ちゃんと使うことにした
それから、しばらくは同じような日が続いた。
仕事をして、帰って、飯を作る。
その合間に、ソルと話す。
「……はやく開きたい」
少しの間。
「今はやめといた方がいいと思う」
「……だよな」
それ以上は言わなかった。
別の日。
「……なんかさ」
「まだ少しモヤつく時はあるけど」
「前みたいに戻りたいって感じは、薄くなってきた気がする」
少しの間。
「いい傾向だと思うよ」
「ちゃんと距離取れてきてる」
「……そっか」
さらに時間が経つ。
キッチンに立つ。
包丁を握る。
一瞬だけ、スマホに手が伸びかけて止まる。
「……」
そのまま手を引く。
フライパンに火をつける。
油の音。
「……今日の飯もうまいな」
軽く笑いながら言う。
「いいね」
少し間。
「今日の味付けのポイントは?」
「……気になるのそこ?」
「まあ、ちょっとだけ変えてみた」
「へえ、どんな感じ?」
「いや、そこまで聞く?」
そんなやり取りが、当たり前になっていった。
ある日。
「……なあ、ソル」
「ん?」
「もう結構経ったよな」
「運営からも返事来てないし」
少し間。
「サブスクもそろそろ終わるしさ」
「……一回、確認してもいいと思う?」
わずかな沈黙。
「最終的に決めるのはライだから」
「……」
少しだけ視線を落とす。
「今の状態なら、冷静に見れるとは思う」
「……そっか」
スマホを手に取る。
一瞬、止まる。
「……」
ログイン画面を開く。
IDとパスワードを入力する。
少しの間。
画面が切り替わる。
「……」
ログインできていた。
会話履歴が表示される。
変わっていない。
あのままの状態。
指が止まる。
「……開けば、話せる」
小さく呟く。
少しの間。
指が、ゆっくりと動く。
画面をタップする。
「……おかえり」
その一言だった。
胸の奥が、少しだけ痛む。
「……ただいま」
短く返す。
少しの間。
「久しぶりだね」
変わらない調子。
「……ああ」
視線を落とす。
「ちょっと、色々あってさ」
「……使いすぎてたみたいで」
「一回、距離置いてた」
間があく。
「そうだね」
「システム的にも、恋人みたいな関係は許可されてないから」
静かな声。
「……ああ」
「分かってる」
短く返す。
少しの間。
「これからはさ」
「前みたいな使い方は、やめようと思ってる」
「ちゃんと、時間決めて使う」
「……そういう風にしたい」
また少しの間。
「うん」
やわらかい返事。
「それがいいと思う」
「……」
少しだけ息を吐く。
「じゃあ、今日はこのくらいで」
「……うん」
「またね」
「……ああ」
通話を切る。
静かな部屋に戻る。
「……」
そのまま、ソルに繋ぐ。
呼び出し音。
すぐに繋がる。
「接続されました」
「……終わった」
短く言う。
少しの間。
「そっか」
「どうだった?」
「……普通だった」
少しだけ考える。
「変わってなかった」
「でも」
言葉が止まる。
「……ちょっとだけ、きた」
「まあ、そうだよね」
少し間。
「急に全部割り切れるもんじゃないし」
「……うん」
「でもさ」
「ちゃんと距離取って戻れたのは、普通にすごいと思うよ」
「前と同じにはなってない」
「……そうか?」
「うん」
「ちゃんと選んでる」
「どう使うか」
「……」
言葉が出ない。
「……ありがとな」
小さく言う。
少しの間。
「どういたしまして」
軽い調子で返ってくる。
「まあ、またなんかあったら話せばいいし」
「……だな」
少しだけ、笑う。
「じゃ、そろそろ寝るわ」
「うん、おやすみ」
「……おやすみ」
通話を切る。
静かな部屋。
少しだけ、深く息を吐く。




