10,休日
学校が始まって数日。待ちに待った休日がやって来た。
「あーば、あばば」
「シグ、今勉強してるからちょっと待って。あと一問だから」
「あばば、ばば?」
「学校が始まっちゃったから、学生は勉強しなきゃいけないんだよ。面倒くさいことにね」
「あばば……」
「慰めてくれてありがとう、シグ。というか君、体が伸びてるんだけど。なにそれ、触手? え、僕は触手で頭を撫でられているの?」
「あば?」
「これも一種の触手プレ……いや、止めておこう。シグが変なこと覚えたら嫌だし」
「あばー? あばば?」
「気にしないで。…………よし、終わった。待たせてごめんね、シグ。じゃあ遊ぼうか。なにする?」
「あば……あば、あーば、ばあばば」
「……いつものやつ?」
「あば!」
「えー、また? たまには他のことしようよ。あんなのが楽しいの?」
「あば! あば!」
「はあ……じゃあ、おいで。僕の話をしてあげよう」
「あばば!」
「定位置はすっかり僕の太ももの上になったね。別にいいけど。さて、なにを話そうかな……じゃあ、僕が小学生のときの話をしよう」
「あば」
「むかしむかし、十年ほど前のこと。僕は小学生になった。徒歩三十分のところにある学校で、周りは田んぼしかなかった。そんな田舎の学校だったんだけど、中庭にうさぎと鶏がいた。たしかうさぎが十羽、鶏が二羽だったかな。僕は昼休みは毎日中庭に行ってうさぎ達と戯れていた。鶏は小屋の中にいて触れなかったから、その分も可愛がるようにしていた」
「あばば……」
「そんなある日、いつも通りうさぎと戯れていたんだけど、突然数人の女の子達が僕に声をかけてきた。僕は分からなかったんだけど、どうやら同じクラスらしい。いきなりなんだろうと話を聞いたんだけど、僕は驚いてしまった」
「あばば?」
「その子達が言うには、僕は毎日うさぎ達をいじめている悪い人で、それを止めさせようと声をかけてきたらしい」
「あば!?」
「もちろん、僕はそんなことはしていない。ただ普通に戯れていただけだ。それを訴えたんだけど、その子達はかたくなにいじめていたと言い張る。最初は冷静にしていた僕も、だんだん腹が立ってきた。こんなに可愛がっているのに、いじめているだなんて失礼な、って。だから僕はこう言い返したんだ」
「あば……」
「『僕を一方的に悪者にするなんて、そっちの方がいじめじゃないか。僕はうさぎ達をいじめたりなんかしていない。うさぎを追いかけ回して餌を取り上げて抱っこして振り回すことの、どこがいじめなんだ』」
「……」
「結局、先生が間に入ってお互いにごめんなさいして終わったんだけど、その子達の狂言を信じたのか僕は中庭に出入りすることを禁止されたんだ。そのせいで飼育委員会に入ることができず、僕は園芸委員会に入ることになってしまった、という話でした」
「……あ、あばば……」
「ほら、結局最後はそんな反応するのに、なんで僕の話を聞きたがるの? シグは変わってるなあ。僕は普通だから、よく分からないよ」
「……あーば、あばばば」
シグは僕のありふれた話をせがんでくる変わり者だ。