兄弟
「兄さんごめんね。僕のせいで苦労をしてるなんて」
「気にするな、真央。べつにおまえのせいだなんて思ってもいないから」
申し訳なさそうにする俺の弟。俺はおまえのためなら少しぐらいの苦労だって喜んでしてやろうと思ってる。
「でも、僕だったらあの人の側にいることできないよ。絶対に壊れてしまう」
「俺はもう壊れてるよ、きっと」
「ねぇ、兄さんもう帰ってきてよ。兄の苦しむ姿なんて見たくないよ、兄さんはあの女に関わったら絶対にいけないよ」
知ってる、だからこそおまえに逢いたくなかった。おまえは優しいから壊れていく俺を黙ってみていることは出来ないことを知ってるから。
「真央、ありがとう・・・・・」
そしてごめん・・・・・・・。
「私、真央さんにそんな風に思われていませんから・・・・・・」
そうなんだよね、不思議なことに夕月って初対面の真央に懐いたんだよね。真央も夕月のことを気に入ったみたいだったし。
「面白かったね。最後の方で泣いちゃいました」
夕月が見たがっていた映画は悲恋モノだった。夕月は涙もろい癖にこういうのを見たがる、そして俺もこういう話は嫌いじゃなかった。
「うん、でもハッピーエンドになってもらいたかったね」
でも、せめて物語ぐらいは幸せな話を見てみたいと俺は思ってしまう。悲しい話なんて現実世界にたくさん転がっているんだから。
「うん、ホントにそう思います」
俺たちは映画について話しながら、ぶらぶらと町を散策していた。肌寒い2月だけあって、土曜日の午後なのに人通りはそれほど多くなかった。みんな暖かい地下街を歩いているのだろう。
「っあ、ちょっと待って」
シルバー細工を売っている店舗の前で足を止めた。十字架の形をしたストラップが気になってしまったのだ。
「これ、いいね」
夕月に同意を求めてる。夕月も気に入ってくれたらしい。
「買うかな」
そう言って俺はそれを買った。少し痛かった出費だったがこういうモノは欲しいときに買わないと次に店に来たときは無い可能性の高いのだ。
「お腹すいたね、何か食べていかない?」
「いいですよ。私もお腹ペコペコです」
夕月は食べ物の好き嫌いはない娘だった。だけど、俺の方が好き嫌いが多いので店を選ぶのは苦労する、夕月は黙って付いてきてくれるけどね。
「ケーキでも食べるかな、夕月さんはパフェがいいかな?」
俺たちはショーウィンドに飾ってある見本に釣られて綺麗な内装のカフェに入った。
「リオくんのケーキ美味しそうね」
夕月は甘いモノが好きなのは知っていた。一年近く一緒にいると相手の好物ぐらいはわかるようになる。
「少し食べるかい?」
俺は起用にフォークでケーキを少し切って夕月の皿にのせる。それを美味しそうに食べる夕月を見て少し嬉しくなる。きっと、俺たちって周りから見たら仲の良い兄妹に見えるんだろうな。
「生クリーム、少しもらって良い?」
返事を聞かずにフォークで夕月のパフェからクリームをすくった。恨めしそうに夕月が俺を見てるが気にしない。俺だって甘いモノは好きなんだから。
でも、男って損だよな?女の子がパフェを食べても絵になるけど、男がパフェを頼むのは恥ずかしいから。
不意にポケットから電子音が鳴った。この着信音はメールだ。
「メールきたよ」
一緒にいる時間が長いだけあって夕月も俺の携帯電話の着信音は知っていた。俺はメールを開いて、そして返信をした。
「っあ、またメールだね」
3回ほど返信と着信を繰り返して、夕月に頼み事をすることにした。
「夕月さん、お願いがあるんだけどいいかな?」
「なぁに?」
「30分ほどここで待っててもらって良い?弟がこの近くに来てみたいなんだ、ちょっと会ってくるね」
「わかった。ケーキを注文して待ってるね」
俺が仕えてる主は物わかりの良い子で良かったと思う。
「夕月ちゃんって言うんだ。よろしくね」
「こちらこそです」
弟と2人で会うつもりだったのに夕月も一緒に居ることになっていた。
「夕月ちゃんって僕と同じ学校だったんだね」
「はい、中等部にいるんです」
しかも、初対面なのにうち解けてるし。俺が夕月と仲良くなるのに半年近くかかってるのに。
「真央さんっておいくつなんですか?」
「夕月ちゃんより3つお兄さんだよ」
それにしても人見知りの激しい夕月にしては珍しかった。初対面の人とこんなに会話するなんて。
「お兄さんって家ではどんな人だったんですか?」
さて、どうしてこうやって3人になったのは真央とメールのやりとりが終わってすぐの話になる。
「あれ、兄貴。もしかしてデート中だったの?」
ミニスカートが似合ってる可愛い店員さんを呼んで夕月のおかわりのケーキを注文して俺は立ち上がるところだった。真央との待ち合わせの場所に行くために。だけど、待ち合わせの場所に行く前に真央は俺を見つけたのだ。
「って、真央。おまえどこにいたのさ?」
「そこを通ったら兄貴たちが見えたから。で、こちらの人は?」
「水鏡夕月さん、社長のお嬢さんだ」
「そうなんだ、僕は芦屋真央。よろしくね」
まぁ、ちょっとしたハプニングが合ったが真央を連れて席を立とうと思ったときに夕月が言ったんだ。
「真央さんは何を頼みますか?」
真央が店に入って来たから店員がこっちに来たのは知っているが、夕月にそう言われたら注文をしないわけに行かないじゃないか。ってわけで真央が同席することになった。
「優しい兄だよ。何かあったら助けてくれるし、この人の弟として生まれて良かったって感じかな」
そう思ってくれて嬉しいよ。俺たちはずっと仲の良い兄弟でいような。
「家でもそんな感じだったんですね」
「真央、もう俺の話はいいだろ?あまり家でのことをばらすな」
ん〜、真央がいると口調が元に戻ってしまってる。夕月は特になんとも思ってないらしいからいいけどね。
「でも、びっくりしたよ。ずいぶん若い彼女を連れてるカップルだなぁって思ったら兄貴だったんだもん」
「そんな風に見えたんですか?」
少し頬を赤くした夕月が聞いた。真央、夕月は照れ性なんだからあまりからかうなよ。
「兄妹に見えたって言えよ」
夕月のためにフォローを入れる。夕月は可愛い部類に入ると思うし、もう少ししたら好きな男の一人ぐらい出来るだろう。
「夕月ちゃんみたいな可愛い妹が欲しかったんだ。こんな兄貴でよければもらってくれない?」
「真央、それぐらいにしておけ。彼女困ってるだろ?」
夕月が真っ赤になって言葉に詰まっていた。それに俺だって夕月みたいな子供よりももう少し年上のお姉さんのほうが好みだし。
「私も真央さんみたいなお兄ちゃんが欲しいですよ」
「ちゃんと血のつながったお兄さんいるじゃない?聞いたら悲しむよ」
「ん〜、でも年が離れてるから兄ってよりも保護者みたいだもん。一緒に遊び歩くことが出来る年の近い兄が欲しいって思うんですよ」
「そう言うモノなの?」
「そう言うモノですよ」
「なら、今度3人でどっかいこうか?」
真央が提案すると嬉しそうに夕月が同意した。弟は社交的な人間だから誰とでもすぐにうち解けるが夕月まで真央に懐いたのは意外だった。
「さて、そろそろ帰るね。夕月ちゃん、またね」
一緒にカフェを出て解散することになった。立ち去ろうとする真央を俺は引き留める。
「真央、明日おまえの誕生日だろ?」
財布を開けて先ほど買ったストラップを取り出す。
「一日早いけど誕生日プレゼント。ホントは来週家に帰ったときに渡そうと思っていたけど、今日あえたから渡すね」
「兄貴、ありがと」
そして俺たちは別れた。余談だが来週に家に帰るときに夕月におみやげを渡された、弟の誕生日のために夕月が手作りのケーキを作ったのだ。真央はそれを喜んで美味しそうに食べた、それを夕月に伝えると嬉しそう微笑んだ。
まずは読んでくれてありがとうです。徐々に続きを書いていきたいと思いますので気が向いたときに目を通してください。