4月 神か悪魔か
外国のフォークダンスは、結構な高確立で男女カップルもしくは混合の踊りである。
逆に言えば、一学年女子が入らなかっただけで部の存続が危ぶまれる状況になる。
その為、新入生、特に女子の勧誘には涙ぐましいまでの努力をしているのだが、残念な事に今の2年生の代は女子を確保することができなかった。つまり、既に崖っぷち。
なので今年のフォークダンス部は、女子さえいれば勝手に入部してくる男子には目もくれず、とにかく女子の勧誘をがんばった。巨大ショッピングモールのフードコートさながらの食堂でケーキセットをご馳走したり、参考書並みに分かり易い澄田様のノート全教科セットをチラつかせたり、エトセトラえとせとら。
……が、結果は楓の語った通り。それも、女子だけでなく、今年に限って男子すらもゼロだったのである。
そりゃあ、お仕置きされるのも無理はない。
「う~~、可愛い女の子の後輩、欲しかったぁ~」
「…………(コクリ)」
痺れに唸りながらも愛嬌のある口調で言ったのは、人好きのする顔立ちが目を引く2年の麦尾明斗。その隣りで頷いたのは、同じく2年の“ミスター・無口”こと澤登航だった。
過去形で言っている辺りに、諦めが見える。
ちなみに、この2人は自然発生で入部してきたクチだった。
……どの代の運が無いのかは、明言しないでおこう。可哀相過ぎる。
そこへ、タイミング良く声がした。
「こーら、勝手に試合終了してんじゃない」
ガチャリと部室のドアを開けて入って来たのは、ダルそうな雰囲気の若手男性教師だった。
白衣&眼鏡と言う理系教師の王道装備で登場した彼こそ、部員達にお仕置きを課した“顧問”・新荘孝紘である。
「とりあえず、お仕置きタイムはここまでな。一応、解散って言っとく。で、明日の練習だが、いつも以上にしっかりやるよーに。お客さんが来るからな」
新荘の言葉に、部の全てを把握する楓と対外業務を任されている不二井が首を傾げた。
「お客さん、ですか?」
「そんな連絡、もらってませんけど……」
すると、新荘は大きな溜め息を1つついてから、本当は生徒の努力のみで勧誘活動を行わなきゃならないんだが、と前置きしてこう言った。
「今日、たまたまうちの部のパンフレット見てる1年女子が2人いたから、声をかけといたんだよ。明日見学に来るよう言っといたから、絶っ対に1人は確保しろよー。部員ノートに名前さえ書かせれば何とでもなるからな」
人拐いの親玉みたいな台詞だ。大人って穢い。
しかし、今の部員達に、そこにツッコミを入れる余裕など有りはせず、内容のみを各自頭の中で反芻していた。
明日の練習に1年女子が来る → 良い所をアピールして、部員ノートに名前を書かせる → 念願の女子部員確保! → 可愛い後輩女子キター! ……じゃなくて、取り敢えず部が存続できそう!!
そんな楽天的な結論を弾き出した彼らは、動物ばりに感情を全面に出して叫んだ。
「「「「「「先生、神ッ!!(コクコク)」」」」」」
感涙に咽ぶ生徒達が、感極まって一斉に立ち上がった。
だが、忘れちゃいけない。
途中で脱落した山勢以外は、全員ベンチの上で正座していたのだと言う事を。
「「「「「■▽◎ッ☆≒~~~ッ!!(ガクガク)」」」」」
ガタガタガタンッ!! と無残な音を立ててベンチから転がり落ちた5人は、床上でのたうち回った。
尚、楓は悶絶してもスカートの裾を乱す事はなく、チラリのチの字もなかった事を記しておこう。期待した皆さん、残念でした。
「アホだなー、お前ら。あーっと、山勢、お前はリタイアの罰として、帰る前にスクワット100回な」
「のぉぉぉんっ! 先生の鬼! 悪魔!」
2年生&顧問登場。
澤登の台詞は、ほぼありません。基本的には擬態語のみです。