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Black*Hero  作者: 沙槻
第2幕 第2章
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*2.もう、お引き取り下さい ③


 まるで、何かを引きずっているような……ていうか、なんか近づいてきてない?!


 思ったと同時。薄暗い廊下の闇から、すうっと現れた姿に、涼都は危うく叫びかける。


「っ!」


 執事の恰好をした、骸骨。その骸骨が、カラカラと何体ものアンデットを引きずって歩いている。どのアンデットもぐちゃぐちゃで形が綺麗ではなく、どれもムッとするような悪臭を放っていた。

 執事の恰好をした骸骨は、それを当たり前のようにズルズルカラカラと、引きずり回している。


 完っっ璧に、ホラーだった。


 ここでホラー映画の主人公よろしく涼都が悲鳴を上げなかったのは、執事の骸骨に見覚えがあったからだ。


「吉田さん、だよな?」


 休みに学校へ忍びこんだ際に、宇崎がそう呼んでいた清掃員さんだ。データにない物ならゴミとして、根こそぎ焼却炉へ持ってってしまう吉田さんである。

 きっと、アンデットもゴミと認識されたため、捕獲・破壊された上に今から焼却炉へ棄てられるのだろう。


(うわー骨が骨引きずってるよ)


 見ていて薄ら寒い光景だ。


「吉田さん、意外にハイスペックだな」


 あのアンデットが何体もこの様である。確か、あの時は涼都も新入生はまだデータに入っていないとかで散々追い回されて酷い目にあっ……


(あれ? ちょっと待てよ)


 あの休みから今日まで1、2日程度。その間、吉田さんは新入生のデータを入れられたのだろうか。もしも、まだデータが入っていないのなら。


 キラン、と吉田さんの目が光った気がした。いや、目なんてないけど。


 とてつもなく嫌な予感を感じたと同時、吉田さんが動いた。俺めがけて勢いよく──やっぱり走ってきちゃったよ!


「っ、まだ新入生のデータ入れてねぇのかよ!」


 涼都は舌打ちして周囲を見回した。すると、たまたま通りかかったらしいアンデットと目が合う。


「いいところに来たな、お前」


 にやりと笑んだ涼都は、ポンとアンデットの腕に手を置いた。そして次の瞬間には、思いっきりアンデットを吉田さんへ突き飛ばす。


「うりゃっ!」


 力任せに押したのが良かったのか、タイミングが合ったのか。


 ガッシャァアアアン!


 と、凄まじい衝突音を立てて、アンデットと吉田さんがクラッシュした。再び、満足。というか、すっきりした。

 涼都はひょいと窓枠に足を掛けて、いい笑顔で振り返る。ひらひらと手を振って言った。


「悪ぃな。今日は俺、鬼ごっこしてる暇ないから」


 言い終えるや否や、外に出た涼都はぴしゃりと窓を閉めて札を張る。魔除けの札だ。

 吉田さんが魔物に分類されるかは知らないが、多分この窓から涼都を追いかけて来ることはないだろう。


(だといいけど)


 これで窓を突き破って来たら怖すぎる。とにかく、アンデットを引きずった骨格標本に全力ダッシュで追いかけられるなんて俺はごめんだ。


 雨の中、涼都は嘆息した。


 体を叩く雨が、ぬれた髪から頬に滴り落ちる。

 冷たいはずの雨が妙に生暖かく感じて、その感覚が涼都を現実に戻してくれたような気がした。あぁ、骨に囲まれて追いかけられても、ちゃんとここは現実世界なんだな、と再確認する。


(まぁ夢オチとかだったら楽でいいけど)


 長く息を吐いて、涼都はその場にしゃがみこんだ。


「つーか、俺はゴミじゃねぇんだけどな」


 ゴミじゃないのはアンデットも同じだが、せめて吉田さんは魔物と生徒の区別ぐらいつかないのだろうか。いや、ゴミと人間の区別がつかないのだ。無理か。


(やっぱり、保健室でおとなしくしてた方がよかったか?)


 早くも出たことを後悔しながら、涼都は立ち上がった。ため息をついて『それにしても』と天を仰ぐ。


「雨、うっとうしいな」


 さっき外に出たばかりだというのに、制服の上着はおろか中のシャツまでぬれてきた。ある程度ぬれるのは覚悟していたが、思ったより勢いが強いらしい。

 周囲では、朝からやまない雨が水溜まりをつくり、地面の落ち葉や生徒が捨てたゴミは、綺麗に排水溝へ洗い流されていた。それでも洗い流せないのは──


 雨特有の湿気た匂いに混じった、腐臭。


 がさりと動いた茂みに、涼都は視線だけを向ける。普段にはない、鋭い光をはらんだ目が、ゆっくりと周囲を見回した。

 微かに口元に笑みを浮かべ、涼都は足元に転がっている中で一番大きい石を拾う。そして、ごく自然な動きで石を思いっきり茂みへ投げつけた。


 ガシャン!


 いい音を立てて、茂みから飛び出してきたアンデットが石に直撃して崩れ落ちる。


「不意打ち狙ってるのが、バレバレなんだよ」


 言いながら横へ跳躍すると、新たなアンデットが地面から飛び出してきた。まるっきり、映画のワンシーンである。何って、もちろんホラー映画の。

 地中から出てきたゾンビ、いや、間違えた、アンデットが涼都に向かって走ってくる。十分怖い光景だったが、涼都は鼻で笑い飛ばした。

 慣れたのもあるが、さっきの吉田さんがダッシュしてきたことと比べたら、可愛いもんだ。


「捕まっても焼却炉には持ってかないもんな、お前らは」


 ひょいっとアンデットの攻撃を避けて、吉田さんよりマシだと本気で実感する。馬鹿にされたのが伝わったのか、アンデットが威嚇するように空に吠えた。声とは違ってノイズのように空気をワンワン揺らされる。

 それに涼都は涼しい顔で薄く笑うだけだ。


「弱いやつほどよく吠えるっていうよな」


 普段より少し静かな、それでいて凛とした声でつぶやいた。


「『開け』」


 言った直後、アンデットが立つ地面に漆黒の大穴が広がる。いきなり無くなった地面に、アンデット達はなす術もなく、底が見えない闇色の穴に次々と落ちていった。

 それを冷静に見届けた涼都は、軽く手を振って穴を閉じる。


 何もなくなった空間に冷笑を向けた。




「相手が悪かったな」

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