第43話 鬼ヶ島を落とすのに必要なもの
海の向こうに聳える鬼ヶ島を沖から睥睨しながら、コンラートは一輪の薔薇をまるで手向けるように地に投げた。この行動に特に意味はない。格好いいからである。
「あれが鬼ヶ島か。いざ行かん、薔薇の進軍! いざ――――」
「待つでござるよ、コンラート」
冒険者としての第一歩を踏み出そうとしたコンラートに「待った」がかかった。
コンラートが振り返るとヘイザとその仲間である二人に、見慣れぬ女性が一人いる。
「どうしたんだいヘイザ? 君への依頼はもう終わったはずだし、それにそこのレディは誰だい?」
「彼女はルサルカ。拙者たちの仲間でござったが、別件で仕事が入っていたため、やっと合流したんでござるよ」
「ルサルカだよ。彼氏はいないが、好きな人は沢山だ。宜しくね英雄の卵くん」
ヘイザは息を吸うように嘘の説明をするが、コンラートにはそれを嘘だと判断する術はなかった。
「は、はぁ。それでどうしてここへ?」
「え、えーと……私たち、コンラートさんの鬼ヶ島を討伐するっていう勇気に心を打たれました! だから是非、私たちを討伐の仲間に加えてはもらえませんか! 力になりたいんです!」
義父のルチアーノにお前が死なないよう御守りをしろ、と言われたなんて説明すれば反発することは明らかだったので、キクコが適当にそれっぽい理由を言った。実に自然なヘイザの嘘と比べれば拙いものだったが、こちらもコンラートが気付くことはなかった。
「気持ちはありがたいが、これは僕が一人でこの街の民草から引き受けた話なんだ。僕一人でやらなければ」
「嘗てこの大陸を発見した『始まりの冒険者』は一人で偉業を成し遂げたのではござらん。支えてくれる妻や、仲間たちがいたから前人未踏の偉業を成し遂げたのでござる。お主の義父たるドン・ルチアーノも然り。人と協力することも英雄の条件でござるよ」
英雄の条件というフレーズが特にコンラートの胸に刺さった。本当は一人で鬼ヶ島に挑むことに不安を持っていたコンラートは、ヘイザにそれらしい理由を説明されるとあっさりと折れる。
「そ、それもそうだね。じゃあ手を貸してもらおうかな。では早速、鬼ヶ島へ向けて進軍! 船に乗りたまえ! そして『大陸一』の旗を掲げるんだ!」
「まあ待て。その前に作戦会議でござるよ。ルサルカ、鬼ヶ島はどういう島でござる? 無人島か?」
同行許可をゲットするや否や、ヘイザが直ぐに会話の主導権をコンラートから強引に奪ってルサルカに聞く。ルサルカは残酷に微笑むと、
「人が住んで”いた”よ」
「――――!」
わざと過去形で語った意味を、コンラート以外の全員が悟る。
「ならば早急に島を解放して、人々を助け出さないとならないね!」
「いや島民は女含め全て死んでいるでござろう。鬼はオークと違い、繁殖に異種族の雌を必要とせんからな。それに鬼は魔物を従えることはあっても、人間を従えることはない。鬼にとっての人間は、ただの食い物だ」
能天気な楽観論を言うコンラートに、ヘイザは冷たい口調で言い切る。そしてコンラートが反論する間も与えず先を続ける。
「コンラート。サンダーバード……じゃなくて雉のキジーでござったか? それを貸してくれ。拙者が上空から島の様子を見て、マッピングをしてくる。ルサルカも来い。四属性制覇なら、風のステルスくらいはできるでござろう?」
「その間にコンラートは人が住んでいた時代の鬼ヶ島の地図を買ってきてもらえるかな? 大事な仕事だよ」
「ま、任せておきたまえ!」
ヘイザとルサルカは連携プレイでコンラートをパシリとして追い出しつつ、鬼ヶ島攻略の作戦を詰めていった。
そうして数時間後、コンラートが鬼ヶ島の地図を持って戻って来た。
「これが鬼ヶ島の地図だよ」
「うむ、助かるでござる」
「地形とかは特に変わってないみたいっすね、ご主人」
この石垣は結界の役割もあるはずだ。物理的に石垣を超えようとした場合、なんらかの防犯魔法が作動する恐れがある。そして石垣を超えた事は、直ぐに鬼たちに察知されるような仕掛けになっているだろう。
「上空から見た感じ、壊された家とかはあるけど、地形とかは特に変わっていないね。あと鬼は村長のものだった屋敷に居座ってるようだ」
サンダーバードの上から調べてきた内容をルサルカが教える。
「で、望遠の魔法で見たところ鬼は男女で合計二体。丁度仲睦まじくおっぱじめていたし夫婦だったりするのかな?」
「あ、あのルサルカさん、おっぱじめるっていうのは」
「そりゃセッ――――」
「黙れ」
キクコに余計な事を言おうとするルサルカに、ヘイザは殺気を放って止める。ただしルサルカはヘイザの殺気に怯えて口を噤んだというより、面白がっている様子だったが。
「ようし! それじゃいよいよ攻撃開始だね!」
「待て待て。”英雄”ならば鬼退治の際、真正面から馬鹿正直に挑みはしないものでござるよ。そう、英雄ならばな」
無策で突撃しようとするコンラートを、ヘイザが”英雄”を強調しつつ止める。
「なにか策があるんですかご主人?」
「ちょいと一芝居をな。コンラート、ルチアーノの息子であるお主にも協力してもらうでござるよ」
「な、なにをだい?」
「ちょいと町から縛り首にする予定の囚人を徴用したい。それとジャック、拙者達が町に行っている間に船の旗は白旗に直しておいてくれでござる」
そう言ってヘイザはコンラートをおだてつつ、鬼ヶ島の恐怖に怯えている町へ入っていった。
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