第四話 ①
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第四話
1
「ねぇ、解」
「どした?」
三時間目の終わりの休憩時間、次の授業の準備をしていると三谷に話しかけられた。
「今朝の新聞、見た?」
「いや……四コマしか見てないな」
そう言うと三谷はため息を吐く。
「もう高校生なんだから、新聞くらい毎朝見なさいよね」
「はいはい。で、新聞がどうかしたのか?」
「それがね。国道のところに空地あるでしょ?」
「ああ……あそこね」
家から自転車で15分ほどの所に、国道沿いにだだっ広い空地がある。
昔よく勝手に侵入して遊んだものだ。
「なんと! あそこに大型ショッピングモールが出来るらしいのよ!」
「へー」
漫画やラノベ以外の買い物をあまりしない俺にとって、あまり興味のないものなので適当に頷いておく。
「この田舎町にもついにショッピングモールが出来るのよ! わくわくしない!?」
「まぁ……それなりにな」
また適当に頷く。
俺には関係ないな……
その時は、そう思った。
2
「須藤君」
放課後、帰り支度をしていると君塚に声をかけられた。
最近は君塚の方からこうして話しかけてくれることが増えた気がする。
なんとなく嬉しい。
「どうした?」
「良かったら、今日これから遊びに行かない?」
「これからか?」
「ダメかしら?」
「いや、いいよ。行こう」
「ありがとう」
どうしてだろうか。君塚の言葉からどこか焦燥感のようなものを感じた。
まるで、今日じゃないと遊べない……みたいな。
まぁ気のせいだとは思う。
けれど、どうしても引っかかる。
それは前のあの意味深な言葉のせい。
――『私の本当の姿が悪魔だったとしたら?』
君塚。なにも心配いらないよな?
3
君塚とやって来たのは地元では最大のゲームセンター。
「ゲームセンターか。ここ、よく来るのか?」
「ええ」
「まずは何する?」
「……これを」
君塚は鞄の中からカードケースを取り出した。そこには、所せましと女児向けゲームのカードが入っている。
「須藤君。やったことある?」
「い、いや……興味はあるけどやったことはないな……」
巷では、大きなお友達とか、アイ○ツ!おじさんとか言われる大人が女児向けゲームをやっていると良く聞く。
俺もそのアニメ自体は見ているし、興味はあるが、そんな恥ずかしい真似はとても出来ないと思ってこれまでやってはいなかった。
「カード貸してあげるから、対戦プレイをやってみないかしら?」
「対戦……?」
それは当然、俺があの子供向けコーナーに入ってゲームをするということだ。
恥ずかしすぎるだろ……
どうする!?
「あなた以外に誘える人もいなくて」
俺意外に誘える人がいない……か。
「だめ……かしら?」
少し上目使いで俺を見つめるその姿は殺人的に可愛らしい。
「よ、よしっ、やってやろうじゃないか!」
「さすがは須藤君」
笑顔の君塚。
確かに、隠れオタの俺からすると、女児向けゲームをするなんて信条に反するが、君塚と一緒ならそれもいいかなって気がする。
何より、たまにしか見せない君塚の笑顔が見られたのだ。
ちょっとくらい恥ずかしい思いをしても、これは大収穫だ。
4
「君塚……このゲーム、やりこんでるな……!」
「当然よ」
あれから三回ほど対戦をしたが、俺の全敗だった。
「次は何をやりましょうか?」
「そうだな~」
「……」
「君塚?」
「かわいい」
「へ?」
君塚の視線を追うと、そこにはユーフォ―キャッチャーがあった。
中にある景品は今季のアニメ作品、『魔法少女☆メロ』のストラップだ。
『魔法少女☆メロ』とは、メロとその親友のイブの百合風味アニメだ。
「メロ、見てるのか?」
「ええ。メロたん……最高に可愛いわよね」
「メロ派?」
「ええ」
俺はイブ派だけど、ここは……
「……よしっ! じゃあ、このメロのストラップ取ろうぜ!」
「でも、難しそうね……」
「一時期ユーフォ―キャッチャーにはまってた時期があったんだよ。俺に任せろよ」
「ふふ。ええ」
俺は投入口にコインを入れる。
しっかりとストラップまでの距離を目測し、慎重にクレーンを動かす。
「ああっ!」
もう少しの所でストラップはクレーンをすり抜けてしまう。
「もう一回……!」
もう一度チャレンジするも……
「あ、あれっ?」
また失敗だ……
ゲーセンデートお約束の「あ、あれ欲しい!」「取ってやるよ!」イベントで君塚にいい所を見せたいという思いからか、焦りと緊張で上手くいかない。
「流石メロたん。粘り強いわね……」
横で君塚も悔しそうに言う。
もう一枚コインを入れて挑戦するも……
「だめか……」
またもアームはストラップをすり抜ける。
「まだやるの?」
「ああ。ここまで来てやめられるかよっ!」
絶対にこのストラップを取って、いいところを見せるんだ!
「ふふ。須藤君って案外強情なのね」
隣で君塚がほほ笑む。
俺はなりふり構わず、筐体の横に回り込み、アームを移動させる。
うぃーん。うぃーん。
「あっ!」
「取れた……わね」
よしっ! 遂に取れた!
「可愛いストラップ。苦労したかいがあったわね」
君塚の笑顔に少しドキリとしてしまう。
「き、君塚」
「なに?」
ストップを取ること夢中だったから気づかなかったが、これをプレゼントしなくちゃなんだよな……
これやるよ、と言うだけなのに、それに妙に緊張するのは俺の異性経験の無さゆえか。
「よ、よかったら、これ、もらってくれないか?」
「え……?」
きょとんとする君塚。
「あんなに一生懸命取ったのに、いいの?」
「あ、ああ。ぜひ、もらって欲しい」
「……ありがと」
少しの間の後、君塚は嬉しそうにストラップを受け取ってくれた。
欲を言えば、イブのストラップも欲しかったけれど、財布の状態がよろしくないので、ここは我慢。
「……どうかしら?」
見ると、君塚は早速鞄にメロのストラップを付けていた。
「うん。すごくいいよ」
子供のように笑う君塚のその姿は、どうしようもないくらい可愛らしかった。
5
「次はどうする?」
「そうね……」
そう言って君塚はくるくると回りながらゲームセンターを見回す。
君塚が動くたびに、鞄に着けたストラップが目に入り、少し恥ずかしい気持ちになってしまう。
「麻雀! 麻雀しましょう」
「麻雀か……」
ということで、二人で麻雀ゲームのコーナーに来た。
「君塚、麻雀とかできるのか?」
「ええ」
「女子では珍しいよな」
「……」
「君塚?」
「……あまり女の子っぽくないかしら?」
「いや……そんなことないよ。麻雀で勝ちまくる女の子も可愛いと思うぞ」
「……そうね。そうよね。咲さんも可愛いしね」
二人で並んで座ると、コインを投入し店内通信プレイを選ぶ。
君塚と俺がエントリーすると、すぐに他のプレイヤーもエントリーしてきた。
顔を見えないが、どうやら向かいに座っている人らしい。
『東一局スタート!』
スピーカーからの声と共に牌が配られる。
……。
さぁ、何を捨てるか……
『ダブルリーチ!』
え!?
スピーカーからの声に驚いてしまう。
画面を見ると、どうやら君塚がダブリーをかけたようだ。
こいつ……強いな。
しかも君塚の親番。ここは振り込まないことが最優先だが、手掛かりが少なすぎてどうにもならない。
まぁ……運任せだな。
『ロン!』
……!?
俺の番が回って来る前に君塚があがった。
どうやら、向かいの人が振り込んだようだ。
「くそがっ……!」
声が聞こえる。なんかガラが悪いな……
ばれないようにこっそり覗き込むと、金髪サンガラスのいかにもやばげなオッサンだった。
『一本場!』
スピーカーからの声でゲームに引き戻される。
牌が配られる。
『天和!』
えぇ!?
天和とは、親番の時に最初に配られた手牌がすでにあがりの形になっていることだ。
この役であがることは天文学的確率と言われる。
「君塚……お前、凄すぎだろ……!」
「ふふ。驚くにはまだ早いわよ」
ゲーム画面を見る。
『国士無双!』
なんとそのあがりの形は国士無双……最強の役の一つだ。
その後も君塚はツキにツキまくり連荘。
『ゲーム終了!』
なんと東一局で向かいのオッサンのトビ終了となった。
「イカサマだ!」
ガタン! という大きな音と共に、向かいのガラの悪いオッサンが椅子を倒しながら立ち上がった。
「!?」
俺も君塚も驚いてそちらを向く。
オッサンンがこちらに歩いてくる。
「お前か……!」
オッサンが君塚を睨みつける。
あたふたする俺とは対照的に、君塚は黙ったオッサンを睨み返した。
「ねーちゃんよ~、これイカサマだよなぁ!」
「何を言ってるのかしら? これは卓上麻雀じゃないのよ? まさかプログラムをいじったとでも言うのかしら?」
「なんだとコラァ!」
オッサンがドン! と筐体を叩く。
「女子高生相手にトビ終了で負惜しみなんて……」
挑発するように君塚が言う。
「キサマァァ!」
完全に逆上したオッサンが手を振りかざした。
君塚が驚いたように目を丸める。
バァァァァァッン!!
「須藤……君……?」
「いったぁ……」
気が付けば、俺は君塚とオッサンの間に割って入り、オッサンの拳を受けていた。
顔面を殴られた。頬がじんじんする……
「どうかしましたか!?」
向こうから店員がやってくる。
「ちっ、これで勘弁したいてやらぁ……」
オッサンはそう言い残すと、そそくさと逃げて行った。
俺は店員に事情を話し、ことを大きくするつもりもないので大丈夫だとだけ告げた。
「須藤君……大丈夫……?」
「ん? ああ、たいしたことないよ」
君塚が心配そうに問いかけてきた。
「私のせいで……ごめんなさい……」
「そ、そんな! 俺が勝手にやったことだし! それに、悪いのはあのオッサンだろ!?」
「そう、かもしれないけど……」
「ほら! 大丈夫だから! それより、次、どうする?」
「……なら」
「なら?」
「お詫びに、晩御飯をご馳走させてくれないかしら」
「え……お詫びなんて別に……」
「いえ。ご馳走させて。そうでないと気が済まないわ」
「……そっか。わかった」
気にしなくてもいいのに……
こういう所、君塚って案外律儀だよな。
6
「いらっしゃい! お、久しぶりやなぁ!」
君塚に連れられ、やって来たのは宮部さんの店。
なんとなくそんな気はしてきたが、やはりここだったか……
「まぁまぁ座りいな」
そう言って椅子を勧める宮部さん。
「あ、どうも」
君塚と向かい合うように腰を掛ける。
「じゃあ須藤君、今日は私が持つから、好きなだけ食べて」
「おう。ありがとう」
とは言っても、ここのメニューだと……
「注文はどないする?」
「俺はたこ焼き6個とコーラで」
「あら、小食ね。私はたこ焼き42個とオイスターソースで」
「あいよっ!」
元気よく返事をすると、宮部さんはたこ焼きを焼きに奥の厨房へと消えた。
「須藤君……ありがとうね」
「さっきも言ったけど、気にするほどの事じゃないよ」
「……ううん。今日だけじゃなくて、須藤君にはいつも感謝してる」
「いつも?」
「ええ」
頷いた君塚。
「お待ち~」
宮部さんがたこ焼きを運んでくる。
「あ、どうも」
自分のたこ焼きと飲み物を受け取る。
「ウチ、ちょっと新作の執筆があるから、奥の居間におるわ。帰る時また呼んでな~」
そえだけ言い残すと、扉を開けて奥の部屋に消えて行った。
「新作出せるんだな……」
「ええ。激しく楽しみね」
あの売上で新作を出せることに驚きつつ、たこ焼きをつまむ。
「うん。美味しい」
「そうね」
もぐもぐとたこ焼きを頬張る。
「ねぇ、須藤君」
「なんだ?」
「ジレンマって知ってる?」
「ジレンマ……?」
意味は知っている。
相反する二つの事の板挟みになり、決めかねる状態のことだ。
「それがどうかしたのか?」
「このジレンマに関する面白い逸話があるのよ」
「……うん」
俺は黙って君塚の話に耳を傾ける。
「あるところにハリネズミが二匹いました」
「うん」
「そのハリネズミは恋人同士。互いのことが大好きなのよ」
「うん」
「大好きだから距離を詰めたい。だから、ハリネズミは身体を寄せ合う」
「……」
「けれど、近づけば近づくほど、自身の針で相手を傷付けてしまう」
「近づきたいけど近づけない……だからジレンマ?」
「そう」
君塚が小さく頷く。
けれど、どうして君塚がこんな話をするのか分からない。
「ねぇ、もし須藤君がこのハリネズミだったら、どうする?」
「俺が?」
「……」
君塚が真剣な表情で見つめてくる。
「……」
考える。
好きな人には近づきたい。
けれど、そうすると痛い思いをする。
「うーん。難しくて……よくわからん」
「ふふっ。そうよね」
君塚は少し微笑む。
けれど、その瞳の奥は、どこか寂しげだったような気がする。
次は近いうちに投稿いたします。




