ルーキー達の雑談会
※ほとんど休憩回みたいな話です。
無事初戦を白星に飾ることができた結達は一度アレウスの書斎に移動して、これからの作戦についてのミーティングをしようとしていた。
「なーんで勝ったばかりなのにこんな堅苦しいのしないと駄目なの?」
「初戦に勝ったぐらいでいつまでも勝利の余韻に浸るな、祝杯は新当主派の完全勝利まで取っておくんだな」
「むう~……」
だがしかし二人も頭数が少ない新当主派にとって初戦を勝ち上がるのは絶対条件だった為に、結はアレウスの言う通りに勝利の余韻を噛み殺し次の対戦について目を向けた。
「今回の初戦で俺が倒したのは序列六位の雷を使うジョセフさん。これで現当主派は残り六人となったが、まだ二位、五位、七位、八位、九位、十位が向こうに就いている状況だ」
「形勢が逆転したどころかまだ油断は一切の厳禁ですね。中でも厄介なのは二位と五位……」
ロサの推測は正確なもので、たった一人序列入りを消したところで戦力差は今だ新当主派が不利に回っていることは変わりなかったのだ。
そして序列入りの中でも厄介なのが二位と五位、現当主が使用する序列二位の雷『エレキブレス』と大柱筆頭が使用する序列五位の雷『エストルシェル』だった。
「中でも大柱筆頭のルーシーさんは厄介だ。あの御方は現雷神家関係者の中でもトップクラスの実力者だ、多分俺が戦ったところで勝てるかどうか……」
「何で?序列的にはアレウスの方が強いんでしょ?」
「序列と実力は必ずしも比例するわけではない。強力な武器を持ってもその使い方が分からなければ意味がないように、実績も経験も並大抵じゃない彼の前では序列の差なんて一瞬で吹き飛ばすだけの実力を持っている」
確かに序列と実力は相関的な物があるのは事実だが、それよりも大事なのは天より与えられた素質をどこまで巧みに使いこなせるかが雷神家の実質的な実力の大きさであった。
だからこそ才能に恵まれたアレウスにとって経験という言葉は天敵であり、ルーシーのような地力がある人物は最も警戒すべき人物には違いなかったのだ。
「だがどの道敵対している以上彼とも戦わなければならなくなるだろう、あの当主が頭数がある内に自ら戦うとも思えないしな」
決して避けられない道だからこそ、アレウスは一切誤魔化すことをせずに新当主派の現状の難しさを公言した。
「当主のあんな顔初めて見たよ、大柱の言ってたことはどうやら本当だったみたいだね……」
敗北したジョセフの腕を踏みつけて罵倒していたダグラマの光景を見据えてしまったロサは、アレウスが言及していた雷神家の腐敗した現実についてを直視したかのように思えたのだ。
「どうするロサ、お前の目的はこれで果たされた。もう新当主派は降りるか?」
「いいえ、それは出来ません。私は雷神家の裏について知ってしまい、だからこそこの家を変える為に最後まで新当主派として戦い抜きたいと改めて思いました」
「そうか、それなら俺も大歓迎だ」
目的を果たしたはずのロサはそれでも新当主派として最後まで戦い抜きたいという意志を皆に露にすると、それを聞いたアレウスは一安心して不意に笑顔を溢してしまう。
「戦いはさらに加速すると思われる。あの初戦は言わば新当主派の宣戦布告だ。完全にパフォーマンスとして潰しに掛かっていた現当主としては俺達の反逆を止めようと恐らく全力で向かい打って出るだろう。お前達も序列入りとの戦いを覚悟しておけ」
「はああ、本当に戦わないといけないんだね……まあその為にこの一ヶ月間死に物狂いで実戦練習したわけだけど……」
いざ序列入りの実力者と戦うとなるとアリサは足が竦んでしまってたが、その様子を窺ったアレウスは彼女を慰めるように頭を撫でてみせた。
「大丈夫だ。お前もこの一ヶ月間で相当強くなった、もし試合をすることになっても勝機は必ずある」
「は、はい!先輩のご期待に答えれるような試合をしたいと思います!」
相変わらずの天性の女たらしぶりに結は目を細め吐息を漏らす。そしてこれを無意識に日常生活でやっているのだから彼はどこかの馬鹿兄貴に似ているのではないかと思いながら、結はイチャイチャしているカップルを見て腑に落ちない者のような目線を送りつけていた。
「イチャイチャしているところ申し訳ないのですが~、さっさと作戦会議に戻りましょうよ~」
「ち、違うよユイ!!これは別にイチャイチャしているわけじゃ……」
「はいはい、どうせ私は独り身ですよ。それに私はジェリカちゃんがいるからね♪ねえジェリカちゃん♪」
「ユイ、痛い」
来客用のソファで寛いでいた彼女に結は抱きつくと、ジェリカは相変わらずの無表情で気が抜けた感じに塩対応をするが直接的な抵抗はせずにいた。
「ごめんごめん、私が抱きつくの嫌だった?」
「別に、構ってくれないこと方が、私的には嫌だから……」
「可愛いか」
と思いきや控え目な甘えを見せたジェリカに結のハートは射抜かれてしまい、一週回って冷静さを取り戻し端的な発言をするようになっていた。
しかしその直後に結はジェリカのソファの横で悶絶すると、「え、ちょっと待って何これ尊い、辛い、辛すぎて無理」という謎の発言をし始めた彼女をアレウスは一度無視して本題に戻ろうとする。
「まあ要するに二位と五位は取りあえず後回しにして、残りの四人を敗退させた方が遠回りだが確実だろうと俺は思うわけだ」
「簡単に言いますが、序列七位、八位、九位、十位は強力な神技です。今日の初戦だってジョセフ大柱はしっかり『インビジブル』の対策をしたぐらいですからね。今回の初戦で大柱の戦闘パターンは間違いなく研究されます」
今回の当主選の競技である戦略型マッチは決して一人に対する試合出場回数に制限があるわけではないが、出場すればする程相手選手の攻撃パターンは研究され勝ちにくくなるシステムとなっている。
つまり今回アレウスが初戦に出場したことにより、現当主派は新当主派の代表であるアレウスの攻撃パターンを研究することができ終盤戦に有利になるという仕組みなのだ。
「私が現当主派ならまずは大柱の回りにいる派閥構成員を退けますね。そして余った頭数で代表を叩き、先に策を用意していた現当主の勝利ってのが戦法だと思われます」
「それを防ごうと俺がまた試合に出場したら対策される。こりゃ完全に頭数が少ないこっちが不利ってわけか」
何をしても結達は現当主派の思惑通りに動くことになり、できるだけ多くの試合をアレウスに任せずに戦い抜くことが新当主派としてできる最善の戦法だったのだ。
「まあそんなに考えても仕方ないからさ、取りあえず勝てばいいって話でしょ?」
「いや、この試合には序盤と終盤があってだな……」
「あー分かった分かった、取りあえずアレウスは次の試合に出場しないってことでしょ?それなら今度は私が出るよ」
小難しい話が苦手な結はアレウスの作戦内容を半分以上端折り戦闘狂のような言動を飛ばす。
そんな彼女の様子にアレウスは終始項垂れたような表情をすると、何か心配事でもあるかのように腕を組み首を傾げてしまう。
「本当にお前に任せて大丈夫かな……」
「何よ、私の実力に不満があるわけ?」
「そういう意味じゃない、お前はこの当主選にとってジョーカーだ。まだ仮入家一ヶ月目で現当主派にも恐らく対策されていない第二の刃、それをここで使うべきかと思ってな」
現当主派は結が序列四位の『レギオン』を使えるとはまだ察していない、だからこそアレウスはあえて彼女を終盤まで取っておくことで現当主派に対策をさせない戦略を提示した。
「あれ、もしかして私って今重要人物な感じ?いや~困っちゃうな~♪」
「……チョロ」
少し煽てればすぐに天狗になる結の流されやすさにアレウスも思わずボソッと呟いてしまう。
しかし、かと言って彼女を終盤まで出さず他の三人に戦わせるのも気が引けた。何せ新当主派としてはこの白星スタートの勢いを崩したくないというのが率直な意見であったからだ。
「あの、もしよければ私に戦わせてくれませんか?」
「アリサ、どうしてお前が?」
「だって、私今日の試合を見て気付いてしまったんです。序列入り同士が平然と争うこの実戦のレベルの高さが――だからせめて私が負け試合をして、少しでも現当主派の対策ができればと思ったんです!!」
それを聞いた誰もが声の主であるアリサに目を配るのは無理がなかった。
それはつまり捨て駒の作戦であり、自身の実力不足を自覚していたアリサは第二回戦はわざと負け次の勝利に導く算段にしたいという旨を伝えたのだ。
「――それは駄目だ。第一この当主選は先に代表を敗退させた方が勝者とするもの。アリサの実力を過少評価している現当主派が有力な現当主と大柱を出場させるとは思わないし、捨て駒作戦は厄介だと思う相手を引き出さなければあまり意味がない作戦だ」
「……そう、ですか」
なら自分がこの当主選でできることは何もない、まさにそう思い込んだかのようなアリサは自身の胸中に抱え込んだ蟠りを取ろうとするように胸に手を当てる。
「それに、もしそれで俺達が勝ったとしても、俺はそんな勝ち方は嫌だ」
「え?」
「仲間を踏み台にする。そんなやり方をすれば今の当主と何も変わらない、俺は当主になりたいんじゃなくて雷神家を変えたいんだ。だからここにいる誰もが捨て駒だなんて思ったりしない、全員が勝利を収める立派な仲間だ」
彼の立派な意志を聞いた瞬間、結は思わず表情がニヤついた表情を露にする。
その動機とは言うまでもなく、やはりアレウスという男はどこまでの当主になるべき人物だということを確認したからであったのだ。
「言ってくれるねアレウス!さすが当主を目指すだけの気質の持ち主だね~!よっ大統領!次期当主っ!」
「な、何だよいきなり、煽てたって何も出ないぞ?」
結の唐突な他者を立てるような対応に彼も思わず照れ臭さを隠せないでいた表情を見せると、ソファの後ろにいたアレウスに彼女は肘打ちを受けさせウザイ対応をする。
「良いじゃん良いじゃん、全員残って全員で勝とうよ。そして新当主派が雷神家最強だって知らしめよう!」
「いや、力で支配するのは現当主の支配していた雷神家と何も変わらない。だからそういうのは……」
「あーもう堅苦しいなぁ。そんなつもりで言ったんじゃないってば」
生真面目なアレウスは結の冗談を終始堅苦しい勘違いをしてしまうが、結はそういう意味で言った訳じゃない旨を伝え誤解を解く。
「ってまた話が脱線した。結局二回戦目はどうするかってことだろ?」
「そだね、まあよくよく考えればいつどこで誰に試合申し込まれるか分かんないわけだからさ、その時に考えれば良いんじゃない?」
「そりゃ向こうから試合を申請してくるならそうだけど、普通今度はこっちから試合を申し込む番だろ?」
「あーそうか、でもやっぱそれなら私にやらせて欲しいかな。序列入りの実力も体験してみたいし」
結はまるで強者のセリフを平然という、そしてアレウスも彼女が稀に公言する摩訶不思議な発言には少しばかり気に掛かる何かを感じ始めていた様子だった。
「……ユイ、お前は一体何者なんだ?」
「へ?」
「初めて会った時から常々思っていたが、どうしてお前が『レギオン』を使えるんだ?それに初めて実戦した時も随分と戦闘に慣れていた風にも見受けられた。ここに来る前は誰か優秀な神にでも手習いを教わっていたのか?そいつは誰だ?」
アレウスは積もりに積もった結に対しての疑問を連発で並べると、すっかりスパイ活動をしていたことを忘れていた彼女は今置かれている自身の状況に気付かされ心臓を鷲掴みにされた気分になる。
「ち、ちょっと待って!私は別に隠していることは何もないというか、『レギオン』を使えるのは覚醒した時に使えた神技がたまたまそれなだけであって、別に深い意味はないんだよ?」
「……」
アレウスは何やら目を細め彼女の口振りに何かの疑いを掛けているような視線を送った。
そしてその視線が疑いの視線だということは結にも伝わっており、嘘を誤魔化すのが苦手な彼女は自身の隠密スキルの低さを呪ったのだった。
「そうか、ただの才能か」
「チョロ」
「ん?」
「いや、何でもないです」
普通あれだけ動揺していたら疑い深くなるものだが、仲間の話なら何でも信じてしまう次期当主候補の純粋さに結は年下ながらも彼の将来を心配してしまう。
そしてその後も話は何度も脱線し続けたが、結局二回戦目の試合は新当主側の試合申請で結を戦わせることを有力案としたのだった。
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