第54話 再会する者たち
渋るヘイザを説得してまで受けた、ルサルカ曰くヘイザ・アッシュブレードの過去を探るための依頼。それはなんだったかというと、
「当キャラバンの責任者のジェブ・ギャレットです! これから街までの輸送の護衛、お任せしますね!」
「は、はい」
ただの隊商の護衛依頼だった。
治安が比較的安定している内地は兎も角、外地には魔物や盗賊が多く自前の護衛を持たないキャラバンは、冒険者に護衛依頼をするのが常である。そのためキャラバン護衛は魔物討伐と同じくらい冒険者の主要な稼ぎの一つだった。
「(なあルサルカ。これのどこがご主人の過去が分かるかもしれない面白い依頼だよ)」
ヒソヒソ声でジャックがクレームをつけると、
「(その理由はもう直ぐ分かるよ)」
そう意味深に答えた。そしてルサルカの言葉通りになる。
キャラバン責任者のジェブがにこやかに口を開いたのだ。
「ところで冒険者様。依頼書の通り当キャラバンは規模が大きいので紅の足音さんの他にもう一組のパーティーを雇っているので紹介します」
「そうそれ! そのもう一組! これが重要なことでござるよ! もう一組のパーティーが優秀であればあるほど、拙者は楽して稼げるでござるからな!」
ヘイザが言った瞬間「げっ!」と露骨にうんざりした声が響く。
ジャックがそちらを見ると、四人の男女がいた。ヘイザをよく知るアダムズ市の冒険者の誰かと思ったのだが、ジャックは彼らにまったく見覚えがなかった。
だがヘイザと彼らが顔なじみであることは、両者のリアクションで察することができた。
「ま、まさかもう一組の冒険者パーティーって!」
「こんな偶然ってありかよ」
「再会してしまったわ。円環の理に導かれて」
僧侶らしい女性は嫌悪、剣士らしい男は純粋な驚き、魔法使いらしい女性は喜んでいるのか意味不明なことを喋っている。そして最初に「げっ」と声をあげたパーティーのリーダーらしき男は、まだ仕事が始まってすらいないのに疲れ切った顔をしていた。
対してヘイザはといえば喜色満面であった。
「やぁやぁやぁ! 誰かと思ったらマイケルではござらんかぁ! 久しぶりでござるな、あはははははははは!」
「畜生! 疲労感からくる幻覚って可能性が消えた! この声を聴き間違えるはずがねえ! よりにもよってお前が組む相手かよヘイザ!」
彼らの顔に覚えはないが、マイケルという名前には聞き覚えがあった。
「ハッ! マイケルってもしやヘイさんが前に所属してたパーティーのリーダーのマイケルさんですか! 緋桜さんが話してたのを聞いたことがありますよ!」
キクコが声をあげるとマイケルは「ああ、そうだよ。デイリー・ペースのリーダーのマイケルだ。宜しくな」と挨拶をした。
「緋桜さんって、アッシュブレードさんが通っている娼婦の方ですよね。もしかして――――マイケルくん?」
「誤解だペネロペ! ヘイザの馴染みに手を出すなんて、おっかない真似ができるわけねえだろ! なあジェイク?」
「ああ、師匠は女の事で怒らせると恐いし」
マイケルの弁解にジェイクもしきりに頷いた。
これにはジャックも同意見である。ヘイザはよく娼婦を買ったりナンパしたりしているが、緋桜への態度は格別のものがあった。
「なにやら込み入った事情があるようですが、依頼のほうは大丈夫ですか?」
いきなり雇ったパーティー同士がもめ始めたことに、不安を感じたキャラバンの責任者のジェフが恐る恐る声をかけてきた。そんな彼にヘイザはどんと胸をたたくと自信満々に言い放った。
「もちろんでござるよ! 大船に乗ったつもりでいるといいでござる!」
「そ、そうですか。でしたら安心して――――」
「ってわけでルサルカ、キクコ、ジャック。できることやできないこととか、連携についてマイケルとよく詰めておくでござるよ」
「はあ。そりゃ分かりましたけど、ご主人は?」
「二日酔いが抜けきらんから寝る」
そう言うや否やキャラバンの荷台に乗り込むと、そのままぐーすかといびきをかいて寝始めた。
このヘイザの行動に昔の仲間も今の仲間も「だと思った」と心を一つにする。
「お、おい! 寝ちゃったぞ! この人、本当に三級冒険者なのか!? 十級じゃなくて!」
ヘイザを知らないジェフだけが可哀想なくらいに狼狽していた。
「降格とかしていないなら、本当に間違いなく三級ですよ」
「こんなんでも、いざという時には起きて戦いますから」
「まあいざという時にしか働かないんですけどね。その癖、分け前は毎回毎回きっちり六割」
「そして百回に一回のいざという時じゃ、大活躍するから、文句も言いづらい……」
そんなジェフに経験者であるペネロペ、ミラ、ジェイク、マイケルが、ヘイザを呆れた目で見ながら言った。
「キクコちゃん。緋桜さんはマイケルさんのことなんて言ってたんだ?」
「……ヘイさんに全幅の信頼を置かれてしまうほどご立派な方だそうです」
信頼を置かれてしまうほど、とは実に言いえて妙である。
取り合えずジャックは自分たちの出来る事と出来ないことを素直にマイケルに話すことに決めた。
ヘイザの人を見る目が正しい事を、ジャックはよく知っていた。
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