下の☆☆☆☆☆から評価を入れて頂けると大変励みになります!




