第1話 残念でもないし当然の追放
辺境都市アダムズ市に住む冒険者、ヘイザ・アッシュブレードは、所属している冒険者パーティーのリーダーに呼び出され、酒場にやってきた。
既に待ち合わせ場所には『デイリー・ペース』のリーダーであるマイケル・デイビスを始めヘイザ以外の四人のメンバーがいた。
「おはよう皆の衆! どうした、全員浮かない顔でござるな?」
へらへら笑いながら挨拶するヘイザ。しかし四人の顔は固いままだ。そんな四人をさして気にすることもなく、ヘイザが四人の向かい側の椅子に腰を下ろす。
「で、マイケル。こんな時間に拙者を呼び出して、なんの用でござるか?」
「……前置きをすっ飛ばして、単刀直入に言うとだな」
咳払いするとマイケルは、
「お前はクビだ」
唐突に解雇宣告を告げた。
「なっ! 拙者がクビだと!? 何故でござるか! ずっと一緒に冒険者をやってきた仲間でござらんか! なのにいきなりクビなんて酷いでござるよ!」
「お前の素行が悪いからだよぉ!」
椅子から立ち上がり考え直す事を求めるヘイザに対して、マイケルは泣き出しそうな勢いで叫んだ。
「マイケルよ。確かに拙者は素行は悪かったかもしれぬ。酒癖も女癖もギャンブル癖も総じて悪かった。それは認める。しかし拙者は誰にも負けぬ剣の腕で、このパーティーに貢献してきたではござらんか!」
「……確かにヘイザさんの剣の腕は凄いですよ」
そう同意したのはパーティーの回復役であるペネロペ・フローレスだった。上の階級に昇給する程の実力に加えて、人格も要求される冒険者ギルドにおいて、ヘイザは人格は最低限でありながら純然たる戦闘力のみを評価されて、上から三番目の三級冒険者まで昇りつめた実力者だ。
それはパーティー内の全員が頷くところで、パーティーの前衛を務めるジェイクが口を開く。
「俺を一人前の剣士に育ててくれた師匠もヘイザさんだし」
続けて魔法使いのミラが口を開く。
「私に闘鶏や競馬、お酒を教えてくれたのもヘイさんだったわ」
「いや、それは余計なことだった」
生真面目だった頃のミラを知るマイケルが冷静にツッコミを入れた。
全員が同意したと見るやヘイザが調子良さそうに言う。
「うむうむ、そうでござろうそうでござろう! マイケルよ! 確かに拙者には多くの欠点がある。だがどんな人間にも欠点の一つや二つくらいあるものでござるよ。けれどそんな欠点を補い合ってこそ、真の仲間というものでござらんか?」
キリっとキメ顔で告げるヘイザ。
本人が(顔だけは)男前なせいで、無駄に格好いいのが癪であった。
「一つや二つじゃねえだろ! お前の欠点、軽く1000個はあげられるぞ!」
これまで散々鬱憤を溜めてきたのだろう。マイケルが怒鳴る様に言うと、
「いや俺もお前には本当に感謝してるんだよ! お前のお陰で駆け出し冒険者の俺たちが、三級冒険者パーティーになれたし、この辺境じゃ俺達『デイリー・ペース』の名前だって売れたさ!」
「じゃあ、いいではござらんか」
「よくねぇよ! お前のせいで盗賊一歩手前のならず者集団呼ばわりされてるんだよ!」
酔っぱらって半裸で街中を歩き回るなんて日常茶飯事。山賊を討伐したものの、誰が賞金首だったか忘れたため、荷台に山賊全員の生首を積んで街中を歩かされた事もあるし、美人と見れば誰彼構わずナンパするわ、そういうことがしょっちゅうなのだ。ヘイザが唯一きっちりしている事なんて、娼婦への支払いくらいである。
「百歩……いいえ百万歩譲って普段の素行に目を瞑ったとしても、報酬はいつも分け前は実力順とか言って六割持っていきますし」
「その癖、俺達に酒代奢らせるし」
「闘鶏に勝って倍返しにするって言って、私からお金借りておいて結局返してもらってないじゃないですか!」
「……勝敗は兵家の常、百戦して百勝するというわけにはいかぬだろう」
ヘイザは借りた金でギャンブルして盛大に負けたという情けないエピソードを、無駄に格好よい言い回しで誤魔化そうとした。当然そんな事で誤魔化される筈もない。
「とにかく! 俺たちは俺たちで、もうお前に頼らずやっていくことにしたんだ!」
「ま、待ってくれでござるよマイケル! 考え直すでござる! 分かった六割は貰いすぎていた。そう、五割五分にするでござるから~!」
「五分しか下げねえのかよ……。せめて一割下げて欲しかった」
剣の師匠の醜態っぷりに、溜息をつきながら零した。
「高級店は高いんでござるよぉ!」
「知るかぁ!」
怒鳴り声をあげ過ぎたマイケルは、肩で息をしていた。
ヘイザはこのまま自分の実力アピールをしても考え直させるのは難しいと判断すると、説得の方法を変える。
「それにいきなりクビはちょっと理不尽でござるよ! せめてこういうのクビにする前にワンクッションあるものではござらんか? 警告とかそういうの!」
「私もそう思ってもう一回チャンスをあげるべきだって言ったのよ」
「おお、流石はミラさん! 人徳の持ち主!」
マイケル達より二回り(本人はぎりぎり一回りだと主張)年上のミラに、ヘイザは拝むように称賛する。だが、
「それで今日の話し合いにちゃんと時間通りにきたら、もう一回チャンスをやろうって話になったんだよ! なのに一時間も遅れてきやがって! 馬鹿野郎!」
「ここに来る途中、病気のおばあさんを医者のところへ連れて行ってな。仕方なかったんでござるよ」
激怒するマイケルに、淀みなく答えるヘイザ。
「ならさっきからプンプンしてるお酒の匂いはなんですか?」
「どうせ朝から酒飲んでたんでしょう」
そして当然そんな口から出まかせはジェイクとペネロペがあっさり見抜いてしまった。
「泣きの一回もふいにした以上、もうお前とはパーティーを続けられない! これからは『デイリー・ペース』は俺たちだけでやらせて貰う! これは決定事項だ!」
マイケルはもしもヘイザが遅刻した事を素直に平謝りするなら、泣きの一回を認めるつもりだったが、そんな慈悲の念は下らない言い訳を始めた瞬間に砕け散っていた。
「ま……待つでござる! 拙者の面倒くらいずっと見てくれでござる、仲間でござろうが!」
「真の仲間なら、お前って補助輪なしで、テメエの足だけで立っていこうとする俺たちを応援してくれよ!!」
「拙者たちの友情に免じて、泣きの二回目!」
「ああ、俺たちの友情は永遠だよ。お前も俺たちのことは思い出にして、一人で生きていってくれ。俺たちも頑張るから」
「どうしても、駄目なのか?」
「駄目」
わざとらしい涙目で縋りつくヘイザを、容赦なく振り解く。パーティーで一番優しいミラや、剣術の弟子で一番親しいジェイクも同じ気持ちだった。一番ヘイザの事を疎んでいたペネロペは言うまでもない。
ここにきてヘイザはもはや自分たちの関係が修復不能である事を認めざるを得なかった。しかし切り替えの早いヘイザはあっさりと現実を受け容れると、
「分かった。じゃあせめて退職金をくれでござる! パーティーの共有財産から七割!」
いけしゃあしゃあとそんな要求を突き付けた。
「おい、お前の報酬は全体の六割だっただろうが!」
「退職金だからちょいと色つけてみたでござる」
「そりゃ俺だって手切れ金は渡すつもりだったけど、幾ら何でも――――」
「いえ、マイケルくん。渡しましょう七割全額」
なんとか値切ろうとするマイケルに待ったをかけたのは、意外にもペネロペだった。だが決してヘイザへ情けをかけているのではない。寧ろ逆だ。
「その代わり、これで私たちは他人同士ですから、お金に困ったとしても、頼ってこないで下さいね」
要求する分のお金は渡すから、もう二度と自分たちに関わるな。ペネロペはそう言外に告げたのである。
「うっひょー! これだけ金があれば、高級店で沢山遊べるでござるよぉ!」
なおヘイザはそんなメッセージを理解しているのかしていないのか、突然手に入れた大金を無邪気に喜んでいた。
「師匠。ちゃんと貯金しろよ? 全部ギャンブルで溶かしたりするなよ? 野垂れ死にしても知らないからな」
「でも私の貸したお金の分は差し引かせてもらいますからね!」
こうしてヘイザ・アッシュブレードはパーティーを追放された。
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