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その6 兄貴と呼ばれて早二年


あ、どうも、日民さん家の翔太だよ。

今日は、智貴から逃げて家から離れた・・・はずなんだけど。

『兄貴〜!なんでいつも俺から逃げるんですか〜!?』

ご覧の通り、トラ吉に捕まってしまったんだ。

『兄貴〜、今日は・・・』

あーもー、兄貴兄貴うるさいなぁ。

ん?そういえばなんで兄貴って呼ばれてるんだ、って?

うーん、説明してもいいけど・・・長くなるよ。

だって、トラ吉との出会いから話さないといけないからね。

それでもいい?

・・・分かったよ、それじゃあ話そうかな。

『兄貴〜!無視しないでください〜!!』

『・・・・・・(無視)』

あれは・・・確か二年前のことだったっけ。

・・・・・・


・・・・・・

あのときは確か、近くの花屋さんに行こうとしてたんだ。

あの花屋さんの店主(いかつい男性)、エプロンつけてたんだけど・・・ピンクのフリフリつきだったんだよ。

あれを見て青ざめる人を見るのは楽しかったなぁ。

まぁ、別にどうでもいいことなんだけど。


僕は一歳と少しで、まだまだ子供だった。

当時ほとんど家から出なかった僕は、当然、縄張りのネコとして認められてはいなかったんだよね。

『おい、そこのチビ。どこのよそ者だ?』

これはトラ吉。

この頃3歳だったトラ吉は、ここらの縄張りのリーダーをしてたんだよ。

『へ?僕?』

『お前しかいないだろうが。』

あとでトラ吉に聞いたところによると、なんとなく怪しいネコだから呼び止めたんだってさ。

『え、でも僕よそ者じゃないよ。』

『ほう、そうか。なら、なんで俺はお前を見たこと無いんだ?』

『そりゃそうだよ、ほとんど家から出たこと無いんだもん。』

『そういう言い訳は聞きたくないな。お前やっぱりよそ者だろ?なんの用があってこの場所に来た?』

『(・・・話が全然通じないなぁ。早く行きたいのに。)』

僕はそろそろうっとおしくなってきたので・・・


・・・スタスタスタスタ・・・


『こらまて、なに無視して行こうとしてんだお前は!?』


・・・スタスタスタスタ・・・


『無視すなって言ってんだろぉぉぉがぁぁぁ!!!』

無視して行こうとしたら、キレたトラ吉がとびかかってきたんだよ。

ホント、すぐ怒るんだから。

ん?それはお前が悪いんじゃないのかって?

そうかなぁ?

まぁそれは置いといて、と。

僕は自己防衛として、トラ吉に反撃したんだ。


ズゴッ!バゴッ!!ドギャン!!!


『な、なんでお前、そんなにケンカ強いんだ!?』

『うーん、前から強かったからね。なんでだろ?』

『ふ、ふざけんな・・・グフッ』


ガクッ


そうしてトラ吉はノビて、僕は花屋の見物に向かったんだ。

え?トラ吉を放っておくなんて、お前は酷いやつだな、って?

別にそんなことないよ〜。


・・・そして数日後・・・

『こらまてっ!!あれはマグレだ、俺ともう一回勝負しろ!!』

なんかあれからトラ吉につきまとわれるようになっちゃったんだ。

なんか疲れるなぁ・・・。

と、そんなことを考えていると、目の前に大きな川があった。

この町の真ん中を通る、比良井ヶひらいががわだよ。

でも普段はそんなに大きくはないんだ。

確かあの時は大雨の直後で、かなり増水してたんだよね。


そしてその時、人間の叫び声が聞こえてきた。

「あっ、ネコが川に流されてるぞ!!」

『えっ!?』

『なんだと!?』

上流の方を向いてみると、確かにメスの白猫が流されてきていたんだよ。

それを見たトラ吉と僕はほぼ同時に川へ飛び込んだんだ。

雨で増水してるような川なんかに飛び込んで大丈夫なのか、だって?

うん、泳ぎは得意なんだよ。

と、そこでトラ吉が、僕にこんなことを言ってきた。

『おい、あのネコを助けた方が、あの勝負は勝ちってことにしようぜ!』

僕はもちろん、そんな言葉は無視して泳いでいく。

『こらっ、だから無視するなって!』

そんなことよりネコ命救助が先だよね。

そして流されているネコに届きかけたとき・・・

『よし、届い・・・ガフッ!?』


ザバン!


トラ吉に沈められた。

まぁ、このくらいじゃ溺れないけど、少し流されちゃったよ。

なんでちょっと流されたで済むんだ、って?

だから、泳ぎは得意なんだってば。

『ハッハッハ、どうだ、俺の方が先にたどり着いたぜ!!』

トラ吉はすごく得意そうにしてたんだ。

でも、その時上流から段ボール箱が流れてきて・・・


ズガッ!!


『ぐあっ!』

トラ吉に直撃した。

すっごく痛そうだったんだよ。

ちょっとだけざまあみろとか思ったけど、とりあえず助けに向かったんだ。

トラ吉はふらふらだったし、白猫もパニックを起こすばかりだったしね。

んでもって、トラ吉と白猫のところへたどり着き、二匹を引っ張っていこうとした時・・・

上流から次は丸太が流れてくるのが見えたんだ。

あの時はホント焦ったよ。

とりあえずトラ吉と白猫を岸へと押し流した。

丸太に当たらないようにね。

その反動で川の真ん中へ来た僕の目に、すぐ目の前にまで流されてきていた丸太が映ったんだよ。

そして、そのことを認識した次の瞬間、僕の意識は暗闇へと吹っ飛んだ。

・・・・・・


・・・・・・

ちなみに、あの時流されてた白猫がフーちゃんなんだよ。

何でもフーちゃんは捨てネコだったらしいんだ。

河原で見つけた段ボール箱で寝てて、気づいたら流されてたんだってさ。

あとトラ吉は、あの後僕を沈めたりしたことを謝ってきて、それからは何故か僕のことを兄貴って呼ぶようになったんだ。

その呼び方のせいで、いつのまにやら僕がリーダーってことになってたんだよね。

ホント、迷惑な話だよ。


え?一番重要な話を聞いてないって?

ああ、僕がどうやって生き残ったかって話だね。

実はあのまま海まで流されちゃって、もう戻ってくるの大変だったんだよ〜。

海の水が塩辛いって言うことを、あの時初めて思い知ったんだもん。

あれ?なんでそんな呆れた顔してるの?

僕、何かおかしいこと言ったかなぁ?


『兄貴が、兄貴が俺を無視していじめてくるぅぅぅ!!』

・・・トラ吉、超高速でのの字を量産しちゃってるよ。

結構長い間無視してたからなぁ。

でもさ、トラ吉。

君、つい一年ほど前まではここら一体を治めるボスネコだったよね、確か。

ま、トラ吉はトラ吉なんだから、別にいいんだけどさ。

さて、と。

そろそろ、のの字の生産を止めるとしようかな。

『ほら、トラ吉、そんなことしてないで・・・』

いつもご苦労様、僕。


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