冬の夜
「俺とおまえは似てるのかもしれないな?」
眠ってる夕月に話しかける。こいつに言いたいことがあるが、それと同じぐらい聞かれたくないことだってあるんだから。
「同じ事を考えていたなんてな。それも同じ所を選んだなんて」
寝顔の夕月は何も答えなかった。俺はそっと布団を掛けてやる、今日はお互い言い争って疲れたから。
「俺とずっと一緒にいるか?」
答えを聞かずに俺は自分の部屋に戻った。俺自身、なにを望んでいるかはわからなかった。
「はい、ずっと一緒にいます」
夕月は答えていた。だけど、俺はその答えを聞いていなかった。
水鏡家の家族会議に俺は参加していた。議題は夕月と俺の進路についてだ、夕月は水鏡家の者だから家族が心配するのは当然だとしても俺については関係ないはずなんだがね。
「理央とユヅは似てるな」
京司さんが関心したように言う。別に関心されることでもないだろうけど。
「芦屋くん、覚えているかい?君と夕月が友達になれると言ったのを?それはね、君たちが似ているからだよ。ホントに考えることもやることも一緒だったとは」
俺が1人で遠くの大学を受験していたように夕月も高校を受験していたのだ。今の学校にいれば受験をせずに高等部に進学できる、それも一流の私立高校。
だけど、違ったのは夕月が受験した高校は一つじゃなかったことだった。複数の地域の学校を受験して全部、合格している。その中には俺と同じ場所にある高校もあった。
「ユヅはどうしたいんだ?」
「わたしは合格した高校に行きたい。今の学校にいても友達だって作れないし、誰も知らない場所で生きてみたいの」
誰も知らない場所でやってみたいか。俺と同じ事を言ってやがる、だけど俺はそのために働いたしその中には自分の力で生活をするって意味も含まれて居るんだよ?
「それでも無理だと思う。夕月さんにはせっかく家族がいるんだし、それに頼ったって恥ずかしいことじゃないよ。いつかは大人になるんだから、自立するのはそれからだって遅くないですよ」
諭すように俺は言った。なら、自分はどうなのさ?
「それならリオくんはなんで遠くにいくの?」
「私は大人だから自立するのに遅くないとおもって・・・・」
言葉に詰まる。夕月の理由と俺の理由って一緒なんだからさ、夕月を否定することは俺を否定することになる。
「リオくんに出来て私には無理なの?」
「俺だって無理だから、まだ大学には行かないし」
口調が元に戻ってる、こういうときは無理して戻したらおかしくなるか。
「わたし、ここにいても変われない。だから、誰も知らない場所に行きたいの。もちろん、生活とかお金とかは出してもらわないと行けないけど」
「ゆづき、違うよ。環境が変われば自分が変わるって言ってるけど、君が折り合っていないのは自分自身だよ。たとえ、誰も知らない場所に行ったとしても、新しい友達が出来たとしても自分自身が変わったとしても君自身が自分と折り合っていないと何も変わらないんだよ」
認めたくないけど言わないといけなかった。夕月は自分自身と折り合っていないことをそして環境が変わったところで自分が変わらないと何も変わらないことを。だけど、それは俺だって同じだった。それを夕月は気づいていた。
「それならリオくんだって同じでしょ?大学に行って勉強したりいっぱい遊んだって今のリオくんと変わらないよ」
「ああ、そうかもしれないけど。きっかけが欲しかったんだよ」
「それならわたしだってきっかけがあれば変われるかもしれないじゃない」
家族会議から俺と夕月の言い争いになってきた。2人は特に口を挟むことなく俺たちを見守っていた。
「理央、おまえあと三年ユヅの世話をするつもりはないか?」
俺たちの言い争いが一段落ついたところで京司さんが提案した。
「ないです」
俺は即答した。
「まぁ、まて。おまえは大学に行きたいんだろ?それなら大学に行けば良い、ユヅも行きたい高校に行けばいい。だけど、ユヅが1人で生活出来るとは思わない、だから理央にユヅの世話を頼みたい。もちろん、生活費はこっちで用意してやる」
「それに芦屋くん、夕月は子供じゃないから自分のことだって自分で出来る。君が四六時中世話を焼かなくたって大丈夫だよ。だけど、私たちはそれでも心配だから君に側にいてもらいたいんだよ」
夕月と一緒に暮らすか。夕月が一緒なら女の子を部屋に連れ込むことが出来ないが、生活費が出るし夕月と一緒なら楽しいかもしれない。だけど、それでいいのか?
「ユヅはどうだ?」
夕月も考えているようだった。夕月が俺と同じ地域の学校に行きたいって言ったのは俺がそこに行くつもりだったからだろう。ホントはここから通える学校に行こうと思っていたに違いない。
「でも、娘さんを他の男と一緒に暮らさせるのって不安じゃないんですか?私が夕月さんに何かするとは思わないんですか?」
「大丈夫だろ?おまえガキは好きじゃないって言ってるし、それに力ずくでユヅに何かしようとしてもユヅのほうがおまえより強いじゃないか」
そうなんだよね、夕月のほうが俺より強いんだよね。別に俺が弱いってわけじゃない、夕月は護身術をやってるから鍛えられるだけ。華奢な外見から想像できないけどね。
「考えさせてもらっていいですか?」
「少し考えたいです」
あれから色々考えた。夕月だって色々考えていたに違いない、だけど俺は答えを決めた。でも夕月に確認しておこうと思う。俺だけの問題じゃないから。だから、3日たった午後に夕月を散歩に誘った。
「なぁ、ゆづき。一緒に暮らさないか?」
どうやって言い出そうか考えいたけど、2人になると簡単に口から出た言葉だった。まるで休みの日にどこかに遊びに行こうって言う感覚で。
「それってプロポーズ?」
「莫迦、ちがう」
ませたお子様だ。最近は大人っぽくなってきたがまだまだ子供だと思う。
「それなら、わたしを貰ってくれるなら一緒に暮らしても良いよ」
「そか、なら話はなかったことにするか」
夕月の頭を軽くこづいて近くにあったベンチに腰をかけた。
「冗談です。でも、いいですよ」
「ああ、俺がゆづきを襲いそうになっても返り討ちにしてもらえるしな」
「そんなことするんですか?」
「しないよ、冗談だ」
俺は夕月と暮らしている。色々と問題は絶えないが楽しい日々が続いていることは間違いない。おまえとこうやって一緒になるのにすごい苦労したな、すれ違いもあったし、喧嘩や言い争いだってした。だけど、おまえと一緒にいれて良かったと思ってるよ。これはホントにね。
これで最終回になります。この続きは考えてあるので後日アップしていきたいと思います。ここまで呼んでくれた方ありがとうございます、そして続きになる話も読んでくれたら幸いです