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当主選の開幕

 当主選まで残り二十四日、結達は早速オフだった午後の日程をアレウスが指導する実戦練習に参加することとなった。


「そう言えばアレウス、今日は一段と目が死んでるね」


「昨日夜遅くまで寝れなかった奴にその言い方はないだろ、一応面識がある役職階級の奴等に声を掛けていたからな」

 昨夜アレウスは一応面識がある役職階級の入家者達に声を掛けたというが、結局のところ全て当てが外れることとなりメンバーは結、アリサ、ロサ、ジェリカの第一階級以下の面子で望まなければならない結果となっていたのだ。


「それよりユイ、お前のその格好は何だ?」


「何って、ジャージだよ」

 ユピテルの神技によって生み出された赤ジャージを着て稽古に望もうとした結に思わずアレウスもツッコミを入れてしまうが、彼女は何食わぬ顔で世界観と釣り合わない格好をしていることを気にせずにいたのだった。


「そのジャージという物がよく分からんのだが……まあいい、それと、隣のジェリカの格好は何なんだ?」

 アレウスは結の隣に立っていたジェリカに目を向けると、彼女は依然として無表情を保ちながら未だ見たことのない服装をしていたことに気付かされる。

 その服装とは体操着にブルマと言った一世代前を漂わせる服装であったが、一体それがどういうコンセプトなのかアレウスには永久的に分かり得そうにないかのような様子を示した。


「これ、ユイに着ろって言われた」


「元凶は貴様か」


「い、いやだな、ジェリカちゃんが実戦用の練習着がないっていうから私のを貸しただけだよ?」

 こればかりは結は決して自分の欲求をぶつけた訳ではなく本当にジェリカから練習着がないことを伝えられたことから、自分が着る用だったユピテル特製の体操着を彼女に貸したことを説明して何とか納得してもらう。

 しかしアレウスはジェリカの格好には些か気になる部分があり、第一に彼女の服装は下半身がほぼ露出している様なものだったことに目を向けざるを得ない様子を見せる。


「あ、あの、この格好を殿方にジロジロ見られるのは何と言いますか……恥ずかしいです……」


「ジェリカ、一旦このタオルを腰に巻こうか。少々動き難いとは思うがお前を守る為だからな」 


 無表情なジェリカが若干顔を赤面させた反応を窺ったアレウスは、まるで彼女の保護者のように早急にタオルを腰に巻きつけて膝下までの露出を隠した。その気持ちは結にとっても分からなくはない。


「なら早速実戦練習をしたいと思う。まずは実戦を経験したことがないジェリカ、お前は俺と戦ってもらう」


「分かった」


 初戦からアレウスと戦うのは少々ハードルが高いと思えるが、それもまた彼女の戦闘スキルを見定める為に必要な過程だと必要枠として捉えられた。

 そして二人は広い稽古場の中央に向かい合う形で立ち、アレウスに審判をやるように指示されたアリサが試合開始の合図として腕を振り落とす。


「それでは、始め!」


「――!!」

 勢いよく開始の合図が言い渡されると、同時にジェリカは神技の構えを取り術式を生成しようとする。

 その一方でアレウスはまだ神技の構えを取ることをせずに彼女の技を見極めようとする、何せこの実戦練習はジェリカの実力を最大限見定める為のものだったからだ。


『エレキブリッド』


 放たれたのは至って初級の神技、アレウスにとっては他愛もない攻撃であった為に、彼は左腕にゾオンエネルギーを付加させた状態で雷撃を受ける。

 そして帯電させた雷がエネルギーの膜を破り感電する前に大気中に放出することで、アレウスはノーダメージでジェリカの初手をかわすのだった。


「確かに神技は覚醒している様だな、さあもっと撃ってこい」


「なら……」

 次にジェリカは別の神技を発動しようと構えを取り、アレウスもまた次手も譲る形で彼女の攻撃を受けようとする。


『キャストサンダー』


 四方八方に散乱する雷撃はアレウスの元へと放電するものもあったが、彼はそれをいとも容易くに避けてみせる。

 するとジェリカは体内のゾオンエネルギーを短時間で過剰に使用したからか呼吸を荒げ始めると、その様子を窺ったアレウスは試合を中断するようにアイコンタクトを取るのだった。


「そこまで、試合は一時中断!」


「はぁ……はぁ……」

 通常の技を一回、大技を一回使用しただけで彼女のゾオンエネルギーの貯蓄は底を尽きてしまう、それが今の彼女の実力であり実戦をまだ経験しない第二階級の限界であったのだ。


「お前の実力はよく分かった、確かに第二階級にしては優秀な方だな」


「まだ……やれます……」


「いや、無理をするのは良くない。どの道無理はしてもらうことにはなるが今ではないからな」

 しかし困った事にどう考えても彼女が序列入りの神技を使う入家者達と争えるほどの力を一ヶ月足らずで身につけられるとも考えられず、アレウスは早速難題にぶつかったように抱え込んでしまう。


「なあジェリカ、本当にどうして新当主派に加担しようとしたんだ?」


「それは、正しい行いをしろとお父様に言われたから……」


「そこにお前の意志はないのかと聞いているんだ。父親に言われたからって体を張ることないだろ?」

 ジェリカが当主選に新当主派として参加を希望した理由には自己意思と呼べるものがない風にも思えた。

 いや、そもそも彼女自身一体何を考えているのか分からない存在であったことには違いなく、何をしているにも基本的に無表情であり無口な一面を持つジェリカには他人を寄せ付けようとしない何かすら結達は感じえていたのだ。


「分かりません。でも、私は何が正しくて何が間違っているのか、この目で確かめたいと思っています」


「何だと……?」


「私は、自分が正しい行いだと思って新当主派に加担しました。その選択の正誤は今も私には分からないけど、私はこの戦いを通して答え合わせがしてみたいのです」

 やはり彼女の行動の動機となる思考は四人にとっては幾分か分かり得なさそうになかった道理だったが、その目には確かにジェリカの強い意志が表れていることだけはその場にいる全員が分かっていた。


「それが私の自己意思、これでもまだ理由としては足りませんか?」


「――いいや、こんな事を聞いた俺が迂闊だったよ。理由なんて、案外どうでもいいことだったよな。それだけでも立派な動機だと思うぞ」


「ありがとうございます……」


 ___そしてアレウスは心の中で誓ってみせる。

 今はもう、この五人で互いの背中を守りあわなければならないと。

 己の感情の深層にある復讐心を押し殺し、アレウスは彼女達と共に勝利を勝ち取ることを誓うのだった。




 ________




 月日は経ち、結達はいよいよ当主選の開幕式の日を向かえようとした。

 開幕の式は第一稽古場で執り行なわれ、そこには雷神家の中枢入家者達や新聞記者がカメラを持ち中央に並んでいる両陣営を囲むように立つ。

 互いの思惑が交じり合う中、多くの役職階級の入家者達は開幕の序式を今か今かと待ち焦がれている様子を見せていたのだ。


「おいおい何だよあの面子は、ほとんどガキじゃねえか」


「失望したよアレウス、君が第一階級以下の入家者達にしか頼れないほど信頼がなかったとはね。それで大柱とは笑わせてくれる」

 中央の右側に立つ現当主派の二人は嘗てアレウスを通路で挑発していた男達であり、新当主派の面子を見渡して余裕を滲み出していた彼等を見据え結も思わず嫌な気分に苛まれてしまう。


「何アイツ等、嫌な感じ」


「仕方ないよユイ、どの道私達が圧倒的不利なことには変わりないし、ここにいる誰もが現当主派が勝利を確信していると思うよ」

 ロサの言い分は至って正論であり、今回の当主選は現当主派が圧倒的に有利働くことは周知の事実であることには変わりなかった。

 しかし結達はこの一ヶ月間苦楽を共にして当主選に勝利する方法を模索し続け、それぞれの思惑を成就させる為に強くなろうとし続けたのだ。

 だからこそ結達は他人から何と思われていようと、まだ負けたつもりなど毛頭なかった。


「ほう、中々若い顔を揃えたようじゃな。アレウスよ」


「……それはどうも」


「今回は中々勝手な真似をしてくれたもんじゃ。当主選などという盛大な行事を企んでいたら前々から伝えておいてくれても良かったはずじゃ、こんな一斉一大の(わしの踏み台になってくれるようなパフォーマンスをしてくれるのならな」


 現当主であるダグラマは辺りを囲んでいる記者や入家者達にその声を聞こえさせないように小声で言うが、アレウスの横に立っていた結は初めて現当主の屑さを目の辺りにして反吐が出そうになってしまう。

 だがしかしアレウスはそんなダグラマの悪質な言動すらも跳ね除けるように笑い返す、恐らく新当主派の中で一番現当主に恨みを持っているはずなのに彼は一切ここで感情を荒ぶり胸ぐらを掴むような真似もしなかったのだ。


「アレウス……」


「……ユイ、頑張ろうな、当主選」


「っ……馬鹿、どうしてそんなに……」

 いつしか彼は嘗ての兄の姿に似ていたとすら思え、アレウスの取り繕ったような笑顔が今すぐにでも溢れそうな感情を噛み殺しての作り笑顔だということを察すると、結は心情の最奥から何かが込み上げてくる感覚が伝わった。


 その後稽古場の出入り口から神官と思われる人物が十人入室すると、そこにいた誰もが注目を向けた。


「それではこれより、当主選の開幕式を行います」

 中立側の神官に基づいた開幕宣言が告げられると、世界的な一大ニュースを撮ろうと記者たちが一斉にフラッシュをたき始める。


「今日から当主選運営役代表を務めさせてもらいますのは(わたくし)『中立神』メフィスト・イスカンダルです。以後お見知りおきを」


 まるで仕事をテキパキとこなしそうな完璧女性な雰囲気を漂わせている彼女を一言で例えるならまさに大人の女性という風貌であり、称号名から察するに偏見や不公平を最も嫌うような人種には違いないように結は思えてしまう。


「まずはこれから今回の当主選の規定を読み上げます」

 するとメフィストは左手に携えていた冊子を開くと、今回の当主選についての条文を読み上げようとする。


「規定一、本当主選は必ず運営役となる中立側の神官を立会人として開催されること。規定二、本当主選は公式の行事であり勝者陣営の代表は必ず後の当主の座に就くこと。規定三、当主選の参加者は決して殺し合ってはならないこと。規定四、参加者が負傷をした場合は一切の責任を自己に委ねるものとする。規定五、絶対中立の基本理念に基づき一切の不正を禁ずること。規定六、以下の規定に従い当主選を行える雷神家関係者のみを参加資格のある者とみなす。以上です」


 規定を全て読み上げたメフィストは次のページを捲り次の内容に移ろうとした。


「次にルールの説明です。今回の当主選は上限期間がない戦略型マッチとなっており、どちらか一方の陣営が試合で敗北して代表者を先に倒された派閥が負けとなるルールとなっております」

 この内容では些か説明不足であったが、要するに上限期間がなくいつでも公式試合をして代表者を先に倒されたした方が負けというのが大体のルールであったのだ。


「試合については雷神家の敷地内且つ中立側(わたしたちの立会いがあればいつでもどこでも可能です。形式はシングルマッチかタッグマッチのどちらかをその場で決める形式であり、中立側の審判の判断に基づいて敗者と判断された者は派閥からの脱退扱いとなります」


「なるほど、負ければ即脱落ってルールか……」

 敗者はその時点で当主選から退けられてただの観戦者に回ってしまうことから、頭数が二つも少ない新当主派陣営にとっては負けることほど痛手なことはないわけだ。


「原則として試合は両陣営の当事者の合意の元行われるものとしますが、勝負が長期戦になれば強制的な強いる場合もありますので予めご了承ください」


「ふーん、それじゃあ互いの了承さえあれば今ここで試合をしてもいいわけだな?」

 結達はその声を主の方向へと急いで双眸を向け、それは現当主派側に立っていた一人の男から発せられた発言だったことを確認する。


「アレウス、あれって……」


「ジョセフ・エルガン、雷神家三本の大柱の一角にして神雷級階序列六位『ライキリ』を使う男だ」

 雷神家の階級だけで言えばアレウスと同格の存在であり、この家柄のベテラン枠に入る彼はどこか抜けた雰囲気で中立側であるメフィストに疑念を投げ掛けていた。


「構いません、何せもう当主選は始まっていますから」


「そうか、なら現当主側は今この場で試合を提案する」


「な……!?」

 唐突に発せられたジョセフの提案に会場の雷神家関係者はどよめき始め、世の中に情報を発信することな生業の記者すらも急展開に話がついていけない様子を漂わせる。

 しかしこれが戦略型と呼ばれる所以であり、新当主側にとっては見事に意表を突かれた気分にさらされてしまう。


「当主、構いませんよね?」


「全く、勝手にしろ。ただしやるなら分かっているな?」


「ええ、言われなくても大将を退場させすぐにこの戦いを終わらせますよ」

 するとジョセフ横に立つ新当主派の代表であるアレウスの元へとゆっくり歩き寄ると、自らの手を差し伸べてこう告げた。


「俺はお前に試合を申し込む、アレウス・ヒストリーク」


「ジョセフさん、どうしてあなたまでそっちに就くんですか……」


「黙れ、俺にはこうするしかないんだ。今の自分の立場を守る為ならな」


 その言葉を聞いてアレウスは全てに察しがついた様子を露わにする、恐らく現当主派の中には単純な当主の脅迫により仕方なく加担している者もいるのだろうと。

 その事に気付いた結は今すぐにでも中立側に講義をしてやろうかと思ったが、当主選の規定は開幕宣言と同時に効力を持つ物となるので無謀なことを一瞬で察してみせた。


「……分かりました。あなたとの勝負をここで引き受けます」


「アレウス……!!」


「大丈夫だユイ、俺は絶対勝って帰って来るからよ」

 独りでに勝負を引き受けようとしたアレウスを結は必死で止めようとするが、彼は仲間の静止を跳ね除けてジョセフの手を取るのだった。


「現当主派の提案が合意されました。これより当主選初戦を開始します」


「下がってろお前達、ここは俺に任せてくれ」


「ユイ、ここはアレウス先輩に任せよう?」


「……うん」

 両陣営のアレウスとジョセフ以外は辺りを取り囲む観戦者達と同化するように安置まで移動すると、中立側のメフィストは審判役として向かい合う彼等の横に立とうとする。


「初戦、新当主派雷神家大柱アレウス・ヒストリークvs現当主派雷神家大柱ジョセフ・エルガン。これより規約に則して公式の試合を行うことをここに宣言する」


「……」

 中央に向かい合う形で立つ二人には緊張感が伝わり、その場の雰囲気が連鎖的に伝達するかのように結達にもその緊張感ははっきりと共鳴していたのだ。


 そして暫くの静寂、一瞬本当に時が止まったのかのようなその静けさは次の瞬間にはこれからの勝負による衝撃を一層引き立てる物にへと変貌した。



「試合開始――!!」



 _______

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